1話 《Re:World Online》
俺は所謂作業厨と言われる人間である。
単純作業をコツコツと続けてとんでもないスケールのものをつくったり、ただひたすらに数字が増えるのを見るのが大好きなのだ。
昨今、人類の技術の進歩は目覚しく、なんと一から世界を創ることすら出来るようになっている。
飢えや貧困から解放された我々が最後に求めるもの、それは娯楽である。
そんな我々がその技術をゲームに使うのはごく自然な事なのである。
去年、とあるゲーム会社からゲームが登場した。
その名も『Re:World Online』
資源の採取を目的として創造された世界に自分達の意識をダイブさせ、そこで実際に体を動かしその世界を開拓していくゲームである。
このゲームは所謂RPGの世界を模している。レベルやスキルなどの概念があり、多種多様な職業を選択しどんどんと強くなっていくことが出来る。
そのため、このゲームの売りは現実世界では到底出来ないような戦闘や冒険だ。
だが、俺はそういった物に一切興味が無い。
俺が求めるものはただ1つ。
そう、作業である!
リリース初日、ログイン直後。
俺はスタート地点の「クレスタ街」に降り立った。
ここは作られたばかりの世界なのであまり多くの建造物は立ち並んでいない。
数少ない建造物はこの世界を作ったゲーム会社が一足先にここに送った者が開拓したものなのだろう。
中世ヨーロッパ風の街並みは異世界好きなら一度は憧れた風景だ。
そんなこんなでこの雰囲気に浸っていると、突如目の前にホログラムでテキストが浮かび上がった。
《ようこそ、『Re:World Online』へ!》
《これより初期設定を開始します》
さあ来た、キャラメイクと職業・スキル選択だ。
今の俺は現実世界の容姿と全く同じ容姿を持っている。
一般的な日本男児のそれだ。
可もなく不可もなく、周りからは真面目と評価されるような感じの見た目である。
別に、嫌いって訳じゃないが、この世界には些かマッチしていないように感じる。
他の人と関わっていく上でも見た目は大事だし、ある程度しっかりと作っておくのが良いだろう。
どれどれ…………ほぅ、どうやらかなり自由みたいだな。
身長や体重、顔や髪など、様々な分野において身体を作り変えることができるみたいだ。
それだったら…………。
俺は、できる限り身長と体重を低い数値に設定した。
理由としては、戦う気が一切ないからだ。
身長や体重は剣を振るったりする時にその威力に影響を与えるらしい。
が、剣を持つ気のない俺には関係の無い事だ。
数値を下げていくと、途中である警告が出てきた。
《注意:これ以上の身長・体重の削減はステータス『生命力』『筋力』『耐久』に著しい低下を引き起こします》
《それでもよろしかったでしょうか?》
俺はその警告を無視して身長と体重を下限値まで減らす。
数値で言えば、身長120cm・体重20kg。
小学一年生の男の子と言ったような見た目だ。
これでは様々な作業に支障が出てしまう、そう普通は考えるだろう。
だが、俺はその数値を見て笑みを浮かべた。
「……これで、作業効率は最大化される」
説明を読んだ限り、このゲームでは、食事の必要がある。
それを確保するのも我々プレイヤーの仕事の様で、序盤であればそこに割くリソースはかなりの物となるらしい。
だが、この体であればその量はかなり減らせるはずだ。
生命力や筋力はどうせ使わない、戦わないのだから。
生産と採集、それだけに全振りする以上、無駄なパラメータなど1つたりとも要らない。
そうなると、この体は合理的なのだ。
《キャラメイクが完了しました。次に職業とスキルの設定へ進みます》
続いて、職業選択画面が浮かび上がる。
《以下の中から初期職業を選択してください》
そうして表示されたのは多種多様な職業達であった。
一応取る気のない戦闘職の説明も見てみると、どのパラメータに補正が掛かるかや、その職業で所得できるスキルなどが書かれていた。
そんななか、俺が選んだのはその中でも下の方に書いてあった《採取師》だ。
パラメータは器用さと幸運にほんの少しだけ補正があるらしい。
表示されている説明文を読む限り、《採取師》は戦闘能力こそ皆無に等しいものの、素材の採取に有利な職業のようで、まさに俺がやりたい事を体現した職業のようだ。
《初期職業:採取師 が設定されました》
《次に初期スキルの選択に移ります》
画面が切り替わり、初期スキルの一覧が表示された。
【素材鑑定Lv1】──素材のレア度や性質を視認できる
【鉱石採掘Lv1】──鉱石の採掘を助ける
【薬草採取Lv1】──薬草の採取を助ける
【疲労軽減Lv1】──作業による体力消費が軽減される
【荷運び術Lv1】──重量制限緩和と、運搬時の速度向上
【料理基礎Lv1】──簡単な食事を作ることができる
「ふむ……最初に選べるのは三つか」
どのスキルも作業効率をあげるのに役立ちそうなスキルばかりだ。
少し思案し、俺は【素材鑑定Lv1】と【薬草採取Lv1】と【疲労軽減Lv1】を所得することにした。
理由としては薬草などであれば採取、加工のいずれもそこまで難しくは無いと考えたからだ。
スキルは少し大変ではあるが後から所得する事もできるのらしいので、序盤に有利そうなものを選んだのだ。
《初期スキル:素材鑑定Lv1、薬草採取Lv1、疲労軽減Lv1 を習得しました》
《初期設定は以上です》
《『Re:World Online』の世界へ旅立ちましょう》
初期設定完了、ついにゲーム開始だ。
とはいえ、やることは決まっている。まずは拠点周辺の探索と、素材集め。そしてその前に、忘れてはならないことがある。
「ステータス、開示っと……」
意識するだけで、目の前に青白い半透明のステータスウィンドウが現れた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
【プレイヤー名】ユウト
【レベル】1
【職業】採取師
【称号】なし
▼基礎ステータス
【生命力】10/10
【体力】20/20
【魔力】10/10
【筋力】2
【敏捷】7
【知力】10
【器用】15
【耐久】2
【幸運】12
▼習得スキル
・【素材鑑定Lv1】
・【薬草採取Lv1】
・【疲労軽減Lv1】
▼資産情報
【所持金】1000リル
▼アイテムボックス
【重量制限】 1000/0
▼パッシブ効果
・【作業最適化】:採取・加工時の体力消費減少
・【虚弱体質】:被ダメージ増加 与ダメージ減少
・【幼児】:消費カロリー減少
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「ふむふむ……完璧なまでに非戦闘型だな」
他の人のステータスがどんなものなのかわかっていない為なんとも言えないが、恐らく生命力、筋力、耐久は壊滅的。だが、器用さと幸運はまずまずの値なのだろう。
ステータスウィンドウを閉じて辺りを見渡す。
ログイン直後は人でごった返していた街も時間が経ったからか少し落ち着いてきた。
みんな街から出てモンスターの討伐でもしに行ったのだろう、血気盛んな奴らだ。
まぁ、そうは言っても俺の目的地も彼らと同じく街の外だ。
素材を手に入れると言ってもある程度街の外へと出ていかなくては何も始まらない。
周りの奴らを蛮族を見るかのような目で見ていた俺も結局は彼らと同じく目を輝かせて街の外に旅立っていくのであった。