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イルマニアファミリー

孤独のイルマ 鳳凰編

うん、いける。

塩辛茶漬けってお湯をかけるとイカがちっちゃく縮こまるのがかわいい。


午後六時、休憩室で一人お茶漬けを食べているゴローは心の中でそんなことを呟いた。


小腹が空いた井之頭五郎は、仕事を抜け出し近所の居酒屋へ入ってお茶漬けを注文した。なのになぜ事務所でお茶漬けを食べているのかといえば、些細なことで隣で飲んでいた客と口論になり、喧嘩に発展してしまったからだ。幸い相手にも自分にも怪我はなかったが、騒ぎを起こした店に入りなおせるほどゴローの神経は図太くない。結局コンビニで塩辛を買い、お昼の残りご飯を借りてこうして塩辛茶漬けを作ったのだ。



これを食べたら出かけるか。



ゴローはフーフーと熱を冷ましながら、ズズっとお茶漬けをかきこんでいく。













「―――小日向、そりゃ結局は高麗屋が小さくなった分音羽屋がデカくなったってだけの話じゃねえのか?」


「なんですかそれ。こっちはずいぶん身体張ったんですよ。高麗屋の後始末も忙しいし、関東に進出してくる音羽屋の面倒も見なきゃならないってのに。これで給料か役職でも上がらなきゃやってられませんよ。」


「島はどうしたんだよ。」


「さあ?今は東京にいるって話ですけど。」


「ふーん。堅気に戻って東京観光か。いい気なもんだなぁ。」



県警本部。ここには本部の人間ですらほとんどが知らない秘密の組織がある。歌舞伎犯罪対策課、通称「マル歌」。裏社会に蔓延る歌舞伎から国民の安全を守るために組織された、関東合同の特別チームである。


関東を牛耳る歌舞伎組織、高麗屋。マル歌は長年高麗屋に手を焼いていたが、最近になって高麗屋に恨みを持つ元歌舞伎役者島が高麗屋の名跡を次々に殺害し、関東の裏社会を揺るがす大規模な抗争が起こった。


七代目松本幸四郎と島の引退を条件に抗争は手打ちとなったが、島と高麗屋の手打ちを取り持ったのが関西の雄音羽屋で、彼らが近々関東に進出してくるというわけだ。



「おい繁田、なんだその顔は。お前これで終わったと思ってるんじゃないだろうな。」


小日向が部下の繁田に怒りをぶつける。小日向が怒る気持ちも分からないでもない。高麗屋を実質壊滅にまで追い込んだのは小日向の功績が大きい。身分を隠し細々と芸事を続けていた島を焚き付けたのも、島と音羽屋を繋いだのも小日向だ。結局は音羽屋が勢力を伸ばし、マル歌に新たな懸念材料が増える結果となってしまったが。


「そんな事言ったって、ここからどうするつもりですか。」


しかしながら、もとはと言えば小日向も悪いのだ。小日向が欲をかいて高麗と音羽から甘い汁を吸おうとしなければ抗争はここまで長引かず、音羽に立ち会いを依頼するような事態はならなかっただろう。そもそも高麗が関東一の歌舞伎組織となったのも、マル歌と高麗が小日向を通じて深くつながり過ぎたせいだ。


「だからお前はまだ青いんだよ。いいから俺のやり方よく見とけ。」












さて、そろそろ行くか。



お茶漬けを食べ終わり一息ついたゴローは、荷物をまとめて休憩室を後にした。



あとはこれだな。



ゴローは拳銃の弾数を確認し、腰につけたホルスターにしまい込む。


井之頭五郎はこの世界ではゴローとは呼ばれていない。彼のこの世界での役割はマル歌の警部、繁田である。


マル歌にはマル歌の者の中でもごく少数しか知らない別の顔がある。



赤ら顔から世界を守る同胞組織。



赤ら顔は歌舞伎を依り代にして世界に侵入してくることが多い。伝統芸能にすぎない歌舞伎が裏社会で幅を利かせているのは、この世界が赤ら顔に浸食されかかっている証拠だ。マル歌は歌舞伎犯罪の取り締まりを通じ、赤ら顔の浸食を食い止めるため同胞の一人「M」によって組織されたのだ。マル歌所属の同胞は業務を通じて、日夜赤ら顔の脅威と闘っている。


繁田の上司である小日向もこの世界にやってきた同胞ではあるのだが、長距離跳躍のショックからなのだろうか、以前の記憶をなくしてしまっている。記憶を失った小日向は私利私欲の塊と成り果てていた。


繁田からみればもどかしいことこの上ないが、この世界では繁田の上司は小日向である。マル歌の仕事を続けるためにはある程度小日向に従うしかない。今日もつい最近何者かに殺された、高麗屋八代目松本幸四郎の葬儀にこい、そう小日向に言われているのだ。



「おう、きたか。後から島も来るからよ。」


「何言ってるんですか。こんなところに島が来るわけないでしょう。…大体、これ焚き付けたのも小日向さんじゃないんですか。小日向さんのガサ入れ直後に殺されるなんてタイミング良すぎでしょう。」

どんな手を使ったかまでは分からないが、いくらなんでも怪しすぎる。実際、繁田の読みは当たっていた。


「あ?もう一ぺんいってみろ。俺が、だれを焚き付けて殺しただって?島か?高麗か?音羽か?」


「…。」


「なにも知らねえくせして知った風な口きいてんじゃねえよ。いいか、これは音羽が、島が殺ったように見せかけて殺したんだ。だったらそれ利用しない手はねえだろ。」

小日向は嘘をついていた。実際には小日向が、手打ち後の襲名に不満を持った旧幸四郎派の幹部を焚き付けたのだ。小日向の狙い通り、高麗屋は島がやったと睨み血眼になって島を探している。


「だったらますますこんなとこ来るわけないでしょう。殺されに来るようなもんですよ。」


「歌舞伎役者には通さねえといけない筋ってもんがあんだよ。あいつは見た目に反して昔気質の役者だからな」


小日向が喋っている中、繁田はある気配を察知した。



めぐみに危機が迫っている。



なんということだ。赤ら顔は既にここまで来ていたというのか。俺は何をやってきたんだ。この世界での役割にとらわれるまり、赤ら顔の侵入を間接的に手助けしてしまったのではないか。結局俺は自分の身可愛さから小日向のいいなりになっていただけじゃないのか。



「もういいです、付き合いきれません。俺は降りますよ。」

付き合いきれない。それはまぎれもない本音ではあるが、マル歌の使命は世界を守る事だ。めぐみに危機が迫っているならめぐみの護衛を最優先としなければなるまい。


「残念だったな。お前も残れば昇進だったのによ。」

何も知らない小日向は呑気にそんなことを叫ぶ。元はと言えばお前のせいだろうが。


「一生平でいいっすよ。」

繁田はそういい放つと急ぎ足でめぐみの元へ向かった。





「おう来たか島。八代目の元付き人が弔い合戦か?」


元高麗屋、島。まだ若い。とても高麗屋の名跡を根絶やしにした男には見えない。


「線香あげに来ただけですよ。」


「ああ?嘘つくんじゃねえよチンピラが。まあいいや。身体検査するから万歳しろ万歳。」

小日向は島にバンザイさせて、彼の身体を探る。


「なんだお前、ハジキ持ってきてねえのかよだらしねえな。大体お前ほんとに歌舞伎役者かよ、チャラついた格好しやがって。ただの劇団員じゃねえのか。とりあえず俺の貸してやるから使えよホラ。」


島は小日向から拳銃を受け取り弾が入っていることを確認すると、銃口を小日向へと向けた。





「え?」





弾丸は小日向の腹を撃ち抜いた。




「…お前、がはッ、け、警官殺して、ただで済むと思ってんのか…。」


島が胸ポケットから手帳のようなものを取り出す。小日向が見慣れている警察手帳だ。


「!?…なっ…お前それは…?」



埼玉県警歌舞伎犯罪対策課

マツコ直属対歌舞伎特殊部隊

ILLMANIA


島 敬人



―――お前は己の使命を忘れこの世界を破滅へと導いた。上層部の決定でお前の存在は新たな世界には不要と判断された。同胞団の名においてお前の存在を抹消する。


「歌特…風の噂でしか聞いたことがなかったが…お前だったのか…。どおりで名跡殺したその足で…局に向かうようなマネが出来るはずだ…まさかテレビでよく見るあのデブが…。」


心臓に向けて一発、頭に二発、立て続けに弾丸が発射される。


小日向を殺した島は最後にこの世界での自分の役割を果たすため、汐留へと向かった。






イルマニア

埼玉入間

代表さ

アーイ↑

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