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えぶりでい!  作者: あさの音琴
日常編
29/44

不安3

 今日も早くに目が覚める。昨日と同じように、朝食を作り食べた後はコーヒーを飲みながら奏を待っていた。

 

「遅いな。そろそろ出なきゃ遅刻するし、出るか」  

 

 誰に言う訳でもない。ポツリと呟いてから家を出る。今日も昨日と変わらず快晴だ。

 

 「あれ?」

 

 学校へ向かう通学路の途中に群生している竹林があるのだが、それの雰囲気が全く違う。竹の先の方に何かがぶら下がっていた。全ての竹にぶら下がっているそれは異様な雰囲気を醸し出している。

 

「気持ち悪いな」

 

 それを見ながら俺は歩く。いつもと違う。今朝来なかった奏。昨日マグカップを落としてからの妙な不安。

 

「奏――まさかっ」

 

 俺はすぐに奏に電話を掛けてみるが、どんなに呼び出しても出る気配が無かった。いてもたってもいられなかった俺は奏の家に行こうとしたがそこで思い出す。

 

「奏の家ってどこだ?」

 

 突然立ち止まった俺に周りを歩いていた人達の視線が集まるのが分かったが、気にもならない。小さい頃から一緒にいた奏の家を知らない事。不自然過ぎるそれが俺の不安をさらに掻き立てた。

 

「どうすればいい……」

 

 そうは言ったものの、今の俺にはどうする事も出来なかった。  

 

「とりあえず学校に行ってみて、それからか……」

 

 俺一人では何も出来ない。それなら学校のみんなを頼るしか無い。そう思った。


 俺は走る。全力だ。周囲の目なんて気にしている場合では無い。息も切れて、吸う息に鉄のような何かを感じる。心臓と肺が爆発するのではないかと思うほどだ。

 

 乱雑に教室の扉を開けて中に入る。すでに教室に入っていたクラスメイトが不思議な物を見るような目で見てくるがこれも関係無い。俺は委員長の元へと向かった。

 

「ハァハァハァ……」

 

「ど、どうしたの? 何かあった?」

 

「ハァハァ……か、奏が」

 

 息が切れて上手く喋れない。頭も少しボーッとしており、思考が追い付いて来なかった。

 

「西条君。落ち着いて。相澤さんがどうしたの?」

 

 額から汗が流れる落ちるのが分かる。額からだけでは無い、全身から吹き出すように汗をかいていた。

 

「奏と連絡が着かなくて――それが心配で」

 

「何か心当たりは無いの?」

 

 奏が学校を休んでまで行く場所? 分からない。奏は学校をサボるような奴では無い。

 

「どうしたんスか? たっちゃん」

 

「奏が……奏がいないんだ」

 

 焦っている俺を竜二が見て声を掛けたようだった。錯乱している俺は奏がいないと言う事しか出来なかった。


「奏スか? 奏なら今日からしばらくは学校に来れないって言ってたっスよ? たっちゃんは聞いてなかったんスか?」

 

「しばらく学校に来れない? 聞いて無いぞ」

 

 俺は奏からそんな事は一言も聞いていなかった。竜二はどうしてそれを知っているのだろうか。

 

「奏の事っスから言い忘れてたんスかね」

 

「天野君はどうしてそれを知っているの?」

 

 俺は落ち着きを取り戻してきた。そして、俺の聞きたかった事を委員長が聞いてくれる。委員長からしても、どうして竜二が奏のしばらく学校に来れないという話を知っているのかを知りたかったのだろう。 


「日曜日に遊んだじゃないスか。その時に学校の話題になって、奏が話してたんスよ」

 

 俺の取り越し苦労だったのだろう思うとホっとする。奏のマグカップを割ったり、今朝、変な物を見たせいで不安になっていたのだろう。そして、俺の携帯のバイブが鳴る。奏から連絡が来たのかもしれないと思いすぐに開いた。

 

 メールは奏からだった。 "電話に出れなくてごめんね! 休むって言うの忘れてたよ" 竜二からの話だけでなく、奏本人と連絡がついた事で、俺は一気に脱力感に見舞われてしまった。

 

「奏からだった」

 

 俺の言葉を聞いて、安心したように息を吐く委員長。奏が休む事を知っていた竜二は心配などしていなかったようにも見えたが、俺が安心出来たという事が嬉しかったのか笑っている。

 

「まぁ、その……良かったスね。何も無くて。ところで、どうしてそんなに焦ってたんスか?」

 

「それは私も気になるわね」

 

 奏の事が心配で焦っていた自分を思い出すと、とても恥ずかしく思える。穴があったら入りたい。本気でそんな事を思う瞬間が来るなんて思いもしなかったのだが、奏が無事だったからそう思えるのは幸せな事なのかもしれない。

 

「実は、昨日奏が使ってたマグカップを落として割ってしまったんだよ。それが妙に印象に残ってたんだけど、竹林あるじゃんか? あそこの竹林の竹に変な物がぶら下がってて、気味悪くて。それで、何か嫌な予感がして、奏に電話をしても出ないし、それなら奏の家に行こうと思ったら奏の家を知らなくてさ。学校で情報を探るしか無いって思うといても立ってもいられなくなったんだよ」

 

 恥ずかしさもあって少し早口になってしまったが、思った事を全て吐き出す。なんだか、モヤモヤしたものも一緒に吐き出した感じだろうか。

 

「そりゃ不安にもなるっスね。それよりもたっちゃんが奏の家を知らなかった事に驚いてるっスけど」

 

「自分でも驚いたよ。幼馴染みのくせに家も知らなかっただなんて」

 

 俺が奏の家を知らなかった事実。今の今まで気が付かなかったが、思い返せば、気が付くと奏がいて、奏が俺の家に遊びに来ていた。奏の家の場所なんて考えた事も無かった。

 

「私は西条君が相澤さんの家を知らなかったという事よりも、竹林の事が気になるわね。竹の花が咲いていたのだと思うのだけれど、竹の花って100年に一度だけ花を咲かせるらしいから見に行きたいわね」


 委員長が言うには100年に一度だけ咲くという竹の花。話だけ聞いて見ればロマンチックのようにも思えるが、あれが竹の花だとすれば、とれもロマンチックだとは言えない思う。

 

「今日、学校終わったら行きたいスね」

 

「それじゃ、近所だしみんなで見に行くか」

 

 朝に限って言えば、奏の事もあり慌ただしかったが、その後からはいつもと変わらない学校で、一日の授業が終わり、宿題を学校で片付けてから、俺、竜二、委員長で近所の竹林へ向かった。

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