仲間5
昨日、環たちが帰ったあと、俺はすぐに部屋に戻り、なにをする訳でもなく過ごした。今日は委員長に傘を返しに行こうと思い立って、傘を返しに行くとメールで伝えた。すぐに委員長から返事が来て、その了承を得る。
俺は傘を返しに行くという名目ではあったが、委員長に会えるということが嬉しくてたまらない。無難な服を選んで家を出る。
昨日とは打って変わって今日はとても良い天気だ。雲一つ無い、と言いたいところではあったがそうでも無い。快晴とは言い難い天気ではあるが青空も覗いている。委員長をデートに誘ってもいいかもしれない。
女の子らしい傘を片手に委員長の家へ向かう。昨日は午後から雨が上がったとはいえ、夜中に少し降ったらしく道路は濡れていた。
委員長の家の前まで着いて、俺は委員長に電話をかけた。何秒かプルルルルと鳴ったところで委員長が出る。
「もしもし。加藤です」
「もしもし。西条だけど、家の前に着いたよ」
「あっ。分かったわ。すぐに行くわね」
少し待っていると委員長が家から出てきた。派手過ぎない地味目の服だったが、委員長には似合っていると思う。
「傘、ありがとな」
俺はそう言って委員長に傘を手渡した。
「そうだ。西条君もせっかく出てきたんだし、少し出掛けない?」
「お、おう。いいぞ」
自分から誘おうと機会を伺っていたら、委員長から俺を誘ってくれる。少し戸惑ってしまったが、俺も委員長を誘おうと思っていたのだから、断る理由は無い。
「ちょっと待っててね」
委員長はそう言って一旦家の方に戻るとすぐに戻ってくる。傘と引き替えに鞄を肩にかついで戻ってきた。
「お待たせ」
「どこか行きたい場所とかあるの?」
俺は特に行きたい場所なんてものは無かったから、委員長の行きたい場所を聞いてみる。
「んー。特に無いかな。西条君は無いの?」
「俺も無いよ。どうすっか。適当にぶらついてみる?」
女の子と出掛けるなんてこと、奏と以外にしたことが無いため、なにをすれば良いのかも分からない。少し調べてみれば良かったと後悔したが、後悔してももう遅い。
「そうね。散歩でもしながらお話すればいいかしら」
「それじゃ、繁華街の方に向かって河川敷を歩いて行くか」
俺たちは、ゆっくりと話ながら歩く。今日の河川敷は一昨日と比べて人が多く、賑わっていた。俺たちと同じように二人で歩くカップルや家族連れ、ランニングをしているおじさんなど様々だ。
「ここでさ、変な子と出会って友達になったんだよね」
「変な子? どんな子なのかしら?」
この河川敷で起こった環との出会いから昨日のことなど身振り手振りを交えて話す。委員長はそんな話を興味深めに聞いていた。
「へぇ。三住財閥のね。そんなすごい子と友達になるなんて、西条君てすごいのね。木曜日にここで知り合ったということは学校をサボったということなのね」
「い、いや」
一昨々日の事は言わなければバレない事だったのに、一昨日、環とこの河川敷で知り合ったと言った事で俺のサボりがバレてしまう。
「学校をサボるのはよくないけれど、終わった事だし、次から気をつければ良いんじゃないかしら」
委員長は笑って許してくれる。確かにやってしまった事実は変わらないし次から気をつければ良い。昔から委員長は俺に厳しいようで優しく接してくれている節があった。そんな委員長だから惚れたのだと思う。
「おお。達弥ではないか。こんなところで何をやっているんだ?」
噂をすればなんとやら……委員長とのデート中にも現れる俺の運命の友。環だ。
「西条君。この方は?」
「えっと……この子がさっき言ってた変な子の環だよ」
「達弥の変な子という紹介はいかがなものかと思うがな」
俺を笑顔で睨みつけた環ではあったがその視線に悪意は感じない。
「ところで環こそ一人でなにをやってるんだ? 美鈴さんはどうした?」
「私か? 私はただの散歩だ。私には一緒に遊ぶような友達が少ないのでな。こうやって散歩をしては暇を潰しているのだ。美鈴は今は家の事をやっているぞ?」
寂しいことを言いながらも胸を張る環。委員長ほどでは無いが環の胸も小さくはないので、その部分が強調される。
「あ、あの……私は加藤翼と言います。西条君とはクラスメイトで仲良くさせて頂いています」
「翼というのか。達弥の連れならば、それは私の友達だな。堅苦しいのは嫌いだから敬語はよしてくれ」
「わ、分かったわ」
委員長も環の存在感には圧倒されているように見える。三住というネームバリューに環の偉そうな口調も相まって圧倒されるのも仕方の無い事かもしれない。
環は俺の側へ近寄って耳元で囁く。
「この女が例の子か? なかなか可愛い女じゃないか」
「うるせぇ。変な事言うなよ?」
このまま放っておくと、なにを言い出すか分かったものではない環に念を押す。ニヤけた顔をした環には今の状況が楽しいのだろう。
「三住さんも一緒に出掛ける?」
「お? いいのか? 私のことは環でいいぞ。よろしくな翼」
こうして、俺の委員長との初デートは環の登場という形で幕を下ろした。俺の事を応援すると言いながら空気の読めない環と俺たちは合流するという事になる。
俺はゆっくりと斜面の方へ行き、午前中から黄昏れるようにその芝生に腰を降ろした。降ろした瞬間から俺は後悔をする。
たとえ、どんなに空は青くても、雨の降り続いた翌日の芝生の上に残る雨粒が俺のズボンを濡らしたからだ。




