表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/15

第一章:十九回目の月光 第11話:弓と彼岸花-届かなかった春のアルバム

読者の皆様、いつも『19回目の殺意を紅茶に添えて』を応援いただき、ありがとうございます。作者のくろねこパパ( https://x.com/k7nature1 )です。

第11話。ついに一ノ瀬家の長女・サクラとの決戦が幕を開けます。

文武両道を地で行き、誰よりもカズを愛し、守ろうとしていた姉。そんな彼女が、なぜ最強の敵として立ちはだかるのか。

魔法を無効化し、自らの力へと変える絶対防御。

追い詰められたカズに、精霊シフティが告げる「クローンの真実」と、偽りの命が放つ**「崩壊の予兆バグ」**とは。

一冊のアルバムに込められた、届かなかった春の想い。

月光の下で散る、彼岸花のような紅い結末を、どうぞ見届けてください。

 ミオが黒い灰となって月光に消えた、その直後だった。

 静寂に包まれたリビングの扉が開き、サクラが静かに足を踏み入れた。


 漆黒のタクティカルスーツに身を包み、手には身の丈ほどもある純白の和弓。

 彼女の瞳はミオと同じように赤く染まっていたが、そこにあるのは狂乱ではなく、凍てつくような「冷徹な怒り」だった。


「……ミオを、よくも壊してくれたわね。カズ」


「違う、姉さん! 俺たちはミオを救いたくて――」


 カズの言葉を遮るように、サクラが弓を引き絞る。弦が軋む音もなく、不可視の魔力の矢が番えられた。

 放たれた一撃は、空気を切り裂き、カズの頬を掠めて背後の壁を消し飛ばした。凄まじい破壊力だ。


「先輩、下がって! 私が、お姉さんの魔力も吸い取ります!」


 エリスが前に出て、ミオを浄化した『イデア・オメガ』の深淵を展開する。


 しかし、サクラは表情一つ変えずに再び弓を構えた。


「無駄よ、メイドさん」


 エリスの放った闇の吸収波がサクラに到達した瞬間――サクラの体が淡く発光し、オメガの魔力そのものを『吸収』してしまったのだ。


 そして、吸収した魔力は何倍にも増幅され、サクラの弓にドス黒い矢となって顕現する。


「なっ……私のオメガが、吸い取られた!?」


「精神が壊れていたミオとは違う。私の心は、誰にも侵されない」


「……くっ、魔法が効かないなんて……!」


歯噛みするカズの隣で、シフティが不敵に、だがどこか憐れむような目でサクラを見つめた。


「無駄じゃよ、カズ。あの娘らは、魂の器を無理やり繋ぎ合わされた『作りクローン』。精神を鋼のように鍛え上げれば上げるほど、肉体と魂の乖離かいりは激しくなる……。先ほど消えたミオの指先を見たかえ? あの**『不自然な痙攣バグ』**こそが、偽物の命が限界を迎えた証拠。サクラもまた、その崩壊の淵に立っておるのじゃ」


「……バグ? 姉さんが……壊れかけてるっていうのか!?」


「だが、壊れる前にウヌらを殲滅するだけの力は十分にあるようじゃな。皮肉なものよ、死の間際にこそ、その偽りの力は最大化されるのじゃから」


 サクラが弓道きゅうどうを極めた理由は、ただミオとカズを守るための力の追求だけではない。己の精神を鋼のように鍛え上げるための『動』の修練だったのだ。


 クローンとして作られた体であっても、彼女の圧倒的な精神力は魔法系攻撃を一切無効化し、自らの力へと変換してしまう絶対防御のチート能力と化していた。


「しまっ――!」


 サクラから放たれた反撃の矢が、エリスとカズを呑み込もうとしたその時。


 ――ズドンッ!!


 窓ガラスを突き破り、一発の『物理的な銃弾』がサクラの顔面を狙って飛来した。

 サクラは僅かに首を傾けて躱したが、鋭い弾丸は彼女の美しい頬を薄く掠め、一筋の赤い血が流れた。


「……チッ、遅れてすまない。魔法がダメなら、鉛玉なまりだまならどうだ?」


 窓枠にワイヤーでぶら下がりながら、アサルト(M4)ライフルを構えたアダムがニヤリと笑う。


(……血が、!? 魔法系は全く効かないのに、アダムの物理攻撃は効くのか!)


 カズはハッとした。

 だが、それは同時に、もっとも残酷な決断をカズに迫るものだった。

 魔法で浄化できないなら。彼女を止めるには、物理的な実弾で――本物かもしれない姉の肉体を、この手で撃ち抜かなければならない。


「姉さん……俺は……」


 カズの手が震える。黄金の銃『アルファ』ではなく、実弾装填のハンドガンを向ける手が、どうしようもなく震えていた。

 脳裏に、サクラとの温かい、けれど悲しい過去の記憶がフラッシュバックする。


------------------------回想--------------------------


 ――姉さんは、誰よりも完璧だった。

 弓道で『動』の精神を鍛え、茶道で『和敬清寂わけいせいじゃく』――心を無にして他者をもてなす『静』の心を学んだ。

 そして、花を愛する彼女は華道かどうにも打ち込んでいた。


『見て、カズ。綺麗でしょう?』


 ある秋の日、華道のコンクールで優勝したサクラが見せてくれたのは、燃えるように赤い『彼岸花ひがんばな』だった。

 春に咲く桜も好きだけれど、自分の存在を誇示するように咲き誇る彼岸花の美しさに、彼女は強く魅了されていた。

 だが、習い事と鍛錬にすべてを捧げていたサクラは、次第にカズやミオと過ごす時間を失っていった。


 あれは、数年前の春。サクラの誕生日だった。

 カズは、忙しい姉にどうしてもサプライズをプレゼントしたかった。

 姉が大好きな彼岸花を見せてあげたい。だが、春に彼岸花は咲かない。

 そこでカズは、休日ごとに愛用のカメラを持ち出し、レンズを覗いて様々な花を撮りためていたのだ。

 秋に撮ったコスモスや彼岸花。春のミモザや藤の花。

 季節を超えた美しい花たちの写真を一冊の『オリジナルの写真集』にまとめ、不器用なラッピングで包んだ。


『姉さん、喜んでくれるかな……』


 リビングのソファで、手作りのアルバムを抱えながらカズは待った。


 しかし、その日、サクラは帰ってこなかった。

 夜中の三時。待ち疲れたカズが眠りに落ちた後、泥のように疲労したサクラがひっそりと帰宅した。

 二人はすれ違い、言葉を交わすこともなく、カズの作ったアルバムは、ついにサクラの手に渡ることはなかったのだ。


(姉さんは、俺たちのために……自分の時間を全部削って、強くなろうとしてくれていたんだ。なのに俺は、何も分かってなかった!)



「……終わりよ、カズ。あなたたちを殺して、私がすべてを終わらせる」


 サクラの弓に、かつてないほどの巨大な魔力が収束していく。

 このままでは、エリスも、アダムも、自分も消し飛ばされる。


「ごめん……。ごめんな、姉さんッ!」


 カズは、涙で視界を滲ませながら、実弾のハンドガンの引き金を引いた。


 ――パーンッ!!


 乾いた銃声が、リビングに響き渡る。

 放たれた一発の銃弾は、魔法の盾をすり抜け、サクラの胸を正確に貫いた。


「…………うっ……」


 サクラの体から力が抜け、純白の弓が床に落ちて乾いた音を立てた。


 カズは銃を投げ捨て、崩れ落ちるサクラの体を抱きとめた。


「姉さん! 姉さんッ!!」


「……カズ……」


 胸を撃たれたサクラの肉体から、ミオと同じように『黒いすす』が舞い上がり始めていた。


 冷徹だった赤い瞳から光が消え、カズの大好きな、優しくて知的なサクラの瞳に戻っていた。


「……ごめんなさい、ね。……私、お姉ちゃん、なのに……。二人を、守れな……かった……」

「そんなことない! 姉さんはずっと、俺たちを守ろうとしてくれてたじゃないか! あの写真集、まだ渡してないんだ! だから……!」


 サクラは、煤となって消えゆく手を伸ばし、カズの頬の涙をそっと拭った。


「……ありがとう、カズ。……二人とも…………大好き、だよ……」


 その言葉を最期に、サクラの体は完全に黒い煤となって崩れ去り、ミオの灰と混ざり合って月光の中に消えていった。

 カズの手には、温もりだけが残り、そして虚無へと変わった。


「……うわぁぁぁぁぁっ!!ねえさぁぁぁぁぁんッ!!!」

 カズの慟哭が響く中、黄金の精霊シフティが静かに杖を鳴らした。


「……終わったのじゃな。これで、作られた二つの魂は、完全に浄化された」


 シフティの言葉に、エリスもアダムも沈痛な面持ちで目を伏せる。

 悲劇は終わった。偽物とはいえ、カズは自らの手で愛する妹と姉を殺し、そして救済したのだ。


「……カズ。これで、この狂ったループから抜け出せるかもしれん。……新たな、19回目の朝が来るはず――」


 シフティがそう告げた、その瞬間だった。



 ――グシャッ!?



 背後から、何者かの凶刃が、カズの心臓を背中から深々と貫いていた。


「……え……?」


 カズが自分の胸から生えた刃を見下ろす。


 エリスの悲鳴が聞こえた気がした。アダムの怒号も。

 だが、振り返るよりも早く、カズの意識は真っ暗な深淵へと沈んでいった。


(誰だ……? 誰に、殺され……)


 十九回目のループ

 カズは、すべてを救った直後に、何者かの手によって理不尽な死を迎えたのだった。


(第1章第12話へつづく)

第11話、最後まで読んでいただきありがとうございました。

偽物とはいえ、愛する妹と姉を自らの手で救済(殺害)しなければならなかったカズの慟哭。そして、すべてを終えた直後に彼を襲った、あまりにも理不尽な「カズの死」

ラストシーンでカズを貫いた、謎の人物とは?

そして耳に残る、最愛のメイドの声での「〇〇」という宣告……。

物語はここから、誰も想像し得なかった「第2章」へと突入します。

【次回予告:第12話(第1章・完結)】

「19回目の朝、あるいは偽りの福音」

再び地下書庫で目覚めたカズを待っていたのは、いつもと変わらぬエリスの微笑み。

しかし、彼女が差し出す紅茶のトレイを持つ指先に、カズは「あってはならないもの」を目撃する。

それは、その正体とは??

「お前は……本物の、エリスなのか?」

第一章、ついに完結。

タイトルの「殺意」の真意が、ついにその輪郭を現し始めます。

次回の更新も、どうぞお見逃しなく!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ