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えぶりでい!  作者: あさの音琴
日常編
16/44

再会3

 午前中の授業も終わり、昼休みとなった。今日は奏の気まぐれは無いようで、購買にパンを買いに行く。ここで、俺はとある裏技を発見した。


「そうそう。竜二。このまま真っすぐ行けば購買だから」


 竜二も弁当は持ってきておらず、購買でパンを買うらしい。洋介も誘ったのだが、洋介は弁当を持ってきていたらしく、竜二と二人でパンを買いに行くことになった。


「たっちゃん。どうして俺が先導してる形になってるんスか? 普通、購買までの道を知ってるたっちゃんが俺を案内するんじゃねぇんスかね?」


「竜二。俺はきちんと案内はしているぞ。後ろからナビゲーターとして機能しているだろ?」


「そりゃそうスけど……」


 納得行かない様子の竜二だったが、俺は竜二の纏う雰囲気と怖面を利用して、購買で素早くパンを買おうと考えたんだ。竜二が歩けば人は避ける。人が避ければ人だかりは無くなる。そして人が避ければ並ぶ必要も無くレジに行ける。そんな寸法だ。


「へぇ。意外とあっさり買えるもんなんスね。俺の購買のイメージだと、パンの取り合いが戦争のごとくって感じだったんスけどね」


 これは竜二の効果だ。いつもは人気のパンを買おうと人だかりかでき、パンを奪い合うという戦争が起こるのだから。人気のパンの出荷量を増やせと言いたいのだが。


「これは竜二の功績なんだよ。久しぶりに特製ソースの大盛り焼きそばパンにありつけたよ。これ、人気で少しでも遅れると買えないんだ」


「俺の功績? 俺はただ歩いていたでけでスぜ?」


 竜二。それでいい。君の純粋な心を弄んでいるように思えて心が痛むが、午後からの活力となる昼飯を仕方なく買った余り物で済ませるのではなく、好きな物を食べて活力にしたかったんだ。


「ところでさ、竜二はどこか遠くに行ってたんだろ? いつ頃こっちを出て行ったんだ?」


「その話スか。俺が小学校に上がる前スね。親の転勤ってやつっス。今回も親の転勤だったんスけど、あっちの学校に残ろうと思えば残れたんスよね。兄貴もあっちで暮らしてるし。でも、俺はあっちで兄貴の友達とばっかとつるんでたんスよ」


 同じ公園で遊んでたんだから、小学校も一緒になるはずだったんだよな。竜二とは。そんな前の話なんてほとんど憶えてないけど。


「へぇ。同級生の友達はいなかったんだ」


「俺、こんな顔っスからね。みんな怖がって近寄ることもしなかったんスわ。それで兄貴たちと遊ぶようになったんスけど、兄貴は不良でして、やっぱりその仲間も不良じゃないスか。かわいがっては貰ってたんスけど、友達ってのに憧れてて親の転勤に着いていったって感じスよ。編入試験に奇跡的に受かったんで俺、たっちゃんと再開できたんス」


 竜二も色々と抱えてるんだなって思う。同級生に友達が出来ないってのは辛かったんだろうな。そう考えると、環も竜二と同じようにそういう物に憧れてたのかな? とも思う。強引な面はあるが。


「俺たちはある意味でも幼馴染みってことだな。改めてよろしくな。竜二」


「改めてよろしくされるもんでもねぇっスよ。幼馴染みで思い出したんスけど、ゴリ……奏はどうしたんスか?」


「奏? 奏なら」


「あぁああー! やっぱりそうだ! 小さい頃たっちゃんをイジメてた奴らの仲間だー! どこかで見たことあると思ってたんだよね」


 ここで奏が乱入してくる。奏は珍しく弁当を持参していなかったようで、購買から出たところにバッタリと出くわした。奏は竜二を睨みつける。


「か、奏。なんスか。俺はたっちゃんをイジメてないでスぜ」


「だって、公園でいつもたっちゃんを泣かしてたじゃんかー」


 ちょっと待て。俺は公園で泣かされた記憶は無いのだが。夢では見たがそんなことは記憶に無いぞ? 


「ちょ、ちょっと待ってくだせぇ。確かに兄貴はたっちゃんをボコボコにしてたっスけど、俺はなにもしてないっス。奏に泣かされたのは俺の方っスよ」


 俺の夢の中での出来事は本当にあったってことなのか? でも、都合よくその部分の記憶が抜けてるなんておかしく思うのだが。竜二も公園での話を憶えているみたいだから、実際にあった話なんだろけど。


「それで? 今さらなにをしに来たの?」


「だから親の転勤で引っ越して来たんスよ。それに、今はたっちゃんと友達にもなれたんスよ?」


「奏。昔のことはいいんだ。俺と竜二は今は友達だ。だから納得してくれ」


「むぅ。たっちゃんが言うなら分かったよ」


 不機嫌さは残っているが奏の中では納得出来たんだろう。今朝の件と言い、なんだかんだで、奏は物分かりがいい。


「俺、兄貴たちに一人で向かっていって、ボロボロにされるまで戦い続けたたっちゃんと、そんな兄貴たちと俺を一人でボコボコにした奏に憧れてたんスよ。だから、多勢に無勢でも自分の正義を掲げてた、たっちゃんとそんなたっちゃんを守って兄貴たちを追い返す奏はすげぇって思ってたんス」


「りゅ、竜二ちゃん分かってるじゃん! アハハ。そうだよ? たっちゃんを守れるのは私だけなんだからね」


「なにを言ってるんスか。奏。俺もたっちゃんを守るっスよ。だから友達として一緒にたっちゃんを守るっス」


 奏と竜二になにやら友情が芽生えてるようなのだが、俺を守るためってのはやめてほしい。なんか、俺が弱いみたいじゃないか。いや、弱いんだろうけどさ。俺なんか守る価値ないと思うのだが。


「竜二ちゃん! 私と竜二ちゃんの友情の証受け取って!」


 奏のパンチが竜二の顔に減り込んだ。そして、一瞬のタイムラグの後、竜二は吹っ飛ぶ。友情の証ってのがよく分からないんだが。


「さ、さすがっス。奏。これで俺も正式にたっちゃんや奏の友達ってことっスね」


 この二人の友情の証とやらを見届けた俺は、馬鹿みたいな二人を置いて教室に戻る。いや、戻らなければいけない。教室には委員長が待っているのだから。



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