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(第一章・完結)第12話:十九回目の朝-あるいは偽りの福音

読者の皆様、いつも『19回目の殺意を紅茶に添えて』を応援いただき、ありがとうございます。作者のくろねこパパです。


https://x.com/k7nature1


ようやく?安定してエリスを生成できるようになりました。

次はアリスやカズ、アダムもミオもサクラも課題山ずみですが、皆様の応援が非常に励みになります。

挿絵等更新され次第Xにてポストしますのでチェックしていただけると嬉しいです。


さてストーリーは遂に第一章完結です。


【前話までのあらすじ】

サクラとの死闘の末、カズはついに彼女を浄化し、狂ったループを脱却したかに見えた。

だが、安堵の直後――誰もいないはずの虚空から現れた「透明な影」に背後から心臓を貫かれ、カズの意識は再び暗闇へと沈んでいく。


十八回の敗北を経て、ようやく掴んだはずの十九回目。

目覚めたカズを待っていたのは、見慣れた書庫と、どこか「様子のおかしい」メイドのエリスだった――。


第一章 【十九回目の月光】 完結


「――死ね」


背後から突き刺さったのは、無機質で、ひどく冷たい声だった。

いや、言葉だけではない。背中から胸元へ、熱い鉄の塊が深々と貫通している。

つい数秒前まで、妹・ミオを救い、姉・サクラを浄化した、黄金の魔力【アルファ】が吹き荒れていたリビング。

その床に、カズの体内から溢れ出した鮮血が、どす黒い彼岸花のように広がっていく。


(誰だ……? 俺を殺したのは……)


薄れゆくカズの瞳に最後に映ったのは、血溜まりの向こう側――誰もいないはずの虚空が、まるで陽炎かげろうのように不自然に歪む光景だった。

輪郭を持たない。顔も見えない。

ただ、空間そのものが人型に切り取られたような「透明な影」が、そこにあった。


「……ぁ……あ……」


カズの意識は、そこで途絶えた。

十八回の敗北を経て、ようやく掴み取ったはずの十九回目の朝。

だが、その成功は、これまでのどんな死よりも理不尽で、残酷な「殺意」によって強制終了させられた。


     *


アールグレイの、華やかな香りがした。

窓から差し込む柔らかな陽光が、瞼の裏を優しく叩く。


「……はぁっ!!」


カズは弾かれたように上体を起こした。

見慣れた、いや、見飽きたはずの光景がそこにあった。一ノ瀬家の地上階にある、日当たりの良い書庫。

その革張りの椅子に、俺は一人、深く腰掛けていた。


(生きている、のか……? 背中の傷はない。なら、ここは……『二十回目』の朝か?)


カズは現状を把握するため、ナノマシンが脳内に直接投影している『システム・ステータス』へアクセスした。

視界の端に、無機質な電子の光で『現在時刻・システム日付』が浮かび上がる。


「……っ!? な、なんだ、これは……」


息を呑む。そこに投影されていた年月日は、あの凄惨な『十九回目』が始まった日と、全く同じ『2100年○月×日』だった。


――フラッシュバック。

カズの脳内ストレージに記録された、つい先ほどの光景が鮮烈な映像として再生される。

黄金の魔力【アルファ】が吹き荒れるリビング。血の海に倒れるサクラ。そして、俺を背後から貫いた、空間を歪ませる『透明な影』……!


――現実。


カズの思考は、そのフラッシュバックと目の前の日付を紐付け、最悪の事実を導き出した。

(あのリビングの地獄も、19回目だった。そして今目覚めたここも、19回目。カウンターが進んでいない……?)


「……くくくっ。寝ぼけておるのか、カズよ。二十回目などではないぞ」


書庫の影から、不敵な笑みを浮かべて現れたのは、黄金の精霊シフティだった。

彼女はカズの動揺を面白がるように、笑いながら宙を舞う。


(……この十九回目は、絶対に越えられない『永遠のループ』なのか……?)

越えようとする度に殺され、何度死んでも『十九回目』のスタート地点に引き戻される。だとしたら、ここはただの死に戻りじゃない。完全にバグった、終わりのない地獄だ。


「……お目覚めですか、先輩…」


絶望に沈むカズの思考を遮るように、涼やかな、しかしひどく温度の低い声が響いた。

ドアの傍らで、完璧な所作で一礼したのは、銀髪のメイド・エリスだった。


「先輩? 顔色が優れませんね。……少し、熱があるのではないですか」


いつものような「先輩」というあざと可愛い甘えは一切ない。

ツンとした、どこか突き放すような冷たい響き。

その態度を見た瞬間、カズは脳内のシステム日付と結びつけて、一つの事実を確信した。


(日付は同じ十九回目。なのに、エリスの態度が全く違う……。ここは俺が知っている十九回目じゃない?ループの回数は同じでも……完全にバグった『別のルート』に入り込んでいる?)


それを確かめるにはあの地獄の惨状が広がっていたリビングを確認するしかないなと考えた。


エリスが静かに歩み寄り、椅子に座り込んでいるカズの額に、そっと自分の白い手を当てた。


「……っ!」


その瞬間。

カズの内に眠る黄金の魔力【アルファ】が、エリスの肌に触れた途端に微かな「共鳴」を起こした。

カズの脳裏に、ノイズ混じりの『もやがかかったような奇妙なビジョン』が流れ込んでくる。


――暗闇の中で、何かがパラパラと崩れ落ちていく感覚。

――『……ごめんなさい……でも、私が……』という、ひどく悲痛な誰かの声なき思考。

――そして、命そのものが削り取られていくような、底知れぬ喪失感。


「……な、なんだ……今の……?」


カズが息を呑むと、エリスはサッと手を引っ込めた。


「……汗が酷いですね。さあ、喉が渇いているでしょう。お茶をどうぞ」


エリスは淡々と告げると、ティーカップをソーサーごと、カズの目の前のテーブルに置いた。

その時だ。

カップから手を離そうとした彼女の右手。

その指先が――**ピクッ、ピクピクッ!**と。


不自然に、まるで糸が絡まった操り人形のように、奇妙な痙攣けいれんを起こしたのだ。

それは、作られたクローンが見せる、崩壊の兆候『バグ』と全く同じ動き。


「先輩。いつまでそうやって呆けているおつもりですか? お茶が、冷めてしまいます」


エリスが、痙攣した右手を素早く背後に隠すようにして、再び冷たい表情を取り繕った。

突き放すような言葉。だが、カズには分かっていた。


シフティの無機質な視線。永遠の十九回目というバグった檻。そして、彼女の指先の痙攣。

この差し出されたアールグレイには、おそらく「俺を再びリセットするための【殺意】」が盛られている。


彼女が必死に冷たく振る舞う理由は、きっと、俺を殺す自分自身の心を麻痺させるためだ。


(……お前は、本当は俺を殺したくないんだろ?)


もし俺がここで拒絶すれば、彼女は無理やりにでも――その白い手を汚してでも、俺の命を絶たねばならないのだろう。


なら、選ぶ道は一つだ。


お前の手は、俺が絶対に汚させはしない。


カズはゆっくりと自ら手を伸ばし、差し出されたティーカップを静かに持ち上げた。


芳醇なアールグレイの香り。バグった十九回目。俺が知る世界が、ガラガラと音を立てて崩れていく。



「……いただきます、エリス」



毒だろうがなんだろうが、飲み干してやる。


喉を焼くような熱さ。偽りのルートの殺意が、カズの体内に染み渡っていく。


(永遠の十九回目……上等だ。エリス、お前に何が起きているのか。俺を殺したのは誰なのか。そして、この狂った世界を作ったのは誰なのか……全部、俺が暴いてやる)


薄れゆく意識の中、黄金の魔力を内に秘めたカズの瞳に、極寒の決意が宿る。


(俺が、お前をこのバグった地獄から引きずり出してやる――)


第一章『十九回目の月光』 ――完。

ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!

これにて『第一章:十九回目の月光』は完結となります。


妹と姉を救い、ようやく平和な朝を迎えられる……と思いきや、まさかの「バグった十九回目」への突入。

主人公を刺した透明な影の正体は?

そして、なぜエリスは冷たい態度をとり、自ら毒入りの紅茶を差し出したのか?


カズの言う通り、本当の「逆転劇」はここから始まります。


【次回予告:第二章『鋼鉄の乙女と緋色の共鳴』】

舞台は一ノ瀬家の屋敷を出て、2100年のネオン煌めく外界へ。

立ちはだかるのは、作られた命――異形のクローン・クリーチャーたち。

そして、謎の巨大組織「イデア・ジェネシス」の陰謀を追うカズの前に、軍服に身を包んだ「あの人物」が共闘者として合流!?


殺意の紅茶を飲み干したカズは、どうやってこのバグった世界を出し抜くのか。

スピードもアクションも謎解きも、第一章からさらに加速していきますので、ぜひご期待ください!


※少しでも「面白い!」「エリスどうなっちゃうの!?」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、下部の**【★で称える】**から評価ポイントを入れていただいたり、ブックマークをしていただけると、カズの魔力と作者の執筆スピードが爆上がりします!

引き続き、第二章もよろしくお願いいたします!


作者:くろねこパパ


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