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えぶりでい!  作者: あさの音琴
日常編
23/44

仲間4

 環とともに食卓についた。美鈴さんがそれに合わせるように朝食を持ってきてくれる。タイミングを見計らったように椅子に座った瞬間だ。朝食なのにも関わらず、丁寧なことにドームカバーを使い保温してくれていたようだ。


 ドームカバーが外されて出てきたのは食パンにハムとチーズがサンドされ、その上に黄身の部分が半熟な卵が乗っていたものだった。


「クロックマダムという料理でございます」


 美鈴さんはそれだけ言うとすぐにその場を離れた。コーヒーか何かを持ってきてくれるのだろう。


 ナイフとフォークが準備されていた為、それを使う。朝食からナイフとフォークを使うなんて初めてのことだ。いつもは適当にパンをトーストしたものにジャムだったりマーガリンだったりを塗ってかぶりつくように食べていた。


 先に半熟になっている卵の黄身をナイフで割る。すると、卵の黄身がパンを包み込むように流れていく。それだけで食欲をそそられた。フォークでパンを指し、ナイフで切る。チーズもとろけてパンやハムと絡み合っている。俺はそれを口に運ぶ。


 ハムとチーズの塩気が踊る。程よい塩気とチーズの匂いが食を進ませた。シンプルでありながらも自己を主張するハムとチーズ。それを補うかのような卵の黄身のまろやかさ。こんな朝食は初めてだ。


 少ししてから美鈴さんが戻ってきた。持ってきたのはコーヒーでは無くカフェオレ。熱すぎないカフェオレはほんのりとした甘さで、クロックマダムの塩気の利いた味とカフェオレの甘さがマッチしている。


「美鈴さん。ありがとう。美味いよ」


 俺がそう言うも、美鈴さんはそれが当たり前だという表情をする。雰囲気からも分かるように美鈴さんは頭脳明晰でもある思うし美人だ。まさに才色兼備とは美鈴さんの為にあるような言葉だと思う。


 それから、環となんでもない会話をしながら朝食を食べ終わった。環は朝食を食べるにつれてだんだん目が開いて行き、食べ終わる頃にはいつもの環に戻ったという感じだ。


「今日はずっと雨なのかな?」


 昨日の午後から降り続いている雨は止む気配が無い。もしかすると、このままずっと降り続くのでは無いかと思うくらいだ。


「午後には雨は上がるらしいぞ? 達弥。君はそういった情報に疎いようだな。情報とは武器にもなるのだから、些細な情報でもしっかりと把握するべきだと思うぞ?」


 これに関しては環の言う通りだと思う。些細な情報。委員長はどんな食べ物が好きなのか。どんな趣味があるのか。これだけでも会話は広がるし、委員長を振り向かせることが出来るかもしれない。


「また顔がだらし無くなっているぞ。分かりやすい奴だな」


 俺は知らないうちに顔がニヤけていなのかもしれない。委員長のことを考えると自然とニヤけてしまう。


「そ、そうか? ははは」


 取り繕ったように笑うも、それも環にはバレバレのようで、笑われてしまう。こんな話題になったときに限って、俺の携帯からメールを受信したと、携帯のバイブが俺に知らせてきた。 "おはよう。西条君は休みの日は早起きなんだね" 素早くメールをチェックすると、委員長からだった。委員長からのメールは嬉しい反面、皮肉を交えたような内容だ。それに環は俺が携帯を開くという動作をしたときからニヤニヤとしている。


「環もだらし無い顔してんじゃん」


 環を一瞥して携帯に視線を戻す。環の顔を見た瞬間から俺は環が考えていそうなことを予想する。誰からメールが来たんだ? こう思っているに違いない。


「携帯のメールチェックはあまりしないと言っていたのに嬉しそうに携帯を見ているな。例の子なのだろう?」


 人の恋路で遊んでくれるな! そう言いたいのだが、それを言うと環が調子に乗りそうなので辞めておく。


「うるせぇ」


「ということは正解なのだな? どんな子だ? ほら。私に教えてみろ。達弥と私は友達なのだから友達の手助けをしたいと思っているんだ」


 どういうことで正解なのか分からないが環にはメールの相手が分かったらしい。メールの返事を考えているというのに煩いものだと思う。環の顔を見るとその目はもういたずらっぽい目だ。手助けをしたいと思っているならもっと真剣な顔で言って欲しいものだ。その顔で言われても説得力の欠片も無い。


「うるせぇ」


「つれないなぁ」


 環の言葉無視しつつメールの内容を考える。外から色々言われ集中も出来ない為、上手く言葉を考えられない。


「なにか悩んでいる様子だな。私が返事を考えてやるぞ」


「休みの日は早起きなんだねって来たんだよ」


 しつこい環に俺は観念して、メールの内容を伝える。これは環からの逃亡だ。メールの内容を知らせることによって、これ以上の追求を逃れる。まさしく、己の肉を切らせて骨を断つ。なんか違うような気もするがそんな感じだ。


「そんなのは簡単ではないか。昨日早く寝たから、早く目が覚めたんだって送ればいいだけだ。ユーモアを効かせて早寝早起きは三文の得だしなと付け加えればパーフェクトじゃないか?」


 早寝早起きが三文の得なんてどの口が言ってるんだ。環は昨日夜更かししていたはずだ。自分のことを棚に上げてよく言ったもんだ。


「送った。早寝早起きのくだりは送ってない。環には言われたくない」


「強情な奴だな。ユーモアを言える男はモテるぞ?」


「今までそんなことを言わなかった人間が急に言い出したら気持ち悪いだろ」


 それも一理あるなと言い笑う環。俺たちはメールが届く度に同じようなやり取りを繰り返し笑いあった。委員長とメールをしたり、環とゲームをして惨敗を繰り返したりしながら過ごし、気が付けば夕方になっていた。ちなみにお昼はカレーだった。


「おっと、もうこんな時間か。私はそろそろ帰るとしよう。楽しかったぞ! 達弥」


「お、今日は帰るのか。気をつけるんだぞ」


 環が帰るとなると、案外寂しい気持ちになったりする。普段は一人で過ごしてはいるが、賑やかに過ごすと一人になると思った途端にそんな気持ちが溢れてきた。


「では、達弥。ありがとう。また来るぞ」


 軽口を言い合いながら玄関の外まで環と美鈴さんを送る。二人の背中を見送ったあと、俺は静かになった家に戻っていった。

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