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救星の英雄たち 壊星の陰陽竜  作者: 一木空
第一章 訓練風景
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訓練は続く

「やっと止まってくれた……。攻撃も防御もされなかったけど、ただ逃げ回るだけの機械人形を追いかけるのがこんなにも大変なんて……」

 息を切らして座り込む私たちの前には、物言わぬ状態となった機械人形が。


 損傷は微塵もないようなので、無力化という点で見ればうまくできたはず。

 ただ、無力化するまでが非常に手間取っちゃったから、反省の余地はありそうかな。


「当日には人の波もあると考えると、苦戦などしていられないはずだ……。とはいえ、強化魔法をふんだんに使っている状態で、ここまで逃げおおせる存在を考慮に入れておく必要があるかと聞かれると、はなはだ疑問だが……」

「可能性があることを理解できただけ、良いんじゃないかな……。だいぶ息も戻ってきたし、次の個体を——の前に、そろそろ分散して探索してみよっか」

 必ずしも、皆で行動しているときに不審者が見つかるとは限らない。


 一人で相対せざるを得ないこともあるはずだしね。


「了解だ。では、私とミタマが訓練施設の外を時計回りと反時計回りで、レイカが内部の再探索をするのはどうだ?」

「私は問題ないよ。レイカちゃんも——問題なさそうだし、さっそく動いてみよう! 機械人形を発見した時は、みんなに一報を入れることを忘れないようにね!」

 こくりとうなずき合い、それぞれがカバンの中から筒状の器具を取り出す。


 これは私たちが使っている通信道具。

 中には通話石という、繋がっている同士であれば、遠く離れていても会話ができるようになる不思議な石が入っているの。


 元々は魔力を放出できる人じゃないと使えないんだけど、ダイアさんたちゴブリンの方々が改良をしてくれたおかげで、誰でも好きな時に通話ができるようになったんだよ。

 筒に取り付けられているボタンを押すことで、溜め込まれている魔力が通話石に流れ込み、起動するって仕組みなんだって。


 いざという時はこれを使って、二人に協力を要請することも考えないとね。


「残る機械人形は三体。一人一体ずつ無力化することを目標に、行くぞ!」

「「おおー!」」

 私たちは異なる方向へと分散し、機械人形たちの探索を始める。


 私の持ち場は訓練施設内部。

 まだ探索を行っていない場所もあるし、見逃した個体がいるかもしれないから、念入りに探さないとね。


「ここには——いない。こっちの部屋もいないや……」

 休憩室に備品置き場、あちこちを見て回るも機械人形の姿は見当たらない。


 屋内部分にはいないのかな。

 さすがに更衣室や、浴場とかにはいないと——


「機械人形たちは、不審者の情報が組み込まれているんだよね……。まさかとは思うけど……」

 不審行動に数えられる行為は、何も他者に直接の危害を与えるだけじゃない。


 間接的。そう、見るという行為でも不審者に数えられる行動はあるもんね。


「やっぱりいた! こういう行動を取るように指示されているとはいえ、覗き、侵入はダメだよ!」

 浴場に入ってしばらく待機していると、突如として機械人形が姿を現す。


 素早く接近して一撃を入れると、問題なく機能を停止してくれた。

 いろいろと思うところはあるけれど、当日にはこういう行動を取る人が現れる可能性も把握できたのは大きいかな。


 自分の分のノルマは達成したので、皆の手伝いに行こうとしたところ、通話機が音を鳴らす。

 魔力を通して起動すると、イデイアちゃんの声が聞こえてきた。


「こちらイデイア、機械人形の姿を発見した。これから鎮圧に向かう」

 連絡を聞き、やるべきことを一つ失念していたことに気づく。


 怒られちゃうかもだけど、機械人形を見つけたこと、倒したことを連絡しておかないと。


「事後報告になっちゃうけど、私も機械人形を見つけて鎮圧したよー」

「見つけたら連絡しろとミタマが言っていただろう……。まったく……」

 想像通り、イデイアちゃんの不満げな声が返ってきた。


 言い訳じみた報告をしてみると、彼女も一定の理解を示してくれ、これ以上の言及はやめると言ってくれる。

 安堵しながら彼女との通話を終わらせると、胸中に違和感が出現した。


「そういえば、ミタマちゃんの声が聞こえなかったな……。もう一回連絡してみようかな」

 通話機に魔力を通してしばらく待ってみるも、やはりミタマちゃんに繋がらない。


 任務中ならともかく、訓練中に連絡ができなくなるなんてさすがに変。

 彼女に何かあったのかな。


「こっちは鎮圧に成功したが……。ミタマと連絡ができないのか?」

「そうみたい……。何かあったのかな……?」

 機械人形から急襲を受け、連絡もままならない状態になっているのかもしれない。


 いち早く救援に行くべきだけど、ミタマちゃんはどこにいるんだろう。


「現在私は、訓練施設の北側出入口にいる。私はこのまま外周を進みながらミタマを探してみるから、レイカは南側に移動し、周囲の探索をしてみてくれ」

「通話機はつけっぱなしにしておこっか。その方が、お互いの状態を把握しやすいし」

 内蔵されている魔力を消費し続けることになるので、常に通話可能状態にしておくのは避けておきたい。


 けれど、私たちのどちらかが急襲を受けないとも言えないので、少しでも状況を把握しやすい状態にしておいた方が良いはずだよね。


「これも訓練の一環なのかもしれないが、気をつけろ。ミタマが連絡に出られない状態にするほどの相手だからな」

「うん、わかった。イデイアちゃんも気を付けてね」

 通話機を胸のポケットに移し、訓練施設の南出入口へと移動する。


 周囲にミタマちゃんや機械人形の姿はない。

 何かしらの情報がないか探索をしていると、ダイアさんとマスター・ルペスが切羽詰まった様子で話し合いをしている姿を発見する。


 疑問を心に抱いた私は、二人のそばへと移動していく。


「ん? レイカ君じゃないか~。君は無事みたいだね~」

「無事……? もしや、何か問題が発生してしまったのですか?」

「ああ、想像の通りだ。機械人形の一体に問題が発生したようでね、子狐ちゃんを昏倒させ、身柄を抑えてしまったんだ」

 マスター・ルペスから事情を聞き、大いに慌てる。


 ちょうどイデイアちゃんも合流したので、二人で詳しい話を聞くことに。


「情報の伝達に齟齬があったらしく、異なる設定を組まれてしまったようなんだ。かの機械人形に組み込まれたのは、人質の解放訓練に用いるはずの設定らしい」

「しかも制御が利かなくなっちゃってるんだよ~……。このままだと機械人形が何をしでかすか分からないんだ~……」

 つまりミタマちゃんは異なる訓練の標的にされ、襲われた上に人質にされてしまったと。


 友達に手を出されたと聞いて、我慢ができるほど私は成熟していない。

 本音を言えばダイアさんにも色々と物申したいことはあるけれど、まずは彼女を助けないと!


「機械人形が取るであろう行動は分かりますか?」

「暴走状態に近いから、あてにしないほうがいいと思うな~……。少なくとも、君たちが止めてきた機械人形たちよりずっと手ごわくなってるはずだから、手加減なんかしないで、ぶっ壊すくらいの勢いで戦っちゃって~」

 今回ばかりは壊していいと言ってくれたことに感謝する。


 傷ついたミタマちゃんを、彼女をその状態にした存在を見つけたら、とても我慢なんてできなくなっちゃうはずだから。


「発信電波によると、標的は観覧席付近にいるらしい。俺は念のため、他の魔法剣士たちに協力をするように伝えてくる。二人は子狐ちゃんの救出に向かってくれるかい?」

「もちろんです! 行くよね、イデイアちゃん!」

「当然だ。ミタマをこれ以上傷つけることなく、機械人形から解放するぞ」

 どうやら、イデイアちゃんも相当ご立腹の様子。


 彼女も同じ感情を抱いてくれていることに嬉しさを抱きつつ、装備の確認を行う。

 訓練用の剣であるために斬撃という意味では効果が無いけど、打撃武器という意味では使えるはず。


 鋼鉄製である機械人形に対しては、普通の剣を用いての斬撃よりも衝撃を与えやすいから、有利に働きそうだね。


「ボクたちのミスに巻き込んじゃってごめんね~……。こっちも制御が戻るように、色々やってみるよ~……」

「よろしくお願いします。また後でお話を聞かせてくださいね!」

 話を終わらせ、私たちは急いで訓練施設内部に戻る。


 廊下を進み、訓練場へとつながる出入口の前で周囲の偵察を行う。

 すぐさま飛び出してミタマちゃんを助けたいところだけど、まずは情報を得ないと。


「……見える範囲にはいないな。私たちの頭上あたりか?」

「だとすると、事前に情報は得られなそうだね……。手をこまねいているのもどうかと思うし、身を晒して向こうにも出てきてもらおうよ」

 向こうは人質がいる以上、ただ待っているだけでいい。


 懸念はあるけど、状況を変えるにはこちらから動かないと。

 まずは相手の姿を確認すること、ミタマちゃんの状態を視認することが最優先なはずだから。


「……素早く動けるお前が飛び出し、撹乱しつつ機械人形からミタマを救い出せ。私は頃合いを狙い、雷の魔法を放つ。そうすれば弱体化、もしくは破壊まで至れるはずだ」

「機械は電気に弱いもんね……! 分かった、全力でやってみるよ!」

 一人で訓練場へと飛び込み、背後へと振り返る。


 観覧席のちょうど中央部分には、機械人形と気絶状態のミタマちゃんの姿が。

 胸の奥に怒りが満たされていくのを感じながら、腰に下げた鞘に手を置く。

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