物語の屋根裏部屋(あと書き)
裏話の方が面白い作品っていうのは、本当は良くないんですが、どうも物語だけでは片手落ちだなと思ったので、作者にとっては非常に恥ずかしいことですが、補足のあと書きです。
ぷち経済なお話です。
本作は、経営者が見ている視野を、読者に疑似体験的に見てもらおうという目論みを含めて書いた作品です。
銀貨1枚=1,200円で換算したときに、現代でもそこそこ通用する数字にしたつもりです。
(言っても作者、実際に経営なんてやったことないので、机上の数字考察ですが)
ミーナの宿屋は、坪当たり家賃12,000円/月、およそ33坪×2階建ての建物を使用し、2階の33坪を宿屋スペース、1階の33坪のうち20坪を酒場スペース、1階の残りの13坪を従業員用のスペースとして利用。
日当が銀貨6枚のリンとルンは、時給900円×8時間=7,200円/日のアルバイトといったところですが、住み込み3食付きなので、境遇は相当いいです。
ただし残業が付きません。
日当が銀貨10枚のプリムは、年間労働日数260日とすれば年収312万円。
こちらも住み込み3食付きなので、実質的な年収は400万越えですね。
全品一律銅貨1枚で売っていた酒場は、1品が全部300円の居酒屋です。
居酒屋の客単価はだいたい3,000円前後だそうですが、居酒屋の客単価はだいたい1品の標準価格の6倍ほどになるそうで、一律銅貨1枚時代は、客単価1,800円の商売です。
チェーンの居酒屋はワ●ミに限らず総じてブラック(要するに、必要な労働量に対して十分な人件費を用意できていない状態)なのが現状のようなので、本当は客単価3,000円でも成り立たない商売なんだと思います。
宿代は、実は元に戻した(2倍にした)後でも、まあまあ安いです。
2倍にした後でも、ドミトリーで1泊素泊まり2,400円、個室で3,600円です。
まあ、その分だけ狭いですが。
ちなみに実際の中世ヨーロッパの賃金は、物価換算すると現代より相当少なくなる(0.1~0.4倍程度)ようですが、この辺はファンタジー補正ということでひとつ。
農業生産力を上げる豊穣の魔法とか、衣服を大量生産する縫製の魔法とかが発達しているんですよ、きっと。
最近、アベノミクスで賃金がどうのー、物価がどうのーと、いろいろと騒がれていますよね。
でも、従業員の賃金を上げるというのはどういうことなのか、商品の価格を上げたり下げたりするというのはどういうことなのか、あまりにも無邪気に語られすぎている気がします。
賃金が上がることは絶対善で、物価が上がることは良くないと、そういう価値観で物事が語られています。
まあ、経営なんて縁のない僕ら庶民からすればそれはそうなんですが、でも無理を自分とは関係ないように見える何かに押し付けても、結局その無理は、巡り巡ってどこかにばら撒かれ、歪な現実を生じてゆくことになるのではないかと思います。
ブラック企業の乱立状態なんていうのは、そういった歪みが生んだ、高賃金・低価格志向の落とし子なんじゃないかなと思ったりしているわけですが。
従業員の賃金を上げること、これは、企業の収益が上がらないと、通常できません。
企業にとって、赤字経営は絶対悪です。
赤字続きの企業は、内部留保(家計でいうところの貯金ですね)が尽きれば、経営破綻します。
すべてが破綻した後になって、そんなつもりはなかったとか、誰かに責任を押し付けても、何にもなりません。
なおこの話は、商品やサービスの販売数が2倍に増えると、従業員の労働量も2倍近く(1.8倍とかそのぐらい)に増えるような産業に妥当する話として設定しています。
もっと生産性が高く、商品やサービスの販売数が2倍に増えても、従業員の労働量が1.1倍とか1.2倍とかそのぐらいにしか増えないような産業(例えば書籍なんていうのは、販売数が2倍に増えても、製本機がガーッと作ってくれるだけなので、そんなに労働量は増えない気がする)だと、また違った景色にはなるはずです。
そういう産業の場合、商品が売れれば売れるほど劇的にコストが安くなるので、売れれば売れるほど商品を劇的に安く販売できるようになるし、従業員の給料も容易く上げられるのかと思います。
(屋根裏部屋 おしまい)