6話 張り切る
6話
スキルオーブの使用によってレベルを上げ、それによる効果を確認したい気持ちはあったが、カミリアがどこにいるのか分からない以上無理なものは無理だ、諦めて次回売るための薬草でも用意しよう。
俺はたまにしかここに来ないので、カミリアもそう頻繁に俺のことを探しに来たりはしないだろう。
俺は今まで稼いできたお金の一部を使って1週間分の食料を買った。
カミリアがどれぐらいの量欲しいかも分からないし、いざ次会った時に足りないから破談という事になってしまったらいけないので、少し気合を入れて採取していこう。
それから1週間、俺はかなり頑張った。
今までもずっと作業を続けてはいたが、今回はそれ以外のことは極力捨てながらの採取活動だ。
スキルオーブが手に入るかもしれないということで少しテンションが上がっていたのもあり、食事も忘れて採取を続けていたため、1週間が経っても食料はまだ二日分ほど残っていた。
食料的にはまだあと二日続けることは出来るが、まぁ、もうそろそろカミリアも俺の事を探すだろうから、帰った方が良いだろう。
アイテムボックスの中を確認すると、2000個よりちょっと少ないくらいの数があった。
我ながら結構頑張ったと思う。
流石に2000個もあればカミリアも満足するだろう。
そんなこんなで俺はショップに向かった。カミリアがいるとも限らないので少し待つ必要はありそうだが、それはまぁ仕方がないだろう。
今日来なくてもちょくちょく薬草を売りにここに来ていればいずれまた出会うことができるだろう。
ショップが見えてくるにつれて、その前に誰かが立っているのが見えてきた。
プレイヤーだろうかなどと考えながらトコトコと歩いていると、その人物がいきなりこちらに向かって走り始めた。
ちょっと、なに? 怖いんだけど。
恐怖で少し後ずさる俺をよそにその人はどんどんとこちらに近づいてくる。
…………あれ、というかなんか見た事があるような?
俺が目を凝らしているうちにその人物は俺の目の前まで迫り、俺の胸ぐらを掴んだ。
「レン! 今までどこ行ってたのよ!」
そう叫ぶのは俺の目当ての人物であるカミリアであった。
「え、あ、普通にずっと草原だけど」
「そんな訳ないじゃない、私ずっとこの街ぐるぐるしてたんだから、そんな嘘ついても意味無いわよ!」
「いや、嘘じゃないんだが…………」
というか、カミリアは結構俺の事探してくれてたみたいだな、よく見たらこの前会った時も来ていた服がちょっと汚れているようだし、ちょっと申し訳ないことをしたかもしれない。
「まぁ、良いわ、それについてはまた後で聞くとして…………とりあえず早く取引しましょ」
「あぁ」
カミリアがそういうので俺もそれに応えて取引ウィンドウを開く。
「とりあえず薬草は1000個以上採ってきたから、好きなだけ買えるがどうする?」
「…………んぇ?」
俺がそう言うとカミリアは呆けたような表情をした。
「えっと、いっつも薬草は売り切れてるみたいなこと言ってたけど、それって嘘だったの?」
「え? いや、普通に採ってきただけだが?」
「…………え?」
別に何もおかしなことは言っていないだろう。
普通に1週間分ぶっ続けで結構ガチめに集めたんだ、これくらいの量が集まって普通だろう。
…………いや、まさか足りないって事か?
それなら困った、現状だとこれ以上の効率を出すのは難しい。
カミリアがこれ以上の量を所望するのであれば俺にそれを用意する能力はない。
「……すまん、俺にはこれが限界なんだ、申し訳ないがこれで何とか我慢して欲しいんだが…………」
「え、あ、いや、別にいいわよ……?」
「本当か!? 助かる!」
驚いた、これ程譲歩してくれるとは!
この前の時の態度から考えて結構ふっかけてくるような奴なんだと思っていたが、それは間違いだったようだな、意外と優しいじゃないか。
その優しさに報いるべく、俺はとりあえずアイテムボックスに入っている薬草を全て取引ウィンドウで売却する準備をする。
「詫びとして1つの価格を45リルに値引きしておくよ、本当にありがとう」
「…………いや、こんなには要らないわ」
カミリアは若干引き気味に答える。
「それってつまり…………他の薬師のプレイヤーとかのために譲るってことか!?」
「え?」
「やっぱりお前って結構優しいんだな、ちょっと見直したぞ!」
「えーっと、そうよ!」
カミリアはビシッと俺に向かって指をさしながら堂々と宣言する。
「あ、けどとりあえず先にスキルオーブを買い取ってもらえる?」
「あぁ、分かった」
俺はカメリアから出された取引ウィンドウを操作し、5000リルで【疲労軽減】のスキルオーブを購入する。
「や、やった…………!」
「ん? なんか言ったか?」
「……な、なんでもないわ! じゃあ次は薬草を売ってちょうだい!」
「あぁ、何個必要なんだ?」
最悪薬草というものはNPCからも購入出来るし、わざわざここまでして俺から買いたいというのには何か理由があるのだろう。
例えばそれを大量に使うからなどだ。
大量に使うのならその一つあたりの単価を下げればその分利益に繋がる。
今までのことも考えて俺からカメリアへの好感度は割と良い。
ある程度なら割引してあげようと考えているほどだ。
俺がそう答えるとカミリアは少し目を逸らしながら答えた。
「えっと……80個………いや、75個欲しいわ」