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救星の英雄たち 壊星の陰陽竜  作者: 一木空
第一章 訓練風景
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種明かし

「……全く、こうも容易く看破されてしまうと情けなくなるね。もっと、策略を練るための能力を鍛えなければ」

「配下たちを成長させたい気持ちはわかるけど、あんまり困らせたり不安がらせたりは避けた方が良いと思うな~。信頼って、そういう部分から崩れたりするからね~。ま、その話に乗ったボクが言えることじゃないか~」

 何やら会話を続けながら、マスター・ルペスとダイアさんが訓練場へと降りてくる。


 さすがに彼らの姿を見てしまえば、騙したという言葉の意味が理解できてしまう。

 もちろん、理由なくこんなことをするわけがないことも分かっているけど、心には少しずつ怒りが湧いていく。


「さて、まずは二人に謝らないとね。俺たち三人で共謀し、君たちの力を見させてもらったこと、ここに謝罪する。すまなかった」

「ボクからも~。機械人形が暴走したなんて嘘を吐いちゃってごめんよ~。二人には、いっぱい不安にさせちゃったよね~」

 言及をするよりも早く、お二人から謝罪をされる。


 謝罪をされてしまえば、怒りに任せた言動なんてできなくなっちゃう。

 色々と心の底でくすぶっているのを感じるけど、なぜこのようなことをしたのか話を聞いてみようかな。


「簡単に言ってしまえば力の確認だね。白角ちゃんは、英雄として振舞えるほどの力と知識が宿ったかどうか、銀狼ちゃんには魔法族としての本気の力を見せてもらいたかったんだ」

 英雄としての力。私は、数年後の未来に訪れるとされる、世界を滅ぼすほどの災害に対抗するために力と知識をつけている。


 今回の訓練は、その力の確認をするためだったということは理解できたけど。


「レイカの英雄の力がどうというのは分からんでもないが……。なぜ、私の力まで測る必要が?」

 イデイアちゃんは魔法族という、分からないことの方が多い種族であるため、その情報を得たいという考えは分かる。


 それならそれで、何かしらの訓練中に本気で戦ってほしいと要請すればいいだけじゃ?


「それを説明する前に、一つ情報が入った。ルビア大陸、銀狼ちゃんの故郷である大陸を覆っていた魔力が、大きく減少してきているそうだ」

「私の……故郷……。なるほど、減少しているとはいえ濃い魔力に晒された土地では何が起きるか分からない。危険な土地に向かいたいと私が言い出しても問題がないか、確認をしたかったと」

 満足そうな笑みを浮かべてうなずくマスターの姿を見て、イデイアちゃんの言葉が正しいこと、彼女の実力が問題ない程度に育っていることを理解する。


 非常事態でも過不足なく行動ができるか、それを打破するための力があるかどうかを見定める目的があったみたい。


「ボクからも新情報~。研究を続けていた砕氷船がとうとう完成してね~。向かえるようになったよ、ルクスル大陸に~」

「本当ですか!? もしかして、機械人形たちを今回の訓練で利用したのも?」

「氷の大陸とくれば、かった~いモンスターがいるかもだからね~。それに対抗するためのイメージを付けてくれればと思ってね~」

 氷の大陸とならば、氷を身に纏うモンスターが出現する可能性が高い。


 もちろん、大抵の場合は炎の魔法で攻撃を仕掛けるとは思うけど、何かしらの理由から魔法を使えず、武器に頼らざるを得なくなる可能性もあるはず。

 今回の経験すべてが使えるとは限らないけど、硬い敵と戦うための経験が多少なりできたことは大きいよね。


「今回、このような訓練の形にしたのはそれらの理由があったから。そして、それらを知ったとある人物からの依頼があったから。二人の力を確認しておいてほしいというね」

「とある人物……。大体予想はつきましたけど、聞かせていただいても良いですか?」

 脳裏に思い浮かぶは、青いコートを纏い、まるで太陽の輝きのような銀色の髪を持つ男性。


 機密情報を簡単に入手でき、大陸を渡る危険性を熟知しているのは彼くらいしか思いつかない。

 私の大切な人で、誰よりも大好きなあの人だけが——


「依頼人は大陸間特別大使、ソラ。白角ちゃんの義兄さんからの依頼さ」

 想像通りの人物の名前を聞き、嬉しさと喜びが同時に胸中に出現する。


 お兄ちゃんが私に期待をかけてくれていることがとても嬉しい。

 彼も、大陸調査に同行するのかな?


「どうかな~? 彼も王族たちに同伴する形で、記念祭に参加するって聞いてるからね~。そちらの準備に追われているんじゃないかな~?」

「そうですか……。お兄ちゃんがいないかもと思うと寂しいけど……。その分、私たちがしっかり調査をすればいいだけですよね!」

 ここまで話が進んだところで、一つ気になることが。


 私とイデイアちゃんの二人は訓練を行う側だったけれど、ミタマちゃんはマスターたちと一緒に訓練を課した側。

 彼女だけは調査に行けないなんて、絶対嫌だけど。


「子狐ちゃんに協力を頼んだのは最後の訓練だけ。それ以前の訓練で良い動きをしてくれていたのは見ていたよ。心配せずとも、君たち三人をルクスル大陸調査員に含めてもらうつもりさ」

 私たち三人は喜びに満ちた顔を見せ合い、お互いの手を叩き合う。


 この三人で大陸の調査に向かえるなんて、嬉しくならないわけがないよね。

 調査のための訓練と準備をいっぱいして——そうそう、砕氷船はいつ頃この街に来て、いつ頃ルクスル大陸に向けて出航するんだろう?


「全てが初めての調査だからね~。少しでも大陸に近寄りやすくなる可能性がある、夏に出発する予定だよ~。調査期限は一カ月~。記念祭までには戻ってこなきゃいけない人もいるわけだしね~」

「記念祭に向けての訓練というのも、単に焚き付けるためだったんだな。調査を行った上に記念祭での警備など、どんなに優秀な者であろうと無理な話だ」

 最初から、記念祭警備の人員に私たちを含む気はなかったと。


 海を渡って帰ってきた矢先に警備をするなんて、どう考えても倒れちゃうだけだね。


「そういうこと。新たな大陸を存分に味わい、帰還したら記念祭を存分に楽しんでくれ」

「「わかりました!」」

「了解」

 訓練の評価をマスターから受けた後、私たち三人組は魔法剣士ギルド——私たちが働いている場所へ帰ることにした。


 その道中、訓練の振り返りなどの雑談をしながら道を歩む。


「機械人形に捕まったって聞いて、本当にビックリしたんだからね~? 危険は微塵もなかったから良かったけど……」

「それについてはホントにごめんね……。でも、レイカちゃんが本気で機械人形に立ち向かってくれたこと、嬉しかったな~。イデイアちゃんが作戦を練ってくれたんだよね?」

「ん、まあな。とはいえ、お前が捕まったと聞いて動揺したせいか、最適な作戦とは言い難いものになってしまったな……。もっと冷静に状況を見極められるようにならねば……」

 友人や仲間を捕らわれ、冷静でい続けろという方が酷というもの。


 うまくいかなかったことを恥じることも大切だけど、うまくいったところを喜ぶのも大切だと思うな。


「そうだよ! イデイアちゃんの作戦は十分通用したんだし、レイカちゃんの素早い動きもそう! 二人ともすごいよ!」

「えへへ、ありがと!」

 ミタマちゃんの誉め言葉に喜ぶ私に対し、イデイアちゃんは照れ臭そうにそっぽを向いてしまう。


 もうちょっと素直になれたら、いろんな面で良くなると思うんだけどなぁ。


「二人をだましちゃったお詫びと、頑張って私を助けてくれたお礼に、スイーツをご馳走してあげるね!」

「ほう、言ったな? スイーツと聞かされれば私は容赦しないぞ」

「さすがに加減してあげてよ~。って、普段なら言うところだけど……。今日だけは私もいっぱい食べちゃおっと!」

 私たちはギルドへと戻り、報告と着替えを済ませた後に三人で街に繰り出す。


 訓練の後ということもあってか、食べたお菓子たちは皆、絶品だった。

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