仲間3
"いいえ、困ったときはお互い様だから、私が困っときはよろしくね" メールを確認した俺はすぐに返事を書く。委員長からのメールが嬉しくてニヤけてしまった。
「ほう……達弥よ。そんな情けない顔をしてどうしたのだ?」
リビングで環がテレビに夢中になっていたはずだが、不覚にも環にニヤけた顔を見られたようだ。
「い、いや……少し面白い内容だったからな」
「私にはそうは見えなかったがな。どうせ女とメールのやり取りでもしているのだろう? 私のメールは放置するくせに現金な男だな」
どうして環にはそれが分かるのだろう。俺が委員長。そう、女子と一緒に帰ったということも分かっているようだし、俺の情報が筒抜けなのか? そう思い美鈴さんの方を見てみる。美鈴さんもある程度の仕事は終わっていたようで、くつろいでいるように見えた。
「私の顔に何かついているのでしょうか? 達弥様」
「な、なんでも無いです」
「その態度が図星だと教えているようだな」
美鈴さんを見た俺の態度を見て図星だという環。そんなにおかしな行動だったのだろうか。
「まず、男同士で相合い傘なんて、よほどのことが無い限りしないであろう? しかもだ、達弥の持っていた傘は男が使うには可愛らしい色合いをしていた。どこの男がそんな可愛らし色合いの傘を持ち歩くだろうか? そんな男は絶対では無いがほとんど見かけないからな」
確かに、委員長から借りた傘の色は薄いピンク色だった。可愛らしいキャラクターがワンポイントでプリントされてあるし女の子らしい傘だった。
「お、俺たちは "友達" なんだから、そこまで突っ込まなくてもいいだろ?」
俺と環は友達だ。さっきそれを確認できたはず。なぜ、ここまで言及されなければいけない?
「ああ。友達だ。だがな、それとこれとではまた話が違ってくるであろう? 友達として達弥を応援してやろうというのだ。ありがたく思え。そして、その相手は奏か?」
「お嬢様。達弥様の想う人は奏様では無いように思われます」
美鈴さんはどうしてそれを当てられるのだろうか。まさか女の勘? ってやつなのか?
「なるほどな。奏では無いか」
ぶつぶつと呟きだした環は何かを思案するように手を顎に当てる。環にも美鈴さんにも俺の恋路なんて関係の無い話だろうに。
「お嬢様。恐らく、私たちの知らない人物でございます。調査しなければなりませんね」
「そうだな。頼むぞ。美鈴」
環の美鈴さんへの信頼と美鈴さんの環への忠臣。この二人の絆は深いようにも見えるがなにか理由でもあるのだろうか。これを聞くのは野暮なことだと思うが。
「だあ! 勝手にしてくれ! 俺はもう寝るから部屋に行くからな」
「私も一緒に寝なくて良いのか? 一人では寂しいであろう?」
寂しいとか寂しくないは関係ない。環のいたずらっぽい笑みが憎たらしくも見える。
「一緒だと俺が眠れないわ!」
「つれないな」
「お嬢様。お戯れが過ぎるかと」
よく言ってくれた! 美鈴さん。環はお戯れが過ぎるんだ。もっと言ってやってください。
「明日は休日というのにもう寝てしまうのか。寂しいではないか」
俺は環の演技には騙されない。環には美鈴さんもいるんだ。寂しい訳が無いだろう。
「夜更かしは肌に毒だぞ。それじゃおやすみ」
「それを言うな。また明日だな」
「ゆっくりとおやすみ下さいませ。達弥様」
俺はすぐに部屋に戻る。委員長と何度かメールのやり取りをしつつ、眠くなるのを待った。環が突撃してくるかもしれない。これは有り得ない話では無いと思う。環はそんな奴なのだから。
竜二との再開、再開でいいのか分からないが竜二との再開、委員長との下校。環や美鈴さんとのやり取り。今日は本当に良い日だったと思う。
「こんな日常も悪くないな」
ベッドに横になって、布団に包まれつつも、つい口に出てしまった。本当に毎日がこんな日常なら楽しいんだろうなと。そんなことを思っていると、いつの間にか俺の思考は定まらなくなり、眠りに落ちていった。
俺は自然と目が覚める。隣には誰もいない。どうやら環の突撃は無かったようだ。時刻は6時50分を過ぎた辺りだ。
「んん……はぁ。やっぱ雨か」
軽く伸びをし、カーテンを開けてみると天気予報の通り、今日も雨のようだった。気にしなければ何とも思わなかったが、雨だと分かると家の屋根に当たる雨音がハッキリと聞こえてくる。 "おはよう。今日も雨だね" 委員長にメールを送る。委員長とのメールのやり取りが楽しいのだ。
パジャマ代わりに使っていジャージのままリビングへ降りる。リビングに行くと、美鈴さんはすでに起きており、朝食の準備をしていた。
「おはようございます。達弥様。もう少しで朝食の準備も整いますのでお待ち下さい。お嬢様を起こして参ります」
美鈴さんは出来る人なのだろうと思う。自分の出来る全てを環に捧げているといった感じなのだろうが、それにあやかれる俺は案外ラッキーなのかもしれない。
俺は朝のコーヒーを飲みながら二人が来るのを待っていると、先に美鈴さんがやってきて、その後、パジャマ姿の環がリビングに来る。目は開いておらず、フラフラしてるのが危なっかしい。普段の環を見ていると、そのギャップが面白く見えた。
「おはよう。ふぁあ。眠い」
これが本来の環の姿なのかもしれない。普段の環は常識は無いが同い年の俺から見てもしっかりとしているし、気丈な雰囲気を持っている。それが今の環には見えなくて、年相応といった感じだ。
「おはよう。寝癖すごいな」
「ふぁあ。起きた直後なんだから仕方ないだろう」
何度も欠伸をする環だが、その目はいっこうに開く気配を見せない。もしかすると結構遅くまで起きていたのかもしれない。
「昨日、遅くまでテレビを見ちゃって夜更かしをしてしまっら」
「お嬢様。達弥様。朝食の準備が整いましたので食卓の方へお越し下さい」
美鈴さんにそう言われ、環はフラフラと食卓へ向かっていく。俺はその後ろを追いかけるように食卓へ向かっていった。




