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第一章:十九回目の月光—第4話:三日月の雷鳴—獅子の目覚め

いつもお読みいただきありがとうございます!

前回(第3話)では、カズとエリスの出会い、そして二人の絆の象徴である「シルバーのベレッタ」の思い出を描きました。

今回のパート4は、回想から再び過酷な現実へ。深夜のハイウェイを抜け、二人はアダムのセーフハウスへと向かいます。しかし、静まり返った夜の街には、死の匂いを纏った「銀の死神」が待ち構えていました。

突如として放たれる、回避不能の魔弾。

そして明かされる、アリスが最愛の妹を追う「残酷な理由」とは……。

加速する絶望と、謎の精霊の出現。

物語が大きく動き出す第4話、どうぞお楽しみください!

磁気浮上で滑る愛車を、目的地から数ブロック離れた路地に乗り捨てた。


近代的なネオンサインが、湿ったアスファルトに毒々しい極彩色の影をぶちまけている。周囲の自動運転車オートカーたちが無機質なモーター音を響かせて流れる中、カズとエリスは影に紛れるようにして、高層ビル群の隙間――光の届かない街の「内臓」へと足を踏み入れた。


「……寒いですね、先輩」


エリスがメイド服の袖を震わせ、吐息を白く染める。その震えは寒さだけではなく、拭い去れない不安が形になったもののようだった。

カズは何も言わず、自身が羽織っていたコートをエリスの細い肩にそっとかけた。


「あぁ……今夜は特に冷えるな」


重い言葉を吐き出しながら、カズは自らの身体に内蔵された通信デバイスへと指を触れた。網膜上に投影されたインターフェースが瞬いた瞬間、コール音が脳内に直接響く。


『――おどろいたね。死んだと思ってたよ、親友!』


電話口の向こうから、緊張感の欠片もない、それでいて鋭利な刃物のような声が返ってきた。


「……アダムか。俺だ、カズだ」


カズの声は、低く、どこか達観した重みをたたえていた。

十八回の死を、文字通り身体に刻み込んできた男だけが持つ、独特の「死の匂い」がそこにはある。


『何の用だ? 武器か、それともヤバい情報か?』


「両方だ。話は合流してからにする。今から指定の場所へ向かう」


通信を切り、カズは隣を歩くエリスに視線を送った。


「行こう。アダムと合流すれば、魔力供給デバイスの予備も手に入るはずだ」


だが、その一歩を踏み出す直前。


カズの胸の奥で、憑依している「何か」が、警鐘を鳴らすように激しく震えた。


エリスの耳元で、鈴を転がすような澄んだ、しかし背筋を凍らせる不気味な音が響く。


(――来るっ!)

脳内に直接響く、尊大で幼い警告。


「エリス、伏せろ!!」


カズが叫び、エリスの細い身体を隣の路地裏へと突き飛ばした刹那。


世界が、物理的な「破砕」の音に包まれた。


――パァァァンッ!!!!!


空気を、空間そのものを引き裂くような轟音。


直後、悪魔が発したような高音と、鼓膜を削るノイズが真横を通り過ぎる。


(ピキャァァァァァァァン!!!)


それは弾丸が音速を超え、空気を断裂させた際に生じる真空の悲鳴だった。


カズが数秒前まで立っていた場所のアスファルトが、巨大なクレーターを作って弾け飛ぶ。着弾の衝撃波だけで周囲のビルの強化ガラスが粉々に砕け散り、銀色の破片が死の雨となって夜空から降り注いだ。


「っ……狙撃!? ……この威力……まさか、対物ライフルか!!!」


カズは崩れかけた壁に背を預け、荒い息を吐いた。肺に流れ込むのは、焦げたアスファルトと硝煙の臭いだ。


遥か遠方、一キロメートル以上先。月光を背にしたビルの屋上に、夜風に銀色の長い髪をなびかせる死神の影があった。

フィッツジェラルド・アリス


エリスの双子の姉であり、最強の狙撃部隊を率いる冷徹なリーダー。


彼女の傍らでは、特殊なバイザーを装着した観測手スポッターが跪いている。

熱感知、魔力流の計算、そして未来の移動軌跡すらも弾道計算に組み込む『神の眼』の観測。


『ターゲット、捕捉。共に謎の女性を視認。民間人を人質にしているかもしれません』


その報告を聞き、アリスはスコープを覗き込み、その「女性」を確認する。


次の瞬間、アリスの目が驚愕に大きく見開かれた。


彼女は傍らのスポッターに、絞り出すような声で問う。

「貴君のように優れた観察眼に問いたい。ターゲットの隣の美少女は何に見える!?」


『民間人の人質か、あるいはそれを装ったターゲットの仲間の可能性有り』


「……あれは……私の妹だ!!!」


アリスの声が、憎悪と悲痛に震える。

だが彼女は、数秒の沈黙を置いて、氷のような冷徹さを取り戻して付け加えた。


「……そして、父親の仇でもある」

「っ……次で終わらせる」


怒りに満ちた、だが完全に制御された「殺意」が夜気を凍らせる。


『次弾装填完了!! いつでも行ける!』


アリスの唇が、感情を排した声で「死」を告げた。

魔力供給デバイスを全開にした漆黒の銃身――バレットM82が、青白い光を帯びて咆哮を上げる。


「聖裁の時は来たれり。我は神の右腕なり、断罪の鉄槌をここに――」


――【魔弾:炸裂貫通弾バースト・ピアッサー


――パァァァンッ!!!!!!


放たれた.50口径の巨大な弾丸は、空中で物理法則を嘲笑うように激しく明滅し、一瞬にして数十の「光の矢」へと分裂した。

それは回避不能の、光り輝く死の網。


「エリス、来るな!!」


カズは反射的にエリスを瓦礫の影へと押し込み、自らが肉の盾となった。


直後、銀色の死神たちが、カズの肉体を無慈悲にえぐり、食い破る。


「ぐっ……が、がはっ……!?」


脇腹、左腕、右の太もも。肉を削り、骨を粉砕する鈍い衝撃。


アスファルトに鮮血がぶちまけられ、カズの身体は弾丸が着弾・貫通した凄まじい衝撃で数メートル後ろに飛ばされた。

ビルの分厚いコンクリート柱に背中から叩き付けられ、重力に従って地面へとずり落ちる。


『……着弾確認。左脇腹、左腕、右大腿部。致命傷には至りませんが、機動力は完全に喪失』


スポッターの報告を聞き、アリスはライフルの安全装置をかけた。


「……接近戦に移行する。生け捕りにして、父さんの仇を……すべて吐かせる」


     *


「いやあぁぁぁぁ! !! せん……ぱいっ! やだ、やだやだやだぁぁぁぁ!!! 起きてください!!」


エリスの、魂を切り裂くような悲鳴が夜空に響く。


彼女は瓦礫から飛び出し、血の海に沈むカズの元へと駆け寄った。


(熱い……なんで、こんなに……っ!)


震える手でカズの傷口を必死に塞ごうとするエリスの指先に伝わったのは、内臓を焼かれた「命」の猛熱だった。

小さな手の隙間から、ドク、ドクと波打つたびに、命そのものである鮮血が嘲笑うように溢れ出す。


エリスの真っ白なエプロンが、見る間にどす黒い赤に染まり、重く湿っていく。


「エリス……に、げ、ろ……」


意識が遠のくカズの脳裏に、再びあの凛とした、尊大な少女の声が響いた。


『――やれやれ。お主、まだこんな所で死なれては困るのじゃ。我の計画が狂う』


カズの胸の中から、黄金の光を放つ手のひらサイズの美少女が浮かび上がった。

二十センチほどの身体。虹色に輝く透明な羽。 白い清楚なワンピース。


「……何、だ……お前……」


『ただの精霊じゃ。お主があまりに無能なゆえ、見ておられんでの。一度だけ手を貸してやる』


精霊が小さな手をかざすと、カズの傷口が黄金のオーラに包まれた。

激痛が引き、裂けた肉が、砕けた骨が、超常の速度で繋ぎ合わされていく。

『勘違いするな。お主が死ぬたびに時を戻している能力も、元を正せば我の力。……お主自身には、まだ何も力などない。今は、な』


「なん、だって!! 死に戻りの力は……俺の!?」


精霊は意味深にニヤリと笑うと、再びその光を潜めた。

再生した身体で立ち上がろうとするカズ。だが、路地の入り口から地響きのような重厚な軍靴の音が響く。


(クっもう来やがったか)


「……生け捕りにして、すべてを吐かせるつもりでしたが……やはり、ここで消えてもらう方が賢明なようです」

「ん?貴様!着弾したはずなのになぜ立っている?」


現れたのは、銀髪を夜風に揺らし、名刀『三日月宗近』を抜いたアリスだった。

百六十五センチの凛とした立ち姿。右目尻の泣きぼくろが、冷徹な月光の下で際立っていた。


「……お姉ちゃん! ?……やめて……っ!!」


エリスの絶望的な制止も虚しく、アリスは磁気加速鞘をキィィィィンと鳴らし、目を閉じ、居合の構えをとる。


カズはエリスを庇う形で前に割り込み、アリスに声をかけた。

「俺もあなたに聞きたいことが沢山あります」


「黙ってエリスを解放しなさい。さもないと――」


アリスは再び目を閉じ、さらに深く居合の構えを沈める。その周囲の空気が、電磁的な火花でチリチリと焼ける。


「エリス、その犯罪者から今すぐ離れて」


「違う!先輩は」

エリスの説得の言葉も虚しくアリスは唱える


電磁抜刀術。


「終わりです」


【雷閃・三日月らいせん・みかづき


抜刀、一閃。


磁気加速によって、抜刀から納刀まで僅か0.3秒!!

放たれた三日月形の雷光斬撃が、夜のとばりを無慈悲に切り裂いた。


治癒(ちゆ)したばかりのカズの腹部を、再びその刃が深く、あまりにも残酷に抉り取る。


カズは抵抗する間もなく、その衝撃で一歩も動けないまま固まった。

「が…………っあ!!」


雷光斬撃と日本刀の鋭利な切れ味、さらに雷を宿し飛来する斬撃の熱。


カズの腹部の傷は、再び稲妻の熱で焼かれ、肉を炭化させ、再生不可能なまでに深い損傷を負わされていた。


今度は、精霊は助けてくれなかった。


宙に浮く黄金の少女は、ただ不敵に笑い、カズの魂が「臨界点」に達するのを、冷酷なまでに楽しそうに見つめている。


「……っ、せん、ぱい……!」


エリスは再び倒れたカズの横にへたり込み、魂が抜けたような目で、神に祈るように、あるいは呪文を唱えるように、小さな声で何かを呟き始めた。


「タスケテクダサイ……タスケテクダサイ……タスケテクダサイ……タスケテクダサイ……」

エリスの瞳からはもう光が消え、涙さえも枯れ果てていた。

ただ、壊れた機械のように、血まみれの指を震わせながら、タスケテクダサイと、何度も、何度も、虚空に向かって呟き続けていた…


第4話、いかがでしたでしょうか!

アリスの放った「父親の仇」という衝撃の一言。そして、謎の精霊が語った「死に戻り」の真実。物語の謎が一気に加速し、絶望が街を飲み込んでいくような展開に、手に汗握っていただけたなら幸いです。

特にラスト、壊れた人形のように祈り続けるエリスの姿……彼女の心は、このまま闇に呑まれてしまうのか? 姉であるアリスの「正義」は、果たして正しいのか?

次回、第5話。ついに物語は臨界点を突破します!

闇に堕ちたエリスの咆哮、そして「魔力なき人間には宿れない」はずの精霊が、なぜカズの中にいるのか? その全ての答えが、爆発する魔力と共に明かされます。

「救いはないのか……!?」と思った皆様、次回の覚醒を絶対に見逃さないでください!

もし少しでも「続きが気になる!」「エリスを救いたい!」と思ってくださったら、ブックマーク登録や下の評価【☆☆☆☆☆】をポチッと押していただけると、執筆の巨大な魔力モチベーションになります!

一ノ瀬和の反撃、ここからが本番です。どうぞお見逃しなく!

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