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第二章: 偽りのぬくもりと錆びた心臓-第13話:空白のリビングと、地下三階の機械仕掛けの妹

いつもお読みいただき、本当にありがとうございます!作者のくろねこパパです。X(旧Twitter):https://x.com/k7nature1

【前話までのあらすじ】

十八回の死を越え、ようやく掴み取ったはずの十九回目の朝。

しかしカズを待っていたのは、システムの日付は同じ「十九回目」でありながら、全く違うルートへとバグってしまった世界だった。

冷たい態度で接してくるエリスが差し出した「殺意の紅茶」を、カズはあえて飲み干す。彼女を縛るこの狂った仮想地獄ループを完全に破壊し、救い出すと誓って――。


ここからいよいよ、新章へ突入します。

第二章『偽りのぬくもりと錆びた心臓』、開幕です。

「――いただきます、エリス」



喉を焼くような熱い毒の感覚が、食道を通って胃の腑に落ちる。

直後、カズの全身を痺れるような劇薬の痛みが襲った。だが、それと同時にカズの体内で眠っていた黄金の魔力【アルファ】が激しく脈打ち、侵入した毒素――あるいは致死性のナノマシン――を瞬時に分解し、無害な熱へと変換していく。

毒殺による強制リセット。その目論見を物理的にねじ伏せたカズは、静かにティーカップをソーサーに戻した。


「……ごちそうさま。美味しかったよ」


「…………っ」


冷徹なメイドを演じていたエリスの青い瞳が、信じられないものを見るように大きく見開かれる。

だが、カズはそれ以上何も言わず、静かに書庫の扉を開けて廊下へと出た。


向かう先は一つ。つい先ほどまで、サクラとの凄惨な死闘が繰り広げられていた一階のリビングだ。


(あの地獄も、確かに十九回目だった。俺の脳内のシステム日付がそう告げている。なら、あそこにはサクラの亡骸と、血の海があるはずだ)


重い足取りでリビングのドアを押し開ける。

しかし、カズの目に飛び込んできたのは――完璧に整頓された、生活感のない無機質な空間だった。

床を濡らしていたどす黒い血も、砕け散った家具も、そして浄化されて、倒されたはずの姉・サクラの姿もあの時の(すす)の痕跡も、どこにもない。まるで、最初から何も起きていなかったかのように。


「そりゃそうじゃ。不思議そうな顔をしておるな、カズよ」


背後の空間が揺らぎ、黄金の精霊シフティがふわりと姿を現した。


「お主らがミオとサクラの『偽り(クローン)』を完全に浄化したからじゃ。不純物が消え去り、この空間の因果律が修復された。ただそれだけのことよ」


(……全部、無かったことになったのか。あの痛みも、サクラの涙も)


カズはギリッと奥歯を噛み締め、リビングの奥へ歩み寄る。本棚の隅。そこには、あの日、サクラに渡すはずだった『プレゼントの箱』だけが、ポツンと残されていた。

カズは震える手でその箱を拾い上げ、静かに脇に抱える。


「……行くぞ。休んでいる暇はない」


カズの瞳には、かつてない冷たい炎が宿っていた。

狂ったループ。自分を刺した透明な影。エリスのバグ。そして、父が関わっていた巨大な闇。

その全てを暴き出し、このふざけた盤面をひっくり返すために。


     *


数時間後。

カズ、エリス、そして合流したアダムの三人は、アダムの隠し地下セーフハウスで息を潜めていた。

「サクラとミオがクローンだったなら……『イデア・ジェネシス』の旧研究施設に、何らかのデータや研究の痕跡が残っているかもしれない」


アダムがホログラムマップを展開し、険しい顔で告げる。

ターゲットは、市街地から遠く離れた山間部。広大な山を丸ごと切り開いて作られた、地上施設と地下五階からなる巨大な要塞――『旧イデア研究施設』。


一行はすぐさま武装を整え、闇に紛れて要塞への潜入を開始した。


施設内部は、異様なほどの静けさに包まれていた。

放棄されてから長い年月が経っているはずなのに、無機質な壁や床には埃一つない。


「……警戒しろ。何かいる」


地下への階段を下り、地下二階の通路へ差し掛かった時だ。アダムが低く唸った。

暗がりの先に、一つの人影が立っている。

エリスがスッと前に出て、懐からシルバーのベレッタを抜き構える、カズも【アルファ】の魔力を込めたアルファ・レオンを抜き構えた。


だが、非常灯の薄暗い光がその人影を照らし出した瞬間、カズは息を呑んだ。


「……お姉ちゃん、どうしてここに……!?…また先輩を狙って!」


エリスが敵意を剥き出しにして叫ぶ。

そこに立っていたのは、軍服を身を纏い、鋭い日本刀を下げた姉――アリスだった。


かつて洗脳され、カズたちの前に立ち塞がった最強の刃。

しかし、鉢合わせになったアリスは、抜刀するどころか、カズたちを見て茫然と立ち尽くしていた。


「お前は……エリス……? なんで、あなたたちがここに……」


彼女の瞳から、かつての冷たい狂気は消え失せている。

サクラのクローンが消滅した瞬間、アリスの脳を縛っていたイデアの洗脳プログラムも完全に崩壊していたのだ。我に返った彼女は、自分自身の記憶の欠落と、クローン計画の真相を探るため、単独でこの施設に潜入していた。


だが、エリスの警戒は解けない。カズを守るように前に出る彼女の肩を、カズは優しく叩いて制止した。


「……先輩?」


「いいんだ、エリス。アリス姉さんは、もう敵じゃない」


カズはゆっくりとアリスに歩み寄り、その手を取った。

これから真実を全て見せますといい、カズはアリスの額に軽く手を添えた。


そして、自分の中に渦巻く強大な魔力【アルファ】を使い、直接アリスの脳内へ『思念伝達テレパシー』を繋ぐ。


――見てくれ、俺たちが、何を乗り越えてきたのかを』

瞬間、アリスの脳髄に、カズが体験した地獄が濁流のように流れ込んだ。


十八回の死。絶望。血の海。狂いゆく妹。泣き叫ぶ姉。そして、何度も何度も心をすり減らしながらカズを守り続けたエリスの孤独な戦い。


「あ……ああ……ッ!」


映像を受信したアリスが、膝から崩れ落ちた。

華奢な肩が、激しく震える。


「ごめん……ごめんなさい……! 私、何も知らなくて……エリスに、あなたに、あんな酷いことを……ッ!」


ポロポロと大粒の涙を溢れさせ、アリスは床に手をついて嗚咽した。本当は誰よりも妹思いで、優しかった姉の涙。


「……お姉ちゃん」


小さく呟いたエリスの目からも、一筋の涙がこぼれ落ちる。エリスはベレッタを下ろし、床に泣き崩れるアリスの元へ駆け寄ると、その体を強く抱きしめた。


「もういいの。お姉ちゃんが戻ってきてくれたなら……それで、十分だから」


白銀の髪を持つ姉妹が、暗い地下通路で互いの温もりを確かめ合うように抱きしめ合う。

最強の刃が、ついにカズたちの味方として合流した瞬間だった。


     *



アリスという絶大な戦力を得た一行は、さらに施設の深部へと駒を進める。

たどり着いたのは、地下三階。

これまでの階層とは明らかに異質の、無機質なシルバーの壁がどこまでも続く、不気味なほど長い廊下。


「……この奥だ。何らかの強力な生体反応と……電子的な電力を感じる」


アリスが日本刀の柄に手をかけながら囁く。

廊下の突き当たりにある、重厚なチタン合金の扉。アダムがハッキングデバイスを接続し、電子ロックを解除すると、プシューッという重い排気音と共に扉が左右に開いた。


「……なっ!?」


中へ踏み込んだ瞬間、カズは全身の血液が凍りつくような悪寒に襲われ、驚愕に体を震わせた。

誰もいないはずの薄暗い部屋。


その奥の壁に、力なくへたり込んでいる『一人の少女』の人影があった。


顔は、カズの妹――ミオそのものだった。

だが、首から下は、皮膚の剥がれた冷たい金属フレームと、無数のケーブルが剥き出しになった『機械のアンドロイド』だったのだ。


「なんだ、これは……親父は……一体何を作ろうとしてたんだ……?」


カズの声が震える。

長年放置されていたのか、そのミオ型アンドロイドは完全に動力を失い、うつむいたままピクリとも動かない。

一ノ瀬の父親が、クローン技術だけでなく、こんな機械人形まで作っていたというのか。


カズが思わずその痛々しい姿に歩み寄ろうとした、その時だ。


「先輩、何か様子がおかしいです……ッ! 下がって!!」


エリスが鋭い声で叫び、カズの前に立ち塞がった。


『ピィン……ジィィィ……』


完全に死んでいたはずの部屋に、微かな、しかし明瞭な電子的な起動音が響き渡る。

壁にへたり込んでいたミオ型アンドロイドの指先が、カチャリと動いた。


ゆっくりと、機械の首が持ち上がる。

開かれた無機質な瞳孔の奥で、赤いLEDの光が不気味に点灯し悲しげな顔でカズを見る。


一ノ瀬家のお手伝いロボットとしてプログラムされているそのAIは、視界に捉えた『カズ』の顔を顔認識システムで照合し、スピーカーからノイズ混じりの音声を再生する。


『――オカエリナサイマセ、カズ様』


大好きだった妹の顔。だが、決して「お兄ちゃん」とは呼ばない、抑揚のない冷たい機械の少女の声が、地下三階の冷たい空気にこだました。


第二章第14話へと続く

いつも『19回目の殺意を紅茶に添えて』をお読みいただき、本当にありがとうございます!

今回から第二章『偽りのぬくもりと錆びた心臓』がスタートしました。


カズの思念伝達テレパシーによる過去の共有からの、洗脳が解けたアリスとエリスの姉妹による感動の和解シーン。作者としても、白銀の姉妹がようやく抱き合うことができて感無量でした……が!


その直後に待ち受けていたのは、死んだはずの妹・ミオの顔を持つ不気味な機械人形アンドロイドでした。

大好きだった「お兄ちゃん」という呼び方ではなく、冷たい機械音声で「カズ様」と呼ぶ彼女は、果たして父が遺した希望なのか、それともイデアの新たな絶望なのか。


次回、第14話!

動き出したアンドロイドミオの謎と、旧研究施設に鳴り響く警報。白銀の姉妹(アリス&エリス)の初共闘アクションが火を吹きます!


※少しでも「面白かった!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、ページ下部の**【★・評価】や【ブックマーク】**での応援をよろしくお願いいたします!

カズたちの戦いと、作者の執筆スピードの最大のエネルギーになります!次回もお楽しみに!





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