『癒やしの聖女』と呼ばれていますが、実はヒール(物理)で魔物を粉砕していることは秘密です。なぜか騎士団長様だけが「いい上腕二頭筋だ」と熱い視線を送ってくるのですが
「聖女様! 下がってください! こいつは危険です!」
王都近郊の森。
私たち討伐隊の前に現れたのは、巨大なアース・ドラゴンだった。
硬い鱗に覆われた巨体が、騎士たちを次々となぎ払っていく。
「ああ、なんてこと……。皆様が傷ついてしまうわ」
私、聖女マリアベルは胸を痛めた。
私は神殿から派遣された、清らかなる癒やしの乙女。
荒事なんてとてもとても……。
でも、皆を守るのが聖女の務め。
私は純白のローブを翻し、ドラゴンの前へと進み出た。
「おい! 聖女様!? 何を――」
「大丈夫です。私には『神の加護』がありますから」
私はニッコリと微笑み、ドラゴンの鼻先に立った。
ドラゴンが大きく口を開け、私を噛み砕こうと迫ってくる。
――今だわ。
私は神に祈りを捧げ、右の拳に聖なる力(と書いてマッスルと読む)を込めた。
「悪しきものよ……天に帰るのです! 聖女パァァァンチッ!!」
ドゴォォォォォォォォン!!
凄まじい衝撃音が森に響き渡った。
私の拳がドラゴンの顎を捉えた瞬間、衝撃波で周囲の木々が吹き飛び、巨大なドラゴンの体が宙を舞った。
ズドーン! と地面が揺れる。
ドラゴンは白目を剥き、首があらぬ方向に曲がってピクリとも動かなくなった。
「ふぅ……。神よ、今日も私に力を与えてくださり感謝します」
私は額の汗を拭い、ポキポキと指の関節を鳴らした。
少し力を入れすぎたかしら? 鱗が粉々になってしまったわ。素材として売れなくなったら申し訳ない。
振り返ると、騎士たちが顎を外して絶句していた。
「……一撃? あのアース・ドラゴンを?」
「魔法ですらない……ただの右ストレートだったぞ……」
「あれが聖女……? いや、ゴリ……」
おや? 皆様、私の神聖な奇跡に見惚れているのかしら。
そこへ、一人の男性が歩み寄ってきた。
王国最強と謳われる、近衛騎士団長のレオン様だ。
彼は倒れたドラゴンを一瞥し、それから私の元へやってくると、ガシッと私の右手を掴んだ。
「素晴らしい……」
「えっ?」
レオン様は、熱っぽい瞳で私を見つめている。
その視線は私の顔ではなく、私の二の腕に注がれていた。
「見ろ、この無駄のない筋肉の付き方を。ローブの上からでもわかる、上腕三頭筋の美しい隆起……! ドラゴンの硬い鱗を貫通するほどのインパクトを生み出すには、広背筋の使い方も完璧でなければならない!」
「あ、あの、団長様……?」
「マリアベル、君は美しい」
レオン様は私の手を取り、跪いた。
「君のような剛腕な女性こそ、俺の妻にふさわしい。俺と一緒に、毎朝プロテインを飲んでくれないか?」
「ぷ、ぷろていん……?」
よくわからないけれど、これは求婚されているのだろうか?
周囲の騎士たちが「団長、やっぱりそっちの趣味か」「筋肉フェチ極まれりだな」と囁き合っているけれど、レオン様の瞳は真剣そのものだ。
「それに、君の『ヒール』も独特だ」
「え? そうですか?」
私は先ほど怪我をした騎士のもとへ向かった。
肩が脱臼しているようだ。
「痛みますか? すぐに治してあげますね。『ホーリー・ヒール(物理)』!」
バキィッ!!
「ぎゃあああああああ!!」
私は力技で外れた関節を強引に元の位置に戻した。
騎士が悲鳴を上げ気絶したが、骨は繋がったので問題ない。
「すごい……! 麻酔(気絶)まで同時に行うとは、なんと合理的な治療法なんだ!」
レオン様だけが、ウットリと頬を染めて拍手している。
「マリアベル。君のその力があれば、我が家の領地の開拓(岩砕き)も、屋敷の改築(丸太運び)も、夫婦二人三脚でできるだろう。どうだろうか?」
「まぁ……! 殿方と一緒に作業ができるなんて、素敵ですわ!」
私は胸をときめかせた。
力仕事なら任せて欲しい。実家の教会でも、鐘つき(鐘を素手で殴って鳴らす)は私の担当だったのだから。
「お受けします、レオン様!」
「ありがとう! では早速、このドラゴンを持ち帰ろうか。俺が頭を持つから、君は尻尾を持ってくれ」
「はい!」
こうして私たちは、数トンのドラゴンを二人で軽々と担ぎ上げ、夕焼けの中を仲良く帰還したのだった。
背後で騎士たちが「人間じゃねぇ……」「お似合いのバカップル(物理)だ」と呟いていたけれど、きっと祝福してくれているに違いない。




