再会5
「たっちゃんの小さい頃はね、今とあまり変わらないよ! 泣かなくなったくらいかな?」
「そうっスねえ。俺はたっちゃんと公園でしか会ったこと無かったんスけど、正義感があって、勇気があるってイメージっスかね。俺が悪を成敗してやるんだ! みたいな感じっスね」
「竜二ちゃん。そうそう。それでいつも負けちゃって泣いちゃうんだよね」
「あー。泣いてたっスね。兄貴なんかは女に守られてやがる。だっせ。みたいな感じで言ってたっスけど、俺はそうは思わなくて、たっちゃんカッコイイなって思ってたっス」
奏と竜二は俺が泣き虫だったと言いたいのだろうか。その言葉に悪意は見られないものの、泣いてたばかり言われると恥ずかしい。
「小さい頃もそうだったんだね。相澤さんは憶えてる? 私がいじめられてた時の話。相澤さんと西条君だけが私の味方をしてくれて嬉しかったのよ」
「憶えてるよー。翼ちゃんがいじわるされてるのたっちゃんが見つけて助けようって言ったんだよ」
みんな俺の話で盛り上がりすぎじゃないだろうか。少し照れ臭いのだが、俺自信を肯定してくれているようで嬉しい気持ちになる。
「へえ。そんなこともあったんスね。やっぱりたっちゃんはカッコイイっスね」
「お、おい。これ以上言うなよ。なんか恥ずかしくなってくるじゃないか」
日常なんてつまらないと思っていたのだが、仲の良い友達に恵まれて、好きな子も一緒に笑えて。こんな日常ならずっと続いて欲しい。
なんとなく、外を見ると雲行きが怪しくなっていた。暗く、高度の低い雲に辺りが覆い尽くされ、今すぐにでも雨が降りそうな。そんな雲行きだ。
「これは、雨が降るかもな」
「西条君が珍しく遅刻しなかったからでしょ」
「あー。たっちゃんのせいだー」
委員長と奏は雨が降りそうなのを俺のせいにして笑っている。竜二はそれに釣られて笑っているといった感じだろうか。そういえば、俺は傘を持ってきていない。
「今日って天気予報どうだったの?」
今朝は色々あって天気予報を見ていなかった俺は今日の天気がどうなっているのか知らなかった。奏も俺の家では天気予報を見ていないだろうし、傘を持っていなかったからこの天気は知らなかったはずだ。
「今日は午後から荒れるってテレビで言ってたわよ」
「俺は傘を持ってきてるっス」
朝からみんながやけに俺のせいで雨が降るとか言ってたのは今日の天気を知っていたからなのか。中村先生も含めて、俺はクラスのほとんどの人から弄ばれたという形になる。それはそれで仲の良いクラスって感じで悪い気もしないが。奏はいつの間にか鞄を持って来ていた。
「じゃーん。私はいつも折り畳み傘を持っているので、いついかなる時も大丈夫なのです!」
鞄を開け、赤い折り畳み傘を自慢げに見せてくる奏。自信満々に言うことでは無いだろうが、備えあれば憂い無しを奏は体現していた。なんだかんだでちゃっかりしていると思う。俺は折り畳み傘なんて持っていないし、そもそも、鞄の中はいつも空だ。勉強道具は机の中に入れっぱなしだ。
「雨が降ったら嫌だな」
俺の言葉を合図にしたように、ぽつりぽつりと雨が落ちてきた。はじめはゆっくりと降っていたが、次第に強くなり土砂降りとなってしまう。
「た、たっちゃんは魔法使いっスか? 雨が降ってきたのたっちゃんが嫌だなって言った瞬間でしたぜ」
冗談を言い合いながらも笑いが絶えない。やっぱり学校てのは楽しいものだと思う。楽しくないと行きたくないしな。惰性に通ってはいたけど、こんな毎日ならもっと通いたいって思う。
「帰る頃に雨やまねぇかな」
「残念ながら今日、明日とやまないみたいっスよ。明日の休みは家の中で篭ることにするっスかね」
そうか。今日は金曜日か。昨日、学校を休んだから曜日の感覚が少し狂っていた。
他愛もない話をしながら、昼休みは過ぎていく。午後一の授業では中村先生から "ほらな。西条のせいで雨だ" とちゃかされたりもしたが、特に何事もなく午後の授業も終わった。雨はやむどころか勢いを増すばかりだ。
帰りのホームルームが終わる。
「んじゃ、たっちゃん先帰るね!」
奏は学校が終わるとすぐに帰る。俺は学校に残って、出された宿題をやってから帰るため、奏と一緒に帰るということは無い。
「あれ? たっちゃん帰らないんすか? なんなら傘に入れてあげようと思ったんスけど」
「男と相合い傘するくらいなら濡れて帰るわ」
竜二ともこんな軽口を言えるくらいに仲良くなった。小さい頃に面識があったというのと、竜二のキャラのおかげだろう。竜二は顔に似合わず気さくで良い奴だ。雰囲気と顔が怖くなければ女子からモテそうなものだから竜二は確実に顔で損をしている。
「そうスか。残念っス。じゃあ俺はお先に帰るっスね」
何を残念がっているのだろうか。俺は男とくっつく趣味はない。竜二にはそっちの気があるのだろうか。少し不安だ。
「さてと……やりますかね」
一度伸びをしてから俺は机に向かう。宿題をやるためだ。
「あら、西条君。帰らないの?」
学校が終わるとすぐに部活に行くなり、帰るなりするクラスメイトたちだ。俺はいつも最後まで教室に残っているのだが、今日は委員長も一緒にいる。
「あぁ。ちょっと宿題をね」
「なるほどね。西条君はいつも残ってなにかをしていると思っていたのだけれど、宿題をやっていたのね。どうして学校で宿題を?」
「親父からさ、子供は遊ぶもんだ。家に帰ってまで勉強はするもんじゃないぞ。勉強は学校でするもんだ。こう言われてさ。俺、妙に納得して小学生のときから学校で宿題やって帰ってるんだ」
「そうなんだ。でも、宿題って家でやるものだと思うけれど。そういう考え方もあるのね」
「ああ。どうせ親父の屁理屈だろうけどな」
俺は淡々と宿題をやる。宿題をやらなければ家に帰れないのでさっさと済ませたいのだ。
「じゃあ私もそうしようかしら。一人で勉強しても退屈だし」
まさか委員長が俺の親父の意見に賛同するなんて思わなかった。委員長と一緒にいれるし、委員長がいれば、あーだこーだと悩んでいた問題もすぐに解けて一石二鳥だ。俺は分からない問題を委員長に教えてもらいながら宿題を終えた。




