5話 カミリア・ロゼット
5話
俺は女の子が取り出したものを見つめる。
「こ、これは…………」
「ふふふ、驚いたかしら? これを見たらあんな態度取り続けることなんて…………」
「これは…………何?」
「…………え?」
いや、ごめん、マジでわからん。
女の子が取りだしたのは紫色をした水晶玉のようなものだ。
透明度は低く、装飾としての価値はさして高くないように見える。
よく見ればその真ん中に文字が書いてあり、そこには…………【疲労軽減】と書いてあった。
「っ、ま、まさかそれ、スキルオーブか!?」
「そうよ! やっと気づいたのね」
女の子はやれやれといった様子で話を続ける。
現物は見た事がなかったが、こんな物だったのか。
「ほら、これが欲しいんでしょ?」
「あ、あぁ、もちろん!」
「それじゃあ、態度を改めなさい!」
態度を改める……か。
何をすればいいんだろう? 靴でも舐めれば良いのだろうか。
「そんな不思議そうな顔しなくてもいいわよ、私はただ普通に取引がしたいだけ」
「取引? いや、だから薬草はもう無いんだが…………」
「まぁ、今回は良いわ、次からよ」
そう言って彼女はスキルオーブを自分のアイテムボックスにしまう。
そして、手をパーにしてこちらに向けてくる。
「5千リルで良いわ、それで売ってあげる」
「え、まじ?」
「もちろん」
おおよそその見た目の女の子が浮かべてはならないように笑みを浮かべながら女の子は俺の問いに返答する。
うぅむ、これ、絶対裏があるやつだ。
「…………はぁ、分かった、何が望みなんだ?」
「ふふ、話が早くて助かるわ……そうね、私はこのスキルオーブを定期的に手に入れる術を持っているの……これがそう簡単に手に入らないものだってことは分かってるわよね?」
「あぁ、もちろん」
聞き込みの結果から並のプレイヤーが取りに行くようなものではないという事は分かっている。
だから何とかプレイヤーとの取引で安く買おうと思っていたのだが失敗してしまったのだ。
だが、どうやらこの女の子はオーブを確保する手段があるようだ。
「まぁ、勿体ぶらずに言ってしまうわね…………私の目的はただ一つ」
女の子は俺を指さして言い放つ。
「薬草販売の優先権、それと引替えにこのスキルオーブを売ってあげるわ!」
「…………ふむ」
最初に薬草が欲しいと言っていたのは建前では無かったのか。
薬草は俺に話しかける為の建前で実際はもっと別の頼み事があるのだと思っていたのだが、どうやら違ったようだ。
だが、薬草販売の優先権か…………正直少し胡散臭いように感じる。
何故なら、それとスキルオーブの価値が釣り合っていないと感じたからだ。
ゴーストを狩れるだけの力を持っておきながら回復を薬草に頼っているとは考えにくい。
生命力の上限も大幅に増えているだろうし、薬草だけでは回復が追いつかないだろう。
それにたとえ俺が薬草を安く売っているとは言ってもポーションを買った方が費用対効果もいいはずだ。
だから最近薬草を買うのはほとんど薬師になっているのだ。
俺はその疑問をそのままぶつける事にした。
「…………少し質問いいか?」
「嫌よ」
「ゴーストを倒せるだけの力を持っていながら何故薬草なんて買うんだ? 普通にポーションとかでいいと思うんだが」
「話を聞きなさいよ…………まぁ、使うからとだけ言っておくわ、これ以上は私がスキルオーブを手に入れられる秘密に関係しているから言えないわ」
秘密…………か。
まぁ、 そういう事もあるのだろう。
何せこのゲームはかなり自由度が高い、バグみたいな方法を偶然見つけてそれによって他のプレイヤーでは思いつかないプレイで自分の優位性を確立しようとするのはおかしいことでは無い。
きっと彼女の知っているその秘密というのもそういった類のものなのだろう。
俺の稼ぎのように誰でも出来るけど誰もやらないようなものではないという事だ。
胡散臭さはあるが、そうなると逆に信用もできる。
それに、俺は今別に失うものも無い。
たとえ今の稼ぎを奪われるようなことがあったとしても最悪またNPCに薬草を売って生活すればいいし、今のこの稼ぎに特別執着がある訳でもない。
ちょっと萎えはするとは思うが、そこまでのリスクは無い。
逆にリターンは非常に大きい。
NPCから買う価格の半額でスキルオーブを売ってもらえる、しかも彼女の話が本当なのだったらそれが継続的に手に入ることとなる。
俺は少し考えた結果、彼女に向かって手を差し伸べる。
「分かった、これ以上探るような事はしないでおこう、これからよろしく頼む!」
「えぇ、よろしく!」
俺がそう言うと、彼女はその見た目相応な花が咲いたような笑顔を俺に向け、俺の手を握る。
「えっと、それじゃ、名前は?」
「カミリア・ロゼットよ!」
「へ、へぇ〜」
「何よ」
いや、まぁうん、良いよ、別に趣味は人それぞれだ。
よく見たら服装もちょっとゴスロリっぽいし、こういうゲームでくらいそういう感じが良かったんだろう。
「俺はレンだ」
「レン、ね、覚えたわ」
カミリアはそう言うと満足気な様子で店を後にした。
…………あ、待って、スキルオーブ売ってもらってないんだが。