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水の都に入るために

「水の都アクアリム……。ここにオリハルコンがあるかもしれない……か」

 私の瞳に映るは、丘の上へ上へと建物が建てられている街、水の都アクアリム。


 近くに大きな水源が存在し、そこから水を引き入れることで、上から下へと街の中をまんべんなく水路が走る美しい街。

 私はここに、オリハルコンの手掛かりを求めてやって来たのだが。


「う~ん、人の視線が……。ルトちゃんに向いちゃってるね……」

「クゥ~ン……」

 ここはまだ街の入口なのだが、街道を進もうとする者、街に入ろうとする者からの視線がこちらへと飛んでくる。


 好奇心を含んだもの、警戒心を含んだものなど種々様々なのだが、どうにも不安を抱いているものが多いようだ。

 三年前の大海嘯事変があった以上、仕方がない部分はあるのだが、ルトちゃんのことを良く知っている私からすれば悲しいことこの上ない。


 何か、街の人たちの不安を取り除けるようなものがあれば良いのだが。


「あまり稼げなかった……。村の人たちが言った通りでしかないのかな……」

 聞こえてきた悲しげな声に振り返ると、そこには家屋の壁に寄りかかり、うなだれている少年の姿が。


 周囲に散らばっている色とりどりの玉から判断するに、大道芸人を志して都に上がって来たは良いものの、現実に打ちのめされていると言ったところか。

 失敗は往々にしてあるものであり、芸で生きるとなればその道は険しい物になるのは至極当然のこと。


 めげずに再起するか、諦めて故郷へと戻り、地に足が付く職で生きるか。

 彼はそのはざまで揺れているのだろう。


 大道芸人を志し、この都にやって来たのは本人が考え、選んだこと。

 誰かが口を出す権利はなく、義務もないのだが。


「ねえ、君。大道芸人さん、だよね? 私に芸を見せてくれないかな?」

 私は少年に歩み寄り、芸を見せてくれないかと頼み込む。


 落ち込んでいたせいか卑屈気味に断られそうになってしまったものの、なんとか押し切り、芸を見せてくれることになるのだった。


「え、えっと……。これから見せるのは、ジャグリングと言って……。この五つの玉を投げ、受け取るという流れの間に、回転を交えながら行っていきます……」

 自信なさげな口ぶりからの演技開始に、少しばかり不安を抱いてしまったものの、少年が見せた芸は微塵も失敗する様子がなく、宙を舞う色とりどりの玉も含め、実に美しい演技だった。


 人からお金を取れないものでは決してなく、お金を払っても良いと思えるほど。

 だというのに、誰も彼を一瞥しようとしないのは――


「綺麗な音色~! もっと、聴かせて~!」

「ほほう、良い絵画ですな。ぜひ買い取らせていただきたいのですが……」

 この街は、芸術面に秀でた一面もあるという話を聞いている。


 街の入口だというのに、吟遊詩人や絵師が金銭のやり取りを行っているところを見るに、それは事実であり、激しい競争が行われていることは容易に想像がつく。

 かなり厳しいことを言うようではあるが、少年の芸は見飽きられてしまっており、大した価値がないと判断されてしまっているのだろう。


「小さな頃からこうやって玉で遊ぶのが好きで、故郷の人たちに見せるのも好きだったんだ。最初の内は褒めてくれたり、ご褒美にお菓子をくれたりしたんだけど……。いまの歳近くになったら、いつまでも遊んでないで畑を手伝えって言われちゃってさ……」

「畑仕事は嫌で、故郷を飛び出しちゃった?」

「ううん、そんなことはないんだけど……。認めてくれていたのに、急に見向きもされなくなったことに悔しくなっちゃって……。大きな街で認められれば、見返せるんじゃないかって……」

 少年はそう言いながら、どこか遠くの空を見つめた。


 私には、彼の気持ちがほんの少しだけだが分かる。

 過去の日々を取り戻すために戦おうとし、敗れてしまったことがあるから。


 もちろんそれは大きな過ちであり、彼とは決定的に違うということも理解している。

 だから私は、自身の目的をしっかり話した上で、彼から協力を取り付けることにした。


「私の隣にいるコボルト、ルトちゃんはね。私を正してくれた人たちの家族で、私の友達なの。この子と一緒に水の都に入りたいんだけど、協力してくれないかな?」

「きょ、協力……? 僕にできることなら――って言いたいけど、大したことなんて……」

「ううん、できるよ。君の芸を、このルトちゃんと一緒にやって欲しいの。コボルトと一緒に芸をするなんて珍しいし、注目を引ける。もしかしたら投げ銭がいっぱい入ってくるかもしれないよ?」

 投げ銭という言葉を聞き、少年は瞳を輝かせ始める。


 街の人々がルトちゃんに不安な瞳を向けるのは、攻撃されないか、吠えられないかなど恐怖を抱いているから。

 人々の恐怖を打ち消すために、彼とコンビを組んで芸をやってもらいたいのだ。


 そうすれば、ルトちゃんはある程度ながら大手を振るって街を移動できるようになるはずだ。

 少年にとっても、コボルトとの芸という非常に珍しい体験ができるので、更なるスキルアップに加え、日銭を稼ぎ機会を得られやすくなるはず。


 両者にとって得になる話だと思うが、少年はどう答えてくれるだろうか。


「多分、このまま芸を続けていても、君は埋もれちゃうと思う。ちょっとだけ違う手法を取り入れて、違う道を探してみない?」

「違う道……。この子と一緒に……。分かった、僕、やってみる! えっと、ルトちゃんだったよね? 僕と一緒に、大道芸をやってくれる?」

「ワウ! ワウ!」

 ルトちゃんもまた、やる気満々な様子でお返事をしてくれる。


 街の中で練習をするのは往来の人々の邪魔になってしまうので、一度草原に出てから行うことにしたのだが。


「あ、そうだ。練習を始める前に……。僕の名前はバスカー。君は?」

「私の名前はラクリマだよ。よろしくね、バスカー君」

 バスカー君は、少し恥ずかしそうな笑みを浮かべつつ、ルトちゃんと一緒に草原へと向かって行く。


 彼らの後をゆっくりと追いかけつつ、心に浮かび上がってきた故郷の記憶に小さく笑みを浮かべるのだった。

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