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第一勝:十九回目の月光:第7話:内なる残響—緋色の休息

いつもお読みいただきありがとうございます!

第7話は、束の間の休息……のはずが、カズを過去最大の絶望が襲う、物語の転換点となります。

■前回までのあらすじ

黄金の魔力に目醒めたカズは、アリスの猛攻を退け、エリスと共にアダムのセーフハウスへ退避します。そこで語られたのは、父・拓也が遺した禁忌の研究『時空干渉クロノス』の存在。

一方、アリスもまた、自らの記憶と洗脳の狭間で揺れ動いていました。

「本当の敵は誰か」――その答えを探すため、カズたちは2100年の繁華街へと足を踏み出します。

【公式X(旧Twitter)公開中!】

カズやエリス、そして今回はサービスイラスト、私服のエリスを投稿しました。

作者Xくろねこパパ:https://x.com/k7nature1

第一勝19回目の月光:第7話、内なる残響—緋色の休息

 深夜の摩天楼。ビルの屋上にひざまずき、アリスは激しい眩暈めまいに耐えていた。

 右目尻の泣きぼくろが、苦痛に歪む。

 脳内には、紫色のノイズと共に、自分を導く「謎の女性」の声が響き続けていた。


『……聞こえる、アリス? あの子は怪物よ。お父様を殺した、呪われた出来損ない。殺しなさい……それが唯一の救いよ』


「……くっ、あああああぁぁぁっ!!」


 アリスは頭を抱え、アスファルトに爪を立てた。

 洗脳が、彼女の記憶を蝕む。

 スコープ越しに見た、父の胸を撃ち抜くエリスの姿。その「記憶」は、確かにアリスの網膜に焼き付いている。


 だが、その奥底で――。

 幼い頃、自分のスカートを掴んで「お姉ちゃん」と笑いかけてくれた、小さくて温かいエリスの手の感触が、必死に洗脳の鎖を拒絶していた。


(……違う。私の知るエリスは、そんなことは……。でも、あの夜の記憶は……。何が…何が真実なの!?)


 さらに、彼女の心を揺さぶるのは、先ほど目撃した**カズ(一ノ瀬 和)**の姿だった。

 黄金の光をまとい、エリスを抱き寄せて「もう二度と離さない」と叫んだ、あの獅子の如き瞳。

 それは、妹を弄ぶ犯罪者のものではなかった。

 すべてを敵に回してでも、一人の少女を守り抜くと誓った「騎士」の光。


(……あんな光、偽物には出せない。……カズ。お前なら、本当にエリスを救えるのか……?)


 アリスは震える手で『三日月宗近』の柄を握り、遠ざかる黄金の残光を追うように視線を向けた。

 彼女の中の洗脳が、一瞬だけぐ。


「……見極めてやるわ、カズ。お前のその覚悟が、本物かどうかを」


 アリスの影が、夜のとばりに溶けるように消えた。


     *


 一方、その頃。

 アダムのセーフハウスでは、アリスの葛藤など露知らず、別の意味で深刻な戦いが繰り広げられていた。


「あー……もう、なんなんですか!絶対に嫌です!! 見てください、この服を! こんなボロボロで、すすだらけで……。こんな状態でどうやって買い物に行けと言うんですか!」


 エリスは泥と血に汚れたメイド服の裾を摘まみ上げ、カズに向かって頬を「ぷくっ」と膨らませて猛抗議していた。


 さっきまでの闇堕ち覚醒が嘘のような、いつもの、いや、いつも以上に面倒くさいエリスである。


「……いや、通販でいいだろ。アダムのデバイスを使えば、一分でドローンが届けてくれるぞ ほらとりあえず、このメイド服を……」


「先輩!! 乙女心が分かってません! 服は実物を見て、触って、かわいい〜ってなって、それを持って歩くのが楽しいんです! それに、たまには先輩と外を歩きたいって、……あっ、じゃなくて! とにかく屋敷には戻れないんですから、外に買いに行くしかないんですっ!」


 顔を真っ赤にしてごねるエリスを、背後でホログラムディスプレイを弄っていたアダムが、半眼で見つめる。

「おいおい、平和だなぁ。だがカズ、お喋りの最中に悪いが……こいつを見てくれ」


 アダムの表情から冗談が消え、映像を空中投影させてカズの方に投げる。

 そこには、カズの父・拓也が経営していた巨大企業『イデア・ジェネシス』の、最高機密とされる暗号データが躍っている。


「……カズ、お前の親父さんはただの軍事兵器メーカーの社長じゃなかった。軍のアーカイブを深く掘ったら、とんでもないプロジェクト名が出てきやがった。コードネームは『クロノス』。……研究内容は、精霊魔術を応用した**『時空干渉じくうかんしょう』**。つまり、過去や未来を繋ぐ理論だ」


「時空……干渉? 冗談だろ。そんなの、精霊の御伽話だ」


「ああ、俺も信じたくはねえ。だが、お前が十八回も死に戻ってるこの現状、そしてお前が目撃した『金髪の自分』。これらが全部、そのプロジェクトの副産物だとしたら……。この十九周目すら、誰かが未来から描いた筋書きかもしれねえんだぜ?」


 カズの背筋に、冷たいものが走った。

 時空を超えた因縁。その巨大な影が、今、自分たちを飲み込もうとしている。


「……俺たちの戦う相手は、想像以上にデカいのかもしれないな」


「そういうことだ。だからこそ――」


 アダムがニヤリと笑い、再び映像を切り替えた。そこには煌びやかなショッピングモール『アオン』の映像が映し出される。


「――潜入の前に、まずは嬢ちゃんの機嫌を取ってこい。戦うだけが俺たちの仕事じゃねえだろ?」


     *

その翌日

 アダムの気の利いた計らい(?)で、二人は巨大ショッピングモール『アオン』へと足を運ぶことになった。


 到着するなり、エリスは目を輝かせてフードコートを指差した。


「先輩!!お腹が空きました! まずは『モクドナルド』でハバネロバーガーです!」

そう言うとエリスはカズの手を引きモクドナルドの注文ページを脳内へ共有投影し始め、慣れた手付きでトッピングやらを選びはじめた。


「えっと、 パティを倍で、チーズと追いハバネロ! 限界まで追加して。あとシャカシャカポテトのフレーバーを激辛チリパウダーで! ドリンクはアイスティーストレート。先輩は何にします?」


「それより……おい、エリス。それ、見た目がバンズに赤い凶器しか挟まってないぞ?」


 お手伝いボットが運んで来たバーガーは、もはや通常の色ではない。罰ゲームで食べるか、激辛チャレンジで食べる代物である。


 しかしエリスは、それを幸せそうに、満面の笑みで「ぱくり」と頬張った。


「ん〜〜〜っ! 幸せすぎる……!やっぱりこれです! 先輩もひとくち食べます?」


「結構だ!そんなもの食べたら絶対に、しっ……」


「先輩、次どこに行きます?」


「……そうだな。俺も服を買わないとな。『エモクロ』なんかどうだろ?」


「あっ!ナイスです。 先輩の服、私が選んであげます! 私も『エモクロ』のコートとニットとショートパンツが欲しかったんです!」


 エリスは鼻歌交じりに、カズの脳内へとフルコーディネートした自分の3Dモデルを投影して見せる。


「んー……もう少しクラシカルな方がいいんじゃないか? ほら、今着てるメイド服みたいな……」


「はぁ(ため息)……先輩!! バカにしてますよね!? 私だって、もう立派な女の子です! あのメイド服だって、先輩が私に着せて喜んでる『先輩の趣味』じゃないですか!!」


「……俺の趣味だったか? ……実はもう、既に(別のを)買ってあるんだが」


「今から試着するので実物見て判断して下さい!」


そういうと試着室に入り着替えるエリス


「___先輩、どうですか?似合ってますか?」


「おお!凄く似合ってる、普段のクラシックなメイド服もいいけど私服姿のエリスも新鮮で良いな」


そのカズの言葉にエリスは満面の笑みを見せ「先輩、これにしますと」嬉しそうに答えた


 カズはエリスに言われるがまま、エモクロでエリスの服一式を買い与える羽目になった。


「先輩、アダムさんのお土産にマスタードーナツを買って帰りませんか」


「エリスが食べたいだけだろ?」


「違います! いや、違わなくもないですが!」


 嵐の前の、あまりにも穏やかで、まばゆすぎる日常だった。


 ショッピングモールのにぎわいを抜け、夕暮れの街路樹が並ぶ帰り道。

 エモクロの紙袋を手に歩いていた二人の足が、同時に止まった。


 人混みの向こう。

 自動運転車のライトに照らされたその影を見て、カズの心臓が、暴力的なまでの衝撃と共に凍りついた。


 あり得ない。


 そんなはずがない。


 あの1月の夜、冷たくなっていたはずの……。


「……みお……?」

 死んだはずの妹、一ノ瀬 澪の姿だ。


 彼女が、あの日と同じお気に入りのワンピースをまとい、カズの目の前に立っていた。


 思考が、理解を拒絶して真っ白に塗りつぶされる。


 言葉を失い、ただ呆然と立ち尽くすカズの前に、エリスが鋭い足取りで割って入った。

 その瞳は、瞬時に戦闘態勢へと切り替わっている。


「……先輩、下がっていてください。あの人からは……人ではない恐怖にも似た、嫌な殺気を感じます!」


 すると、澪と呼ばれた少女が、悪魔が笑うかのように、ニタリ……と口角を吊り上げた。


「なんなの!? 初対面でその態度!! お兄ちゃんを返してもらうわ!!」


 その声は、確かに記憶の中にある澪のものだ。

 だが、その瞳に宿る闇は、カズの知る妹のそれとは似ても似つかない。

 彼女はエリスを見つめ、蛇のような粘り気のある視線を送る。


「……エリスさん……? でしたか、お名前は」


「ええ。私のこと、知ってるんですね!!」


「それは知ってまとも。六年前、お隣に引っ越してきたあの日から……私から、大好きなお兄ちゃんを奪った『泥棒』なんですから!!」


 澪の声が、嫉妬と憎悪で震えた。

 カズの癖、思考、弱点。そのすべてを共有する彼女にとって、エリスという存在は、幸福だった一ノ瀬家を壊し、兄を自分から引き離した元凶として、記憶に深く刻み込まれていた。


「そ、そんなの有り得ない……。ミオ、本当にお前なのか……?」


 カズはふらふらと、操り人形のように彼女の方へ一歩踏み出した。

 目の前の彼女が放つ「一ノ瀬家の気配」が、カズの判断力を狂わせる。


「ダメです、先輩!!」

 エリスがカズの腕を強く掴み、引き戻す。


「あれは、あれは先輩が知っている妹さんじゃないです!! 危険すぎます!!」


 エリスは必死にカズを守ろうとし、懐からシルバーのベレッタを引き抜く。その銃口を、かつての義妹に向けた。


「……エリス、やめろ! そいつは、俺の……」


「先輩! しっかりしてください! 今の先輩の『弱さ』も、あの子には全部見抜かれて、それを利用しようとしてます!!」


 エリスの叫びに、澪はクスクスと不気味な笑い声を上げた。


「あははっ! 正解。お兄ちゃんの考えてることなんて、手に取るようにわかるわ。だって私たちは、同じ心を持っているんだもの!」


 澪の手元で、黒い魔力がバチバチと弾ける。


 それは、カズの黄金の魔力とは正反対の、すべてを呑み込む深淵の闇。


「お兄ちゃん。……今度は、私がエリスさんを殺してあげる! そうすれば、またお姉ちゃんとお兄ちゃんと私で『あの日』の続きができるでしょ?


 エリスはカズの前に立ち塞がり、闇の力を再び解放し始めた。

「今は正直、分が悪いです。引きましょう、先輩……!」


 そのエリスの言葉に、澪が冷たく返す。


「今日の目的はお兄ちゃんとエリスさんにご挨拶をと思って来ただけです。 あっ! そろそろ帰らないと……サクラお姉ちゃんが心配しちゃう」


 澪が、不敵に微笑む。


「……お兄ちゃん、またねっ!」


「なんだって!?……今、姉の、桜の名前を口にしたか? 姉が生きている……!? 澪も、桜姉さんも……!?」


 カズをさらに混乱に落とす、衝撃の一言。


 あの日の夜、血の海の中で確かに息絶えていたはずの家族が、なぜ今、目の前に立っているのか。


 澪はそう言うと、人間とは遥かにかけ離れた跳躍力で大きく後方へと飛び去り、ビルの影へと消えていった。


 残されたのは、震えるカズと、銃を構えたままのエリス。

 そして、夕闇に溶けていく最悪の再会の余韻だけだった。


(第一章 第8話へとつづく)

【あとがき:活動報告】

最後までお読みいただきありがとうございました!

今回はアリスの葛藤、そして待望(?)のデート回でしたが……最後に全てをぶち壊す衝撃の再会が待っていました。

死んだはずの妹・澪の襲撃、そして語られた姉・桜の生存。

平和なショッピングモールでのひとときが遠い過去のように感じられるほどの絶望に、カズとエリスはどう立ち向かうのか。

今後、物語の中では描き切れない各キャラの私服姿や日常シーンなどもイラストにして公開していく予定ですので、お楽しみに!

面白いと思っていただけたら、ぜひブックマークや評価、感想で応援してください!

皆さんの声が、カズの反撃をさらに加速させます!

ステータスカード公開中!作者X:https://x.com/k7nature1

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