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救星の英雄たち 壊星の陰陽竜  作者: 一木空
第一章 訓練風景
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友達を救え!

「友達を——ミタマちゃんを傷つけるなんて、いい度胸してるじゃない! 彼女を開放してこっちに降りてきなさい!」

 心を怒りに染め上げた状態で、観覧席で私を見下ろす機械人形めがけて声を荒げる。


 相手を刺激することなく出方をうかがい、一気に制圧することが本来であれば正しいはず。

 けれど傷ついたミタマちゃんと、そのようなことをした張本人の姿を見てしまえば、我慢などできなくなってしまう。


 挑発を受けた機械人形は、私に警戒を向けつつミタマちゃんを腕に抱き、訓練場へと降りてきた。

 相手が思考を持たない機械人形だから良かったけど、もしも犯人が本当の人で、誘拐した人物に更なる危害を与えていた可能性を思うとゾッとする。


 もはや訓練の範疇を逸脱してしまっているけど、その考えに至れたことには感謝しないと。


「……ふぅ、その子を捕らえた理由は何? あなたは何を目的に、こんなことを?」

 暴走に近い状態とはいえ、ダイアさんたちから受けた大本の指示に従って行動しているのは明らか。


 適した行動を取れさえすれば、ミタマちゃんの解放も機械人形の捕縛もできるかもしれない。

 そう思って声をかけてみたものの、奴は彼女を抱く手とは異なる手を振り上げ、私めがけて落としてきた。


「……捕まえることを主にしているってわけね。私が簡単に捕まると思ったら大間違いなんだから!」

 最初の攻撃を素早くかわし、追撃の蹴りを剣の鞘で防御する。


 鋼鉄製ということもあり、攻撃は重量感があるけど速度は遅め。

 回避を主軸に防御を固め、隙を狙って攻撃を仕掛けていきたいところだけど。


「ミタマちゃんが捕まっているのが……! 変に攻撃を仕掛けて衝撃を与えたり、間違えて攻撃を当てたりしたら……!」

 すぐさま解放してあげたいけど、ミタマちゃんを傷つけることも避けたい。


 もちろん、どうしようもない場合は多少のケガの有無は仕方ないかもだけど、可能な限りは無傷なまま取り戻さないと。


「はああ!」

 まずはミタマちゃんを捕まえている手とは関係がない、私を狙ってくる腕めがけて攻撃を仕掛ける。


 滑らかな動きを実現させるため、関節部分の強度は弱めなはず。

 その部分を重点的に狙い、少しずつ機能を低下させていけば。


「え!? わわわ!」

 機械人形の首がぐるりと動いたかと思うと、瞳があるはずの部分から小さな突起が出現する。


 そこから弾らしき物体が飛び出し、私めがけて乱射してきた。

 威力自体は加減されているみたいだけど、もしも当たったらそれなりの——


「いたたた!? いつまでも食らってあげると思わないでよね! イーグルアイ!」

 魔法で視力の強化を行い、一つ一つの弾の軌道を視認できるようにする。


 かなりの量を乱射されているので、どうやっても体に当たってしまう弾はある。

 だったらそれらは叩き落し、避けられる弾を避けてしまえばいいだけ。


 隙を見計らい、無防備になっている腕に剣を叩きつける。

 刃がないために切断はできなかったけど、鈍器代わりとしては十分なダメージを与えれたようで。


「やった、腕を曲げられた!」

 機械人形の腕はあらぬ方向へと曲がり、私を捕らえようとする機能は停止する。


 ある程度安心できるようにはなったけど、ミタマちゃんを開放するまで油断は禁物。

 瞳の部分から弾を発射してきたように、他にも攻撃手段があるはずだからね。


 案の定、機械人形は新たな攻撃を仕掛けてくる。

 胸部が開いたかと思うと、頑丈な網が飛び出してきた。


 刃のある剣であれば斬り落とすことも可能だけど、いまはそれができない。

 けれど、刃がないなりに有利な点もあるわけで。


「回収なんて、させないんだから!」

 訓練場を構成する足場はごく普通の土。


 転がる形で網を回避し、地面に落ちたそれの隙間に剣を突き刺す。

 機械人形は網の回収を始めるけど、剣という邪魔があること、腕が曲がってしまっていることから思うような行動ができなくなったみたい。


「いまなら! アクセラ!」

 使用した魔法は速度を強化する魔法。


 網の回収に躍起になる機械人形のそばに瞬時に近寄り、気絶しているミタマちゃんを奪い取る。

 これで人質の救助は完了。後は、彼女をこんな状態にした存在を——


「ライトニングストライク!」

 イデイアちゃんの声が聞こえると同時に、機械人形の頭上に黒い雲が出現する。


 ミタマちゃんを抱えての離脱と同時に、雲は雷を吐き出す。

 それは機械人形の頭部に落ち、鋼鉄の体に膨大な量の電気を流していく。


 各種機器が一気に故障したのか、機械人形は黒い煙を各部から吐き出しながら地面に倒れた。


「レイカ! ケガはないか? ミタマは?」

 機械人形が動き出さないか警戒をしていると、イデイアちゃんがこちらに駆け寄ってくる。


 ミタマちゃんの顔に赤い液体がついているも、顔色は悪くない。

 呼吸も問題なくできているみたい。


「私は大丈夫。ミタマちゃんも気絶しているだけだと思うんだけど……」

 肩を軽く叩いてみたり、声をかけたりしてみるも目覚める気配がない。


 私は回復魔法があまり得意ではないので、イデイアちゃんに見てもらおうと思っていると。


「……はぁ、やはりな。ミタマ、いい加減にして目を開けろ。レイカが不安がっているぞ」

「え……」

 イデイアちゃんの発言の意図が分からぬまま、彼女が指さすミタマちゃんの口元に視線を向ける。


 すると彼女の口角がむずむずと動き、瞼までもが開かれた。

 申し訳なさそうな表情を浮かべた後、彼女は両手を合わせ——


「ご、ごめんね、二人とも。騙すような真似をして……」

「だ、だます……? ど、どういうこと?」

 ミタマちゃんの言葉の意味が分からず、頭が混乱する。


 私たちは騙されていた。彼女が眠ったふりをしていたことが?

 機械人形が暴走したという話自体が? それとも、この訓練自体が?


「今回の誘拐事件自体が、訓練の一環だということだ。そうなんだろう、マスター・ルペス」

 イデイアちゃんは観覧席を見上げ、我らが魔法剣士のマスターの名を呼ぶ。


 そこには席に座り、私たちを見下ろすマスター・ルペスとダイアさんの姿があるのだった。

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