グレートボアとの戦闘
僕がマークスの許しを得て、馬車を降り剣に手をかけたところで、鬱蒼とした低木の中から一体の魔物が現れた。
でっかいイノシシだな。確か名前はグレートボア。
よく父さんと森で狩りに行ったときに戦った。
その時より、体躯が大きい気もする。
頭から尻まで1.8メートルってところか
分析をしているのに、後ろがうるさいかった。
ゴームズが「クレアにはまだ早い」とかマークスと言い争うをしている。
ゴームズも大概、過保護なんだよな。
僕は意識を目の前のグレートボアに戻して、剣を構える。
間合いは、さっきから変わっていない。
グレートボアも警戒しているらしい。
狩りの時を思い出す。
キバが異常なまでに発達してるため、噛みつかれれば致命傷になりかねない。
けど、その分の頭が重くバランスが悪いのかスピードも魔物にしては遅いし動きも単調。
僕みたいな機動力重視の剣士には好都合な相手だ。
向き合うグレードボアのキバは過去に見た中で一番大きい。
剣を握る手に汗が滲む。
時が止まったように静謐が森の中を包み込んだ。
グォォォォォォォォーーー
合図は痺れを切らしたグレートボアの唸り声だった。
想定通り直進してきた。
5メートルあった間合いはもう3メートルほどまで詰まっていた。
スピードも想定の範囲内、余裕で避けれるけど......
さっきの汚名を返上するなら、相手の土俵に乗ってこそ!
グレートボアは大きく口を広げて、僕の体を噛み砕かんと真っ直ぐ来ている。
僕は刀を構えたまま正対し、縦に生えた牙に対して直角に交わるように横から剣を出す。
ガンッ
剣とキバが真正面からぶつかり鈍い音が響いた。
グレートボアの突進の衝撃が剣を介して伝わってくる。
敏捷性に特化した戦闘スタイルでも、この程度で吹っ飛ばされるような、やわな鍛え方は父さんがさせてくれなかった。
地面に足をしっかりと接地させて力を入れる。
ジリジリと剣で押し返す。
「おりゃっ!!」
そのまま押し飛ばそうと思ったが、流石にグレートボアも勘がよく、力を逃すように後退した。
仕切り直し。
再び森は静寂に包まれ、ゴームズが唾を飲み込むのが聞こえてきた。
グォォォォォォォォォォォォォォーーーー!!!!!!
やはり先手を取ったのはグレートボアだった。
攻め手も同じく突進。
体を半身の状態で構える。
今度は切り裂くイメージで。
右から左に剣を振った。
ザッ
剣とキバが再びぶつかった。
剣は強靭なキバに抵抗されながらも、奥へ奥へと入っていく。
あと少し.....剣を握る手にさらに力を込めて叫ぶ。
「うおおおおおおおおーーー」
力一杯押し入れると、ついに刃が口腔内に到達した。
そのままグレートボアの勢いを利用して、正面左手から体を切り裂いた。
切り口は左口腔、首、胴体と切り開き、後ろ足近くまで及んでいた。
グレートボアはそのまま、フラフラと力無く横たわり、生命活動を停止させた。
だいぶ返り血を浴びてしまったが、怪我はしてない。
言いつけを守った上での完全勝利だった。
振り返ると2人は目を見開いて驚いていた。
恐る恐る声をかけてみる
「おーい2人ともー」
「......」
反応がないので近づいて目線の前で手を振ってみた。
「おーい」
先にフリーズから復活したのは、マークスだった。
「あっ、あぁ、すまない。腕が立つとは聞いていたが、ここまでとはな。すぐにDランクになれるぞ」
マックスは誇らしそうに話す。
さらに続ける。
「いろんなパーティーから引くて数多だろうよ」
「ん、」
とりあえず曖昧に返事をしたが、ソロで動けないのは困る。
パーティーよりもギフトの情報を優先しないといけないのだ。
パーティーに関しては足枷になりかねない。
実力はほどほどに抑えて冒険者をした方がいいかもしれない。
「いやー、しかしクレアがパワータイプだとはな。
てっきり軽装だからスピードタイプかと思ってたぜ」
「えっ」
予想外の話の流れに声が出てしまった。
マークスがなんか変な勘違いをしているなぁ。
「魔法補助なしで、グレートボアを弾き返せるならタンクとしてもかなりのレベルなんだぞ」
パワーでゴリ押すのは本職じゃないと否定しづらい空気になってしまった。
というかこれ以上、言うと彼らに囲い込まれそうだったから押し黙ることにした。
こうして真の実力は隠すことを決意するのだった。
ひと通りハイテンションなマークスに誉められていたが、ゴームズが放心状態が復活するのはさらに30分を要した。
驚きすぎだろ、まだまだ赤子だと思われていたんだろうなぁー。
グレートボアとの遭遇の一件が片付いた、次の日の朝には、予定通り帝都コインドールに辿り着いた。