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異世界恋愛短編

『癒やしの聖女』と呼ばれていますが、実はヒール(物理)で魔物を粉砕していることは秘密です。なぜか騎士団長様だけが「いい上腕二頭筋だ」と熱い視線を送ってくるのですが

作者: 神野あさぎ
掲載日:2025/12/04

「聖女様! 下がってください! こいつは危険です!」


 王都近郊の森。

 私たち討伐隊の前に現れたのは、巨大なアース・ドラゴンだった。

 硬い鱗に覆われた巨体が、騎士たちを次々となぎ払っていく。


「ああ、なんてこと……。皆様が傷ついてしまうわ」


 私、聖女マリアベルは胸を痛めた。

 私は神殿から派遣された、清らかなる癒やしの乙女。

 荒事なんてとてもとても……。


 でも、皆を守るのが聖女の務め。

 私は純白のローブを翻し、ドラゴンの前へと進み出た。


「おい! 聖女様!? 何を――」

「大丈夫です。私には『神の加護』がありますから」


 私はニッコリと微笑み、ドラゴンの鼻先に立った。

 ドラゴンが大きく口を開け、私を噛み砕こうと迫ってくる。


 ――今だわ。

 私は神に祈りを捧げ、右の拳に聖なる力(と書いてマッスルと読む)を込めた。


「悪しきものよ……天に帰るのです! 聖女パァァァンチッ!!」


 ドゴォォォォォォォォン!!


 凄まじい衝撃音が森に響き渡った。

 私の拳がドラゴンの顎を捉えた瞬間、衝撃波で周囲の木々が吹き飛び、巨大なドラゴンの体が宙を舞った。


 ズドーン! と地面が揺れる。

 ドラゴンは白目を剥き、首があらぬ方向に曲がってピクリとも動かなくなった。


「ふぅ……。神よ、今日も私に力を与えてくださり感謝します」


 私は額の汗を拭い、ポキポキと指の関節を鳴らした。

 少し力を入れすぎたかしら? 鱗が粉々になってしまったわ。素材として売れなくなったら申し訳ない。


 振り返ると、騎士たちが顎を外して絶句していた。


「……一撃? あのアース・ドラゴンを?」

「魔法ですらない……ただの右ストレートだったぞ……」

「あれが聖女……? いや、ゴリ……」


 おや? 皆様、私の神聖な奇跡に見惚れているのかしら。

 そこへ、一人の男性が歩み寄ってきた。

 王国最強と謳われる、近衛騎士団長のレオン様だ。


 彼は倒れたドラゴンを一瞥し、それから私の元へやってくると、ガシッと私の右手を掴んだ。


「素晴らしい……」

「えっ?」


 レオン様は、熱っぽい瞳で私を見つめている。

 その視線は私の顔ではなく、私の二の腕に注がれていた。


「見ろ、この無駄のない筋肉の付き方を。ローブの上からでもわかる、上腕三頭筋の美しい隆起……! ドラゴンの硬い鱗を貫通するほどのインパクトを生み出すには、広背筋の使い方も完璧でなければならない!」

「あ、あの、団長様……?」

「マリアベル、君は美しい」


 レオン様は私の手を取り、跪いた。


「君のような剛腕な女性こそ、俺の妻にふさわしい。俺と一緒に、毎朝プロテインを飲んでくれないか?」

「ぷ、ぷろていん……?」


 よくわからないけれど、これは求婚されているのだろうか?

 周囲の騎士たちが「団長、やっぱりそっちの趣味か」「筋肉フェチ極まれりだな」と囁き合っているけれど、レオン様の瞳は真剣そのものだ。


「それに、君の『ヒール』も独特だ」

「え? そうですか?」


 私は先ほど怪我をした騎士のもとへ向かった。

 肩が脱臼しているようだ。


「痛みますか? すぐに治してあげますね。『ホーリー・ヒール(物理)』!」


 バキィッ!!


「ぎゃあああああああ!!」


 私は力技で外れた関節を強引に元の位置に戻した。

 騎士が悲鳴を上げ気絶したが、骨は繋がったので問題ない。


「すごい……! 麻酔(気絶)まで同時に行うとは、なんと合理的な治療法なんだ!」


 レオン様だけが、ウットリと頬を染めて拍手している。


「マリアベル。君のその力があれば、我が家の領地の開拓(岩砕き)も、屋敷の改築(丸太運び)も、夫婦二人三脚でできるだろう。どうだろうか?」


「まぁ……! 殿方と一緒に作業ができるなんて、素敵ですわ!」


 私は胸をときめかせた。

 力仕事なら任せて欲しい。実家の教会でも、鐘つき(鐘を素手で殴って鳴らす)は私の担当だったのだから。


「お受けします、レオン様!」

「ありがとう! では早速、このドラゴンを持ち帰ろうか。俺が頭を持つから、君は尻尾を持ってくれ」

「はい!」


 こうして私たちは、数トンのドラゴンを二人で軽々と担ぎ上げ、夕焼けの中を仲良く帰還したのだった。

 背後で騎士たちが「人間じゃねぇ……」「お似合いのバカップル(物理)だ」と呟いていたけれど、きっと祝福してくれているに違いない。


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