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第一章 「復員後」 3

 「とろろわかめの味噌汁です。」

 後宮が3人分のとろろわかめの味噌汁を渡す。

 僕はとろろわかめの味噌汁を初めて目にした。

 1口、食べる。

 美味しい。

 「ん、では第1回目のフリィティングを始める。」

 そして淀川さんは1口とろろわかめの味噌汁を食べて、フリィティングを再開する。

 「まずは、改めて自己紹介をしよう。…私は淀川孝之で、係長を勤めさせていただきます。それでは宜しく御願いします。」

 淀川さんは1礼し、僕と後宮さんを見やる。

 「あ、私は後宮熨活と云って、元陸軍の狙撃兵をしていました。宜しく御願いします。」

 僕の番なので少し焦ったが、一旦間を置いて落ち着いてから僅かに肩を上げる。

 「…はい、あの、私は槐安弥で元皇宮護官です。今後宜しく御願いします。」

 かなり緊張した。

 淀川さんは話を続ける。

 「次に、この第十一総防係についてだ。初めに言えば、この係の目的は被災した首都の治安維持だ。勿論首都の治安はこれまでもない程悪化しているのは言うまでもない。」

 震災よって23区東部、臨海部はことごとく壊滅し焼け野原になった。それから1ヶ月たっても仮設住宅どころか避難所の数さえも足りていないのである。そのため、各地にスラムとも云うべきバラックが建ち始めた。また、交番などの治安施設が復旧しないため、治安が悪化。経済悪化と配給の遅配による食糧不足が起こり、かつての戦争の後のように闇市が乱立した。また、物流が停止した事による物資不足のため、局地的だが被災地で悪性のインフレが起こり、物価が高騰。被災者は生きるために、実を売ったりするなどの水商売をする他、現実逃避しようと麻薬に手を出す者も居た。そのため暴力団、麻薬組織が多発。治安が悪くなっている事を良いことに、首都を我が物顔で暴力団、麻薬組織はうろつき回っている。そのため、治安が悪化して復興を妨げるという悪循環に陥っているのだ。 

「そのため現在その首都で活動しているテロ組織の一つ‘POISON’を撲滅させる事。これが係の目的だ。」

 僕はPOISONという言葉を聞いたことがなかった。

 POISON、意味としては‘毒’‘毒殺’だ。そんな組織、明らかに悪そうな。

 僕は手を挙げる。

 「質問を一つ宜しいですか。」

 淀川さんは待ってましたと、言わんばかりに笑顔を浮かべた。

 「良いだろう。」

 「POISONとは何者なんですか。」

 「ん…、そうだな…。」

 淀川さんはそのまま歩き始めた。

 「2000年代に造られた中国の麻薬組織だ。最近はサイバー犯罪にも一役買っており、当の中国政府ともカネで繋がっているらしい。」

 とんでもない組織だ。

 「そしてこの組織の厄介なところは3つ在るのだが、1つ目は彼らの武装だ。内閣府調査室によると、中国軍の武装をそのまま貰っているらしい。その中国と云う後盾の存在が2つ目だ。もう3つ目は彼らのサイバー攻撃だ。」

 サイバー攻撃は核攻撃、生物兵器、化学兵器と並んで、極めて重要性が高い。例えば発電所やダムを攻撃すると、インフラを破壊できるし、国民番号整備機構のサーバーに攻撃すれば、国民の個人情報が流出してしまう。サイバー攻撃は国家を壊せるのだ。

 ハッカーを持つ組織は戦争さえも起こせる。

 「POISONのハッカーはまだ成長段階だが、いずれは祖国を脅かすだろう。…とにかくこの係は通常の警察のように捜査、捜査などとせずに、与えられたタァゲットを速やかに殺害するのが任務だ。メンバーの出身から見れば言うまでもないが。」

 成る程、淀川さんはともかく、後宮は元陸軍、僕は旧陸上自衛隊の留学生だった。そんな記憶、思い出したくもない。

 「任務について以上だ。無論祖国のためだ。皆しっかり励んで欲しい。」

 淀川さんはそう告げた後、右手を、ゆっくり上げて、敬礼した。

 僕と後宮も同じ様に敬礼した。

 所で僕は、淀川さんが何故、何度も‘祖国’と云う言葉を使ったのか分からなかった。今時祖国は死語だ。そんな疑問は私の中で、もやもやしたガスになって漂う事になった。


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