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第一章:十九回目の月光 第2話:巻き戻る月光 — 真実のぬくもり

いつもお読みいただきありがとうございます!


前話までのあらすじは。


18回の凄惨な死を繰り返してきた主人公、一ノ瀬 カズが、ついに19周目の夜を迎えました。

エリスが向ける復讐の銃口。しかし、カズはその瞳に宿る真紅の光と、窓の外に潜む「金色の髪の男」**という、過去のループには存在しなかったイレギュラーを目撃します。

「23:40に、書庫で待ってる」

エリスに謎の言葉を残し、自ら引き金を引いてリープを強制起動させたカズ。

今回のパート2は、その銃声が止んだ直後――リープした先の世界から物語が動き出します。

果たして、カズの残した言葉はエリスに届いているのか?

そして、一ノ瀬屋敷で待ち受ける残酷な真実とは……。

加速する十九周目の物語を、どうぞお楽しみください!

 ――視界を焼き尽くすような白光が、網膜の裏側で弾けた。


 直前まで鼓膜を震わせていた、野蛮なまでの銃声。

 鼻腔を焼いた硝煙の臭い。


 そして、自らのこめかみを突き抜けた、あの焼き尽くすような弾丸の熱さ。


 そのすべてが、一瞬にして凪いでいた。


「……戻ったか」

 カズは、死の残滓を振り払うように小さくそう呟いた。


 *


 一方、その頃。

「…………っ、はぁ……はぁ、……っ」

 エリスは、自分自身の荒い呼吸の音で意識を浮上させた。

 肺が、空気を求めて激しく上下するのを感じる


 立っているのは、屋敷へと続く離れの廊下だった。

 窓から差し込む一月の月光が、青白く、静まり返った床を照らしている。


 エリスは震える手で、自分の顔や身体をなぞり確かめる


「血が……消え……てる……!?」


 さっきまで、彼女の手は先輩の温かい鮮血の返り血で赤黒く染まっていたはずだ。

 メイド服の白は、どす黒い死の色に塗りつぶされていたはずだ。


 だが今、彼女の服は汚れ一つなく、指先には鉄の臭いすら残っていない。


 信じられない思いで、月光を反射する窓ガラスを覗き込んだ。

 そこには、絶望に顔を青ざめさせた自分の姿がある。


 その右の瞳が、月光の加減か、あるいは極限の疲労による幻覚か――一瞬だけ、不気味なほど鮮烈な**「真紅」**に明滅した。


「ひっ……!」


 エリスは短い悲鳴を上げ、その場にへたり込んだ。


 心臓の鼓動が耳元でうるさいほど鳴り響く。

 理解不能な超常現象への恐怖、だがそれ以上に、彼女の脳裏を支配したのは、死の間際にカズが遺した言葉だった。


『23:40に時が戻る。……書庫で待ってるからな、エリス』


 震える手で、この時代には似つかわしく無い腕時計を確認する。

 文字盤が非情に告げていた。


【23:42】


「うそ……? 本当に……戻ったの……?」


 エリスは膝を叩き、書庫へと続く静まり返った廊下をなりふり構わず走り出していた。

 廊下を駆けるメイド服の衣擦れが、静寂を暴力的に引き裂く。


 彼女の家がある方向――隣の敷地からは、言いようのない不気味な何かが漂ってきている。


 それが「手遅れ」であることを告げているようで、背筋に冷たいものを流し込まれたような感覚が走った。


(お願い……生きてて、生きててください、せんぱいっ……!)


 祈るように、書庫の重い扉を両手で押し開く。


「……っ、先輩!!」


 扉の向こう、月光に照らされた書庫の特等席。

 そこには、背を向けて立っている一人の男がいた。


 十八回、地獄を見てきたその背中には、死の気配など微塵も感じられない「生」の重みがあった。


 ゆっくりと、その影が振り返る。


「……遅かったな、エリス」


 その声。

 さっき、自分の目の前で永遠に失われたはずの、穏やかで少しだけ意地悪な、大好きな声。


「あっ…………ぁ…………」


 エリスは、声にならない叫びを上げてカズの元へと駆け寄り、そのまま彼の胸に、弾かれたように顔を埋めた。

 鼻腔をくすぐるのは、硝煙ではなく、アールグレイの微かな香りと、彼自身の体温。


そのぬくもり、いつもの優しい声にエリスは本当に本物?と言うようにカズの顔を見るなり、エリスの感情が爆発したのか、カズの胸を小さな握り拳で叩きながら


「……バカ!先輩のバカ! どれだけ心配したと思ってるんですか、この大バカ先輩……っ!

もう、むちゃくちゃですよ こんな気持ち、重機ボット使っても全然…修復不可能なんですからね………っ!!」


「…ごめんな、でもエリス。ああでもしないと、君はあそこで俺を、本気で殺していただろう? 」


「っ……………!!」


(叩いていた手が止まり、カズの視線から逃げるように顔を埋める)


「……ごめんなさい! ごめんなさい!! 先輩……っ!!」


 エリスの細い指先が、カズのシャツを強く握りしめる

 五年間の憎しみ、復讐という名の仮面。

 それらが、彼の胸のぬくもりに触れた瞬間、音を立てて崩れ去った。


 エリスの嗚咽が、深夜の書庫に響き渡る。


「私……私、先輩のこと……犯人だと思って……殺そうとして……っ!!」


 カズは何も言わず、ただ震えるエリスの頭を、大きな手で優しく撫でた。

 その慈しむような手つきに、秘めた想いが微かに漏れ出す。


 愛しているとは簡単に言えない。だが、何があってもこの少女だけは守り抜くという、狂気にも似た執念。


「いいんだ、エリス。……君には、そう見えるはずだったんだから」


「ちがうんです……! 私……あの事件の夜、窓から見てしまったんです……!」


 エリスは過呼吸気味になりながら、十九回目にして初めて、呪われたあの日の一幕を語り始めた。


「先輩が、私の家の方へ走ってくる姿を……! 窓の外、暗がりの木々の隙間に……月光を浴びて、不気味に輝く金色の髪。あれは、絶対に先輩だった……! だから、お父さんを殺したのは先輩なんだって、ずっと思って……っ!!」


 カズの指先が、一瞬だけ止まった。

 金髪の、自分にそっくりの男。


 それは、さっき死ぬ直前、書庫の窓の外で目撃したあの「影」と完全に一致する。


(やはり、あの金髪の男……)


 戦慄がカズの背中を走る。


 自分が家族の遺体を見つけるよりも前、すでに犯人はこの場所にいたのだ。


 十九回目にして過去の事実が変わり始めていることに気付いたカズは、エリスに告げる。


「……エリス、よく聞いてくれ。十八回目、俺がエリスの前で死ぬ前に、その金髪の男……俺もさっき見たんだっ! あの事件の犯人は俺じゃない!!」


「……えっ……?」


「窓の外に立つ、金色の髪の男を。……あいつが、すべてを奪った真犯人に違いない」


 カズの瞳に、極寒の殺意が宿る。


 自分を殺し続けてきたあいつは、ただの殺人者ではない。

 自分たちの運命を、家族の命を、文字通りおもちゃのように弄んでいる「何か」だ。


 エリスは顔を上げ、涙に濡れた瞳で彼を見つめた。


「先輩じゃ……なかった……? 犯人は、別にいる……?」


 カズはエリスの両肩を掴み、真っ直ぐに彼女の青い瞳を見つめた。


「ああ。……でも、あまり時間が無い。エリスは少しここで待っててくれないか? すぐ戻るから」


「でも、さっきも、今も……私、先輩が犯人じゃないこと、薄々、気付いてました。だって先輩は、あんな悪魔のような冷たい目はしないから!」


 それを聞いたカズはエリスに笑みを返し、そっと頭を撫でて「すぐ戻る」と告げ

 そのまま、彼は屋敷のリビングへと向かって歩き出した。


「十八回目のリープでアイツははじめて現れた!」

 ならリビングでの事実も何か変わっているかもしれない。


 カズは長い廊下を歩きながら、思考を研ぎ澄ませる。


 そして、リビングの扉の前。


 深呼吸して、扉をゆっくり開け放つ。


 鼻を突いたのは――暴力的なまでの、鉄の臭い。


 意を決して、照明のスイッチを入れる。


「…………っ、……ぅ」

 視界に飛び込んできたのは、言語を絶する「地獄」だった。


 リビングの真っ白な絨毯は、どす黒い赤に塗りつぶされていた。

 父、母、姉のサクラ、そして、妹のミオまでも

 四人の家族から流れ出した血、体液、そして絶望。


 それはまるで、ここで一軍の軍隊が虐殺されたかのような惨状だった。


 妹が大切にしていたぬいぐるみは赤く染まり、家族の団欒(だんらん) の象徴だったテーブルは、無慈悲に跳ね飛ばされている。


 胃の底から熱いものがせり上がり、カズは思わず壁に手を置き、その場に嘔吐した。


 何度見ても、この悲惨で残酷な光景には慣れることなどできない。


 吐き気を堪え、カズは思考を巡らせる。


「アイツはこの後、その足でエリスの家の方へ走って行き……エリスの親父さんも殺した……」


 カズの眼には、激しい怒りや憎しみの炎が宿っていた。


 しばらく痕跡を探したが、あの男を目撃したこと以外は、いつもと変わらぬ残酷なまでの惨状。何も進展する情報は見つからなかった。


 カズはエリスの待つ書庫に戻ることに決め、リビングを後にした。


 書庫に戻るなり、彼はエリスに告げる。


「エリス。ここには、もういられない。……すぐに朝が来る。家族の……いや、この惨劇が発見されれば、俺たちは真っ先に容疑者として追われる身になる」


 エリスは真剣に、それでいて心配そうな顔でカズをじっと見つめ、話を聞いていた。


 沈黙が書庫を支配する

 奥のリビングに横たわっている物言わぬ家族たち、そして隣家で冷たくなっているはずのエリスの父親。

 それらに別れを告げるように、カズは静かに佇んでいた。


 すぐそこまで迫っている「地獄」の予感が、二人の首筋をなぞる。



「……わかりました……」



 エリスは、まだ震える手で涙を拭った。


 感情の整理はついていない。だが、カズの手が、嘘偽りのない温かさで自分を導いていることだけは理解できた。


「もうっ……、本当に……わけが分かりませんよっ! これで……これで嘘だったら、次こそは本当に殺しますから!!」


 いつもの口調、少しだけ頬を膨らませ、そして最後の言葉は、ドスの効いた低い声で放たれた。


 強がることで絶望を押し殺そうとする、エリスなりの「武装」。


 カズはその姿に、微かな安堵を覚えた。

 だが、最後の言葉だけが、カズの胸に重くのしかかるように響いた。


「行こう、エリス。……まずはアダムと合流する」


 カズはエリスの手を強く握り、静寂に満ちた死の屋敷を後にした。


 闇に溶けるように、二人の影が夜の街へと消えていく。


 二人の運命の十九周目が、静かに回りはじめた。

第2話をお読みいただきありがとうございます。


 カズの生存を確認し、エリスの疑念が晴れた瞬間。

そして、突きつけられる家族の凄惨な最期……。

 ここから二人の孤独な戦いと、真実への逃避行が始まります。

 もし面白いと思っていただけたら、評価やブックマークをいただけますとひじょうに励みになります。


では次回、第3話でお会いしましょう。

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