仲間6
俺と委員長、そして環は繁華街まで来ていた。休日ということもあって、河川敷以上に人が賑わっている。俺は湿ったお尻をさすりながら歩いている。摩擦で早く乾かないかと期待を持って。
「そんなに尻が気になるのか? 考えも無しにあんなところに座るからだ」
「うるせぇ。俺だって芝生が濡れてるなんて事、考えて無かったんだよ」
パンツまで染み込んだ水分はとても気持ち悪い。しかも、お尻の部分だけ湿っているため、それが目立つ。
「西条君が以外とおっちょこちょいだって事は分かったわ」
委員長にまで俺は笑われる。周りを歩いている人は誰も注目なんてしないだろうが、知らない人に笑われているのではないかと気になって仕方がない。
「俺の事なんかより、お腹空かないか? なんか食べようぜ」
「そうだな。もう昼も近いし、店が混み出す前にどこかに入るか」
委員長に目配せすると何も言わずに頷いた。委員長も賛成という事だろう。俺たち3人は適当な店を探す。
「何か食べたいものとかあるか?」
「私はなんでもいいわよ」
「ファミリーレストランというものに私は興味があるな」
委員長はあくまでも自己主張をするよりも合わせるといった感じか。本当になんでもいいのかもしれないが。環はファミリーレストランに興味があると言う。ファミレスに入った事すら無いようだ。
「んじゃ、あそこにするか」
俺は安さが売りのチェーン店を指差した。表通りの人目の付きやすい場所に店を構えている。
「分かったわ」
「おお。私はなんだかドキドキしてきたぞ」
委員長は一歩引いた感じで、環はぐいぐいと引っ張っていくタイプだ。委員長と環が談笑したりしているのを見ていると、この二人は以外と相性が良いのかもしれない。
お昼より少し早めの時間という事もあって、ファミレスはまだ人もごった返すような事も無く、俺たちと同じように早めに店に来て席を確保しておこうと言った感じの人達だろうか。それでも半分くらいの席が埋まっているのを見ると、早めに店に入ろうと提案したのは良かったと思う。
俺達は店員から案内された席へ座る。俺と委員長が向かい合い、環は俺の隣では無く、委員長の隣に座っていた。
いつもは入らない店に興味があるのか環はキョロキョロと辺りを見回している。委員長はメニューを取り出して環に話しかけている。
「環は何を食べるの? 私はグラタンにしようかと思っているけれど」
「そうだな。ガッツリとステーキでも食べよう」
そんな二人を見ながら俺は適当にメニューを漁り、カルボナーラを頼む事にした。呼び出しボタンで店員を呼び、それぞれが食べたい物とドリンクバー注文する。
「それじゃ、ドリンクを取りに行くか」
「そうね」
「達弥は待っていろ。私が持ってきてやる」
俺がドリンクを取りに行こうとすると、環が俺に待っていろと言う。環のその目はなにかを企んでいるような。そんな目をしていた。
「いや、俺も行くから」
「大丈夫だ! 心配するな」
心配するなと言われると逆に心配をしてしまう。環のやろうとしている事が頭に浮かぶからだ。
「西条君。私も行くのだから安心して」
委員長にそう言われると俺も行くとは言いにくい。環は勝ち誇った目を俺に向け、両手を腰に当てて胸を張っている。
「わ、分かったよ。待ってればいいんだろ?」
せめて、飲める物をと祈りながら俺は待つ事に決めた。委員長では環を止める事は出来ないだろう。
環が得体の知れない何かを持ってくる事は分かっている。そんな奴だ。少しソワソワしながら待っていると、はちきれんばかりの笑顔をした環、そして委員長だ。その顔を見た瞬間、俺は悟る。この二人がグルだったと。
「ほら、持ってきてやったぞ」
「ごめんね。西条君。私には環を止める事が出来なかったわ」
「何を言っている。翼。君もノリノリだったじゃないか」
委員長もそんな事するんだなと思いながら、この世の物とは思えない色をしたドリンクを見る。色の表現の仕方が分からない。そんな色をしていた。
「ほら。せっかく持ってきてやったんだ。飲むといい」
「くっ……分かったよ。飲むよ」
ゴクリと唾を飲み、自分の喉仏が上に上がるの感じ、一呼吸置いてから俺はそれを口に含んだ。
一瞬、世界が止まり、モノクロに変わった気がした。グラスから俺の口に流れていったそれは口の中で芳醇な香りとともに程よい酸味が加えられ、炭酸が口の中で踊る。後になってから、まろやかな甘味が口の中で主張をしだし、最後にはそれが絡み合う。何を混ぜたんだ……一体。
「どうだ? 美味いだろ」
「……美味くねぇよ。なんだよこれ! どこの悪魔がこんな物を」
次々と己を主張し、我こそが主役だと踊り出る味たちに何とも言えない気持ちになる。捨てるのは忍びない為、グラスに残ったドリンクを一気に飲み干して、俺は新しいドリンクを取りに行った。
戻ってくると、委員長も環も笑いを堪えているといった風に見える。それからこの、魔ドリンクの話などで盛り上がっていると、料理が運ばれてきて、それぞれが食べ出した。
「このステーキは多少固いが食べられない味ではないな。値段と比較してもそれ相応の味と行ったところか。まずくはないぞ」
環は自分の頼んだステーキを批評しながら、委員長はそれをうんうんと聞きながらグラタンを食べていた。俺の頼んだカルボナーラは美味いけれど、それだけと言った感じだ。普通に食べられる。
食事を終えた俺たちは少し談笑をし、支払いを済ませてからファミレスを出る。ファミレスを出た時に見たことのある顔が歩いているのが目に見えて、それを追いかけた。




