再会6
「やっぱ雨はやまないか」
土砂降りの雨は降りつづけていた。傘を持っていない俺はこのまま帰るのも嫌になるほどだ。
「西条君? 良かったら傘に入る?」
「ありがとう。でも、委員長も濡れちゃうだろ?」
校舎内の下駄箱で足止めを食らっていた俺に委員長が声を掛けてくれた。それは嬉しいことなのだが、委員長も濡れてしまうと考えると気が引けてしまう。
「こんな雨だから傘を差しても濡れちゃうし、それだったら関係無いわよ?」
「そうか。委員長がそう言ってくれるなら甘えようかな。傘は俺が持つよ」
さすがに委員長に傘を持たせるのは忍びなく思い。俺が持つことを提案すると、委員長は俺に傘を渡してくれた。傘を渡してもらうときに、手を手が触れ合いドキドキしてしまう。委員長の手は俺の手よりも少し冷たく感じた。
「西条君とは中学時代から一緒なのに、なんだか新鮮ね」
「そうだな。委員長と二人きりっていうシチュエーションが今まで無かったから俺も新鮮だと思うよ」
委員長とは帰る方向が同じだ。委員長の家と俺の家は割と近く、歩いて5分といった所だ。近所と言えば近所なのだが、学校以外で委員長を見たことが無い。
「委員長ってさ。休みの日とかは何をしてるの?」
「休みの日? 家にいることが多いわ。たまに相澤さんと買い物に行ったりもするけれど、家で勉強したり読書したりしてるわね。一人でいることが好きというわけでも無いのだけれど、私は友達とか少ないから……」
友達が少ないのは知っている。学校でも一人でいることが多く、クラスメイトたちも委員長と全く話さないわけでは無いが必要最低限の会話しかしていないイメージだ。
「西条君はどうなのかしら? 休みの日とか」
「俺? 俺は一人で散歩に出掛けたり、洋介と遊んだりしてるかな。奏が家に押しかけて来て、好き勝手したら帰ったりとか。俺も一緒に遊んだりする友達少ないんだよ」
今さらなのだが、俺は本当に友達が少ない。基本的に一人でいることも多いし、洋介は俺に比べると交遊関係は広いから俺と洋介が遊ぶってことも少ない。自分から誘ったりしないのが原因なんだろうけど。
「西条君も友達が少ないのね」
軽く微笑みながら言う委員長は俺も自分と同じように友達が少なくて安心しているのか、友達が少ない者同士で話せるのが嬉しいのか分からないけれど、委員長の笑顔がすごく綺麗に見えた。
「委員長も俺も同じだな」
「それは違うわ。西条君は私とは違うのよ。私がいじめられていた時の話があったじゃない? その時、西条君から私を助けようって言ってたって相澤さんが言ってて、西条君はすごいなって思ったの。天野君も言っていたけれど、すごく勇気のある人なんだって」
委員長からそんなことを言われると、少し照れ臭い。あの時は委員長が嫌がらせをされてるって知って、そんなのはおかしいと思って行動しただけだ。結果的にいじめの矛先が俺に向いたけど、奏と洋介が俺を守ってくれた。そんなことを言うのは野暮だから言わないが。
「勇気とかそんなんじゃないさ」
そう言って笑ってみせる。俺が笑うと委員長も笑ってくれた。俺が委員長のことを好きだって意識してから、俺と委員長との距離がぐんと縮んだ気がする。奏のダサイダーパンチで委員長への想いを気付かされ、ダサイダーVというきっかけがあったからダサイダーVには感謝しなければならない。
それから、勉強の話や先生の話なんてしながら歩いていると、すぐに委員長の家に着く。俺の家よりも委員長の家の方が学校から近いため、仕方のないことなのだが寂しく思う。
「委員長ありがとな。そ、その良かったら今度遊ぼう。一緒にどこか行ったりさ」
「デートのお誘いかしら? ええ。私で良ければ一緒に遊びましょ」
「俺さ、委員長の携帯のアドレスとか知らないから、よ、良かったら教えてくれないかな」
肝心なときにどもってしまうが上手く言えたと思う。奏に委員長の連絡先を聞けば簡単だったのだろうけど、俺は自分で委員長と連絡先の交換をしたかった。
「私も連絡先を交換したかったから嬉しいわ。連絡先の交換をしましょう」
委員長の家の前で、雨の降る中であったが、委員長は快く了解をしてくれて、その場で連絡先の交換をする。
「西条君このまま帰ると濡れちゃうでしょ? 私の傘を使ってちょうだい」
「お、いいのか? ありがとな。委員長。ちゃんと返しに行くから!」
委員長から傘を受け取り、その傘を差して帰る。委員長は玄関から俺を見送ってくれていた。そんな委員長に手を降って、家に帰る。たった5分しか変わらない距離なのに、家に帰るまでの時間が長く感じる。
「最近、色んなことがあったけど順調だな」
色んなこと。竜二や環との出会い。委員長との距離。たった3日間だ。このたったの3日間で俺は変わったのかもしれない。俺の日常に有り得ないような非日常が加わって、それが日常に変わっていく。人の心もそうだけど、その環境だって常に変わっているんだなって思う。
今まで、惰性に過ごしてきたけど、その日常を変えるのが怖かったんだな。過ごしてきた日常が変わっても、それもそれで日常なんだって。そう感じた。世間の大きな流れは変わらなくても、一人一人の流れは意外と早く進んでいるものなのかもしれない。
雨が降っているが俺はこの雨が傘に当たる音を心地好く感じる。今日はとても良い日だったと思う。こんな日がずっと続けばいいのに。そんなことを思いながら俺は自分の家に入っていった。




