…大丈夫
「桐矢、毎回朝ごはん作ってくれなくてもいいのに」
と、いいながら席に着く。
「いいよ、結構つくるの好きだしさ」
と、ふわっとした笑顔でいう。高校生のころと変わらない笑顔。
「…っ!」
胸がしめつけられるように、キューーとなる。
(…いたい)
つい目をそらしてしまう。
(桐矢、私ね…桐矢の笑顔を見ているだけでつらくなるんだよ)
こんな思い消えてなくなってほしいのに。
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「えっ?なんて言ったの…」
声が震えてしまった。本当は聞こえていた。
だけど、信じられなくて____いや、信じたくなかっただけだ____もう一度聞いてしまった。
「俺…転校することになった…」
発している言葉は重々しく私の耳を通りすぎていく。
「だ、大学…は、こっちじゃなかったの…?」
詰まってしまうし、泣きそうなか細い声になってしまって、本当に嫌になる。
こんな声____桐矢を困らせるだけなのに。
「…ごめん」
ズキン
「おばあちゃんを残すわけにはいかないんだ…」
そういえば、桐矢のお母さんが早くに亡くなられて、お父さんとおばあさんとの三人で暮らしてたっけ…。
お母さんがいない分、おばあさんが愛情をそそいでたらしい。
でも、桐矢が大きくなっていくと、おばあさんも老いていく。
…年の経過は残酷だ、というものだ。
(おばあさんとの時間を大切にしたいよね…)
「そ…っか。…うん。しかたない、しかないよ」
自分に言い聞かせるように。
____止めちゃいけない。『行かないで』なんて…私が言う価値もない。
じゃあ、笑ってなきゃ…。笑って言わなきゃ。
「私は…大丈夫だよ」
「ありがと…ね」