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えぶりでい!  作者: あさの音琴
日常編
2/44

日常2

「というわけで、説としては、用不用説と自然選択説があるわけですね」


 わけの分からない生物の授業を終えて、昼休みになった。俺は弁当は作らないから、購買でパンを買うつもりだけれど、そこに奏がやってくる。


「たっちゃん! たっちゃんはいつも購買行ってるよね? 今日は私がたっちゃんの分のお弁当も作ってきたから一緒に食べよ」


 なんの気まぐれなのか、気分なのか、奏はたまに俺に弁当を作ってきてくれる。今日はその気まぐれの日だったようだ。


「マジか。ありがとうな」


「それじゃ、食べよう! あっ。翼ちゃんも一緒に食べようよ」


 奏は一人で弁当を食べようとしていた委員長を呼び、昼食を一緒にと提案した。俺としては奏と二人で食べたかった。むしろ、朝から俺と委員長は雰囲気が悪いのだ。全面的に俺が悪いのだとは思うが、委員長の豊満な胸が一番悪いのだと思うことにした。


「あら。相澤さん、ありがとう。それじゃご一緒させて頂くわね。西条達弥君も一緒にというのは気分が乗らないけれど……」


 俺の委員長への心証は最悪のようだが、奏の提案を断らない所を見ると、委員長は人が良いのだろうか。クールで一匹狼な印象もあるが、俺への悪態の割には満更でも無いような表情だ。むしろ少し微笑んでいるようにも見える。いつも笑っていれば可愛い顔をしているとも思うのだが。


「それじゃ食べよ! いただきまーす」


 奏の言葉を合図に俺たちは弁当を開け、食べはじめる。奏の作ってきた弁当は卵焼きに、タコさんウインナーと定番のものが入っていた。


 奏は一心不乱に弁当を食べる。この食い意地はどこから来るのだろうか。俺と委員長は会話もなく、雰囲気は良くない。俺はなにか話題でも……と思い、ウトウトと船を漕いでいたため、授業をろくに聞いていなかったのを思い出し、授業についての話題を振った。


「ところでさ、乾先生の言ってた用不用説と自然選択説の解説がよく分からなかったから教えてくれよ。委員長」


「……あら。西条達弥君は授業もろくに理解出来ないほど頭の出来が悪いのね。でも、改めて質問するなんて、その向上心は認めてあげるわ」


 少し間を置いて委員長は俺への皮肉を忘れずに言い放つ。確かに俺は勉強も得意ではないし、授業中、先生の声が子守唄に聞こえてしまい、ウトウトしていたのも事実ではあるが、酷い言いようだ。


「用不用説がラマリク? だっけか。自然選択説がダーウィンってのは理解してるんだけどな。用不用説が遺伝で、自然選択説が突然変異? てのはなんとなく理解出来たんだけど、その解説がよく分からなくて」


 なにか話題を……と思い、先程の授業で聞いていなかった解説部分を委員長に質問すると、委員長は箸を止めて解説をしてくれる。もちろん胸を張って、自分の胸を強調しながらだ。俺は委員長の胸をチラチラと見ながら、委員長の解説に耳を傾けた。


「そうね……それじゃ、よく引き合いに出されるキリンを例に出すわね。まずはラマリクの用不用説から。キリンは背の高い木の枝に生えた葉を食べるのは分かるわね? キリンは元々は首が長くなくて、木の枝についた葉を食べるために子供の頃から首を伸ばし、葉を食べたの。その子供のキリンが首を伸ばし続け、大人になった結果、キリンは首が長くなって、その首の長くなったキリンが子供を作り産む。そうすると、親からの遺伝でその親よりも少しだけ首の長い固体が産まれるの。それが長い年月を掛けて今のキリンの姿になった。これがラマリクの言う用不用説よ」


「ということは用不用説ってのは生きていく中で必要になった結果、今の形に至るって理解でいいのか?」


 委員長の説明は少し長くも感じるが、キリンを例に出すことで分かりやすくなんとなくではあるが理解は出来た気がした。


「そういうことで良いんじゃないかしら? 次はダーウィンの自然選択説ね。こちらもキリンを例にすると、キリンの祖先は首が長いものも短いものもいたの。首の長いものは容易に木の枝の葉を食べることが出来て、短いものはそうでなかった。結果、首の長い固体がアフリカのサファリでは優位で首の長い固体が残っていって今の形になったって所ね」


 俺には到底理解出来なそうに無いことをスラスラと解説する委員長は本当に頭が良いのだと思う。俺が委員長の解説で理解出来たことは生存競争に勝ち残ったのが今のキリンであり、今を生きる生き物の形なんだということだ。


「委員長はすごいな。俺にはそこまで理解出来ないや」


「ふふ。西条君。一つだけ認識の違いを指摘すると、ダーウィンの自然選択説は突然変異では無くて、変異の結果、その環境に適応したもの。と解釈する方が適切だと思うわよ。テストには深い所まで出ないでしょうけれど」


 委員長は俺に対しての解説を終えると、再び箸を進める。俺も途中で止めていた箸を動かし、食事を再開すると、弁当を食べ終わったであろう、いつもニコニコしている奏が一瞬真顔になって言う。


「ミッシングリンクって知ってる?」





 


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