旅立ちの日に
異世界設定(いわゆる中世ヨーロッパを想定)
魔法あり。
転移者、転生者出てこない。(のつもり、少なくとも主人公はその世界生まれ)
この世界では10歳の誕生日を迎えるとギフトが女神より渡される。
王族も貴族も平民も奴隷も分け隔てなく一律に、そしてランダムに、
ギフトの概念的な扱い方は国ごとに多少の差異はあるが、女神のもたらす祝福と考えるのが主流である。
僕の暮らすショファ王国も例に漏れず、その信仰のもとにギフトを受け入れている。
その考え方を補強するものとして、教会での宣託が挙げられる。
平民とされる身分の親たちは、ほぼ例外なく子供が10歳になるタイミングで近くの教会に連れて行くことが慣習となっている。
教会で宣託を受けることでギフトの名を司教を通して女神から教えてもらうのだ。
ここで重要なのは、ギフトの名と能力が違ったという事象は観測されていないということだ。
これだけでもアルテ教ひいては女神の行いと判断するには十分だろう。
僕も5年前、例に漏れずギフトを受け取った。
僕の生まれた総住民150人のテンパ村には小さな教会が近くの小高い丘に建てられている。
しかし、小さな村の寂れた教会には聖職者がいないため、帝都コインドールの教会まで足を運ぶこととなった。
寒村では珍しいことではないらしい。帝都の教会では、僕と似たり寄ったりの帝都の整地された街並みには似合わない服装の子ども達が待たされていた。
以下、回想
僕は少し震えた足に力を入れて立ち上がる。
テンパ村とは比べ物にならないほど大きな教会に緊張した。
いやそれだけではない。ここで宣託されたギフトによって今後の生き方が一変する可能性があることを感じ取っていたからだ。
20列はあろう参列席の真ん中より少し後ろの列から歩みを進める。
ちなみに保護者は外で待機させられている。希少なギフトが出た時に国が先に囲い込むためだとかなんとか。
いろんな権利が絡み合っているみたいだ。
女神の像と聖典の掲げられた祭壇の前で信託の用意をしている司教の前で立ち止まる。
司教は目の前の僕には目もくれず、祈りを捧げた。
「創造の主アルテ、我らに知恵を与えたもうた愛に感謝を。新たな時代の子にその愛の名を」
静寂。そして......
司教が祈りを捧げ終えた瞬間、天が真っ白に光った、、、ように感じた。
後ろを振り返ったが他の子供達は退屈を凌ぐように座っていて、異常を感じっ取ったのは僕だけらしい
司教は一瞬、眉を上げ困惑の表情をしたような気がしたが、確かめようとした時には荘厳な面持ちを取り戻して、僕に向かって話しかけてきた。
「汝のギフト、その名を『以心伝心』という,女神様に感謝して受け取るように」
「......」
司教は次の宣託に取り掛かる準備を始めたので、僕は元の席に戻った。
宣託はこれで終わりだった。それ以上でも、それ以下でもなかった。
その後、教会の外で待っていた父親と合流して、滅多に来れない帝都で一泊して村へと帰還した。
回想終了
あれから5年、15歳になってもギフトに関しては『以心伝心』という名前しか知らない。
使い方も効果も発動条件も属性も、ついぞ知ることはなかった。
本来ギフトとはそういうものである。
教会からの神託を受けに行き、そこで女神からのお声をいただきギフトの名を知る。
ただそれだけで、能力のあれこれは自分で探していくものであることは間違いない。
......が、ギフトは別に一意のものではない。ゆえに、人類のノウハウで8割はその能力の実態を知ることができる。
1番多く観測されているギフトだと『身体向上』というものがあり、全体の5%にものぼるという。
もちろん同じギフト持ちがいれば習得は比較的容易といえる。
反対に希少価値の高い『賢者』や『勇者』といったギフトも修得はしやすい。
有用なギフトは文献や口伝で伝承されているし、国によっては戦力として囲い込みをして修得援助しているという話も耳にする。
自分は囲い込みなんて勘弁して欲しいが......
まぁつまり、それ以外のマニアック、日の当たらないギフトというものは習得レベルが格段に跳ね上がるのである。
歴史の、世界の片隅でしか存在を認識できないような、あるいは忘れ去られたギフトが
はたまた、女神が気まぐれで作った人類史初のギフトの可能性もないことはないはずだ。
僕のギフトも歴史の中で忘れ去られた一つなのだろう。
村の住民は誰も知らなかった、
月に一回村にやってくる商人のゴームズも知らなかった。
ギフトの宣託を受けた後に、ゴームズは有用なギフトかもと、『以心伝心』について、あちこち知り合いに聞いて回ったらしいが、目ぼしい情報は集まらなかったと言っていた。
当時は、顔の広いゴームズがわからないというなら、寂れた村の住民(ただの子ども)としては納得するしかない
......だけど気になる。
生活を世界を変えるような能力を期待しているわけではない。(こともないか?)
そして、この5年間、数多くの実験をした。
考えられる発動条件はしらみ潰しに行ってきたつもりだ。
ギフトの唱え方、
生活魔法の詠唱とのリンク、
魔法陣の要否、
魔力量の調整、
発動時の体勢・天候・地形・時間帯、
発動相手
などなど......
結局糸口すら掴めなかったが
それでも、知りたいという欲求も情熱も途切れることはなかった。
と同時に村でできることに限界を感じていた。
ギフトを受けて3年が経った頃には、村を出てギフトについて知る旅に出たいと父さんと母さんに申し出た。
紆余曲折あったが、なんとか説得した。
というか納得してくれた。あまりに何度もお願いするから、折れてくれたのかもしれない
自分がどれだけ特異な道に進もうとしているかも分かっている。
しがない村人なんて、生涯を村で過ごすことがザラで、あったとしても冒険者として出稼ぎに行くくらいだ。
それが自分はどうだ。定住地も持たない旅人、放浪、さすらい
うん、笑えない。
両親の出した条件はこうだった。
・15歳になってから旅に出ること。
・しっかりと父さんから剣の修行を受けること。
・5年で村に戻ってくること。
まったく、僕には勿体なさすぎるくらい優しい両親だ。
そして今日は出立の日だ。
15年間、暮らしてきた家の玄関で父さんのフォードが別れの挨拶を切り出した。
「クレア、いよいよだな」
僕は顔だけ振り向いて頷く。と父さんは続けて言った。
「お前は剣の筋がいい、だけど頭で考えすぎる癖がある。剣は思考じゃなくて直感で振れ」
筋骨隆々な右腕で僕の頭をエールを送るように叩いた。
これは5年間父さんに剣を教えてもらう中で口酸っぱく言われた言葉だ。
父さんは剣の腕一つで、村を守る自警団のトップを張っているだけあって、剣のことには一家言あるらしい。
「あと、剣だけは怠るな。お前の旅の目的に剣の腕は関係ないだろうが、目的を達成するための手段として必要になる日は必ず来る」
まったく父さんは心配性だな。
こんなに心配されるとこちらが感傷的になってしまう。
それを悟られまいと毅然に返す。
「分かってるよ」
すると、父さんの後ろから声がした。
「もう!お父さんばっかり喋ってずるい!」
割り込むように、母さんのエーレがテンション高めで話し始めた。
「とにかく、あんまり危ないことしちゃダメだからね!
帰って来れる機会があるなら、いつでも帰ってきていいからねっ!!」
母さんは相変わらず元気だなぁ
母さんの拍子抜けの別れの挨拶に、なんだか逆に自信が出てきた。
肩の力がいい具合に抜けるというか。
最後だっていうのに、気楽に答えれた。
「なるべく早く帰ってくるつもりだよ」
最後はしっかりと父さんと母さんの目を合わせて言った。
「じゃあ、行ってくる」
「おう」 「いってらっしゃい」
2人の声を聞いて、振り向き歩き出した。
まったく、今生の別でもあるまいし、涙の別れなんて僕らしくない、と思ってたんだけどなぁ。
父さんと母さんにはバレていただろうか。振り返るまでは涙はこぼさなかったと思うけど。
まぁいいか、次に帰ってた時に聞いてみよう。思い出話なら僕も恥ずかしくない。
涙を拭って、前を向く。
青い空にたなびく、白い雲が目に映る。軽やかな風が僕を撫でた。
父さんから貰った腰に携えた剣に触れる。
最高の旅立ち日和だ。
こうして私のギフトを知る旅は始まりを迎えた。
アドバイス、よろしくお願いします