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第一章:十九回目の月光 —第5話:臨界の咆哮 ―闇に咲く銀の花―

いつもお読みいただきありがとうございます!


第5話は、本作の大きな転換点となる「覚醒」のエピソードです。

■前回までのあらすじ(第4話)

深夜のハイウェイ、最強の狙撃手・アリスによる非情な強襲。回避不能の魔弾『バースト・ピアッサー』がカズの肉体を無慈悲に抉り、彼はエリスを守る盾となって血の海に沈みます。

「あれは私の妹だ。……そして、父親の仇でもある」

衝撃の告白と共にアリスが放つ、絶望の刃。瀕死のカズと、壊れゆくエリス。絶体絶命の窮地で、少女の内側に封印されていた「地獄の門」がついに抉じ開けられます。


意識が、どこまでも深く、重い闇の海へと沈んでいく。

腹部を焼く稲妻の熱さえ、今は遠い。


カズの網膜に焼き付いていたのは、最期に見た、壊れた人形のように「助けてください」と繰り返すエリスの姿だけだった。


(……ごめんな、エリス。また、守れなかった……)


冷たい水の底へ沈むような感覚の中、不意に、古い記憶の断片が浮かび上がる。


それは、六年前にカズが彼女にベレッタを贈った、あの日の裏側。


カズが部屋を去った後、十二歳のエリスは、贈られたシルバーのベレッタを胸に抱きしめ、月光の下で一人、静かに誓っていた。


『……先輩。私……いつか、先輩を傷つけるすべての敵を、この手で……』


それは、守られるだけではない、彼女の内に秘められた「強さ」への渇望。


カズでさえ知らなかった、エリスの孤独な覚悟。

その想いが、今、絶望という名の鍵によって、封印されていた地獄の門をこじ開ける。


     *


「タスケテクダサイ……タスケテ、クダサイ……」


現実の世界。血の海の中で膝を突くエリスの呟きが、不意に止まった。


彼女の肩が、異質なリズムで小さく刻み始める。

それは、嘆きではない。

肺の奥からせり上がる、この不条理な世界に対する、狂おしいまでの**「怒り」**だった。


「……あ」


カズの傷口に触れていたエリスの指先に、ドス黒い魔力がまとわりつく。


冷徹に事態を見つめていたアリスの背筋に、かつてない戦慄が走った。


「……何だ……? エリス、その魔力は……!」


アリスが叫んだ瞬間、エリスがゆっくりと顔を上げた。


月光を反射していた青い瞳。その右目が、内側から()ぜるかように**真紅の赤眼せきがん**へと染まり、瞳孔が獣のように鋭く裂ける。


「……お姉ちゃん。……先輩を、返して!」


声から感情が消えていた。


同時に、エリスの全身から噴き出した漆黒の魔力が、彼女のメイド服を侵食し、夜の闇に溶けるような「暗殺者の装束トランス」へと変貌させる。


エリスはどこか取り出したのか分からない双剣を両手に握りしめている。


「エリス……お前、その眼は……『イデア』の……!」


アリスが言い切るより早く、エリスの姿が掻き消えた。

磁気加速も、電磁抜刀も介さない。ただの「移動」が、音速を置き去りにした。


――キィィィィィンッ!!


アリスが反射的に『三日月宗近』を抜いた瞬間、背後から放たれた黒い魔力の刃が、火花を散らして刀身と激突した。


「遅いよ、お姉ちゃん」


「っ……!!」


アリスは驚愕に目を見開く。


妹――エリスの動きは、もはや人間のそれではない。

闇に紛れ、影から影へと跳躍し、四方八方から音もなく死角を突く。


それは、フィッツジェラルドの家系に伝わるどの武術とも違う、原初の殺意が形を成したような暗殺術。


姉妹の死闘が、深夜のハイウェイを戦場へと変える。

アリスの放つ【雷閃・三日月】が、夜空を青白く切り裂く。


だが、覚醒したエリスは、その雷光さえも影の中に潜り込んで回避し、至近距離から魔力を凝縮させた掌打を叩き込む。


――ドォォォォォンッ!!


ハイウェイの防護壁が飴細工のように捻じ曲がり、アリスの身体が後方へと吹き飛ぶ。


だが、アリスもまた最強の狙撃手だ。空中で体勢を立て直し、磁気鞘を最大出力で解放する。


「調子に乗るな……エリス!!」


銀の雷鳴と、黒い深淵。


二つの魔力が真っ向から衝突し、周囲の空間がミシミシと悲鳴を上げる。


鍔迫り合いの最中、火花に照らされたエリスの顔には、かつてのあざとさも、優しさもなかった。


ただ、愛する者を奪った世界を塗り潰そうとする、絶対的な「負」の意志。


しかし、その力はあまりにも膨大すぎた⋯


「……ぁ、……っ」


エリスの赤眼が激しく明滅し、鼻から一筋の血が伝う。


まだ未熟な彼女の肉体が、臨界点を超えた魔力の出力に耐えきれず、悲鳴を上げ始めたのだ。


漆黒のオーラが霧散し、トランス状態が解除されていく。


エリスの右目から赤が抜け、元の、澄んだ青い瞳へと戻っていく。


「……せん……ぱい……」


エリスは力尽き、ふわりと意思を持たない羽のように、アリスの目の前で崩れ落ちた。


「……ふぅ……。エリス、その力、やはり……」


息を切らしたアリスが、倒れた妹へ歩み寄ろうとした、その時だった。


――パチパチパチと。

静けさの戻った戦場に、場違いな拍手の音が響いた。


「いやあ、素晴らしい。姉妹喧嘩の域を超えてるね。見てるこっちの寿命が縮むよ」


闇の中から、一人の男が姿を現した。

サイドを刈り上げた黒髪に、不敵な笑み。

アダム・


彼は、倒れたカズとエリスを守るように立ち塞がり、二丁のグロックをアリスへ向けた。


「そこまでだ、お嬢さん。うちの親友に、これ以上の無礼は許さないぜ?」


「……アダム、か。お前までその男にくみするのか」


アリスが刀を構え直そうとした瞬間、その場にいた全員の鼓動が止まった。


血の海に沈んでいた、カズの指先が動いたのだ。


宙に浮く黄金の精霊が、満足げに、そして尊大に高笑いする。


『――ふははは! ようやく目覚めたか。やはり我が目に狂いはなかった』


精霊はアリスを一瞥し、そしてカズの魂に直接語りかける。


『勘違いするなよ、お主。魔力を持たぬ凡俗に、我のような高位の精霊は宿れぬ。……お主が目醒めたということは、お主の内に眠る獅子が、ついに牙を剥いたということだ』


カズの肉体が、黄金の粒子と共にゆっくりと起き上がる。

アリスに斬られ傷口は既に塞がっていた

その瞳には、18回の敗北ですべてを失った男の「諦め」はない。


代わりに宿っているのは、大切なものを守るために、運命さえもねじ伏せる「覇道」の光。


「……待たせたな、エリス。アダムも……助かった」


カズは、気を失ったエリスをそっと抱き寄せ、アリスを真っ向から見据えた。


「アリス。あんたの言う『真実』が何であれ……俺はエリスを、もう二度と離さない」


カズの完全復活。

十九周目の夜は、ここから真の「反撃」へと転じる。


(第1章 第6話へつづく)

最後までお読みいただきありがとうございました!

ついにエリスが、そしてカズが覚醒しました!

エリスの赤眼(せきがん)と「暗殺者の装束トランス」、そして謎の双剣……。清楚なメイド服が闇に染まる瞬間は、作者としても特に力を入れたシーンです。

そして瀕死から立ち上がったカズ。黄金の精霊が告げる「獅子の牙」とは一体何を意味するのか? 十九周目にして初めて、カズが真の「覇道」に足を踏み入れます。

■次回予告:第1章 第6話『黄金の咆哮、偽りの断罪』

復活を遂げたカズの前に、さらなる事態が巻き起こる。

アリスの脳裏を支配する「偽りの真実」と、介入するアダム・ヘイスティングス。

そして、カズの手に握られるのは――父が遺した黄金の遺産。

「あんたの言う真実が何であれ、俺はもう二度と離さない」

反撃の狼煙が上がります。次回もお楽しみに!

面白い、続きが気になる!と思っていただけたら、ブックマークや評価、感想をぜひお願いいたします!執筆の大きな励みになります!

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