オリハルコンの行方
「ふぅ……。荷物、すっごい増えちゃったなぁ……。まあ、近くに大きな街があるわけだし、そこで換金しちゃえば――」
「ワウ! ワウ!」
ヘビーモールの素材回収と清掃が完了に至ると同時に、ルトちゃんが声を発し始める。
瞳を向けている方向に視線を動かすと、こちらに近づいてくる二つの人影が。
一人は土汚れが付いた服を纏い、片方は鎧や剣で武装をしている。
さっきの戦いに気付き、様子を見に来たと言ったところか。
「失礼、俺はこの先にある採掘場で働いているもんだが……。先ほど、こちらの方角から大きな地響きや、砂ぼこりが発生したと聞き、様子を見に来た。何か知らないか?」
「ああ、やっぱり。実は先ほど、特殊な個体のヘビーモールが現れまして……。既に討伐していますので、ご安心を。こちらが、得た素材です」
ヘビーモールの爪を取り出し、二人組に見せる。
通常の個体よりも遥かに大きな素材であるため、当然ながら二人は大きく驚く。
武装をしている人物は私のことを興味深そうに、鉱士と思われる方は瞳を輝かせながら素材を見つめていた。
「これはまた、ずいぶんと立派なヘビーモールだったみたいだな……。アンタが退治してくれていなければ、採掘場が襲われていたかもしれないってことか……」
「ええ、移動をしていた方角から判断するに、ヘビーモールは採掘場の方へと向かっていたようです。放置していれば、まず間違いなく壊滅していたかと……」
「我々は、君に救われたということか……。大海嘯事変を乗り越え、かつてほどの規模の危険に瀕することは無くなったとはいえ、ある程度の警戒は必要ということですね……」
私は大海嘯事変に直接関わっていないけれど、ソラ君たちが懸命に戦ってもなお、被害が出てしまうほどに激しい戦いになったと聞いている。
当時ほどの危険は無くなったのだろうが、突発的にモンスターが狂暴化等する事例は多々あるようなので、警戒をするに越したことはないだろう。
「おっと、アンタには礼をしないとな。つっても、俺たちは採掘場から来たわけだから、嬢ちゃんにできそうなことと言っても、あんまなさそうだが……」
「でしたら……。常に光を発し続ける、ミスリルのことをご存じありませんか? 諸事情あって、それを探しているのですが……」
私の質問を受け、鉱士と思われる人物が体をピクリと動かし、驚くような表情を浮かべる。
これは、何かしら心当たりがある反応に他ならない。
もしや、オリハルコンは既に掘り出されているのだろうか。
「なんで嬢ちゃんがそのミスリルのことを知ってんのか、なんでそれを求めてるのかは知らないが……。その鉱石は、俺たちの採掘地から出土した……んだが……」
「その口ぶりから察するに、既に売られてしまったということでしょうか……? それならそれで構いませんので、お相手を教えていただけませんか?」
「と言われてもなぁ……。俺たちは俺たちで守秘義務もあるし、買い手から口外しないようにと念を押されているんだ。嬢ちゃんには恩があるが、すまねぇな……」
可能な限り早くオリハルコンを手に入れたいという気持ちは強いが、鉱士さん側にも事情があるようなので追及はできない。
とはいえオリハルコンを入手し、念を入れて口止めをしたことから察するに、資金面において余裕があり、かつ非常に高い立場に就いている存在ということは想像ができる。
その人物に接触し、譲ってもらえないか交渉ができれば良いのだが。
「情報を譲っていただき、感謝します。もしよろしければなんですが、ヘビーモールの爪を貰っていただけないでしょうか? 荷物が多すぎると大変ですし、確か採掘にも使える優れものだと聞いているので」
「いや! いや、いやいやいやダメだ! モンスターを退治してくれただけでなく、そんな立派な爪を貰っちまうなんて、ダメに決まってんだろ! 確かに俺らとしてもその爪は欲しいから、買い取らせてもらう! これでどうだ?」
これほどの品を対価もなしに譲ってしまうのは、確かに不誠実かもしれない。
お互いが満足し、不公平感を抱かないようにするために取引はある。
そんなことを、おばあちゃんは良く言っていた気がする。
採掘地へと案内された私は、ヘビーモールの爪を換金し終えた後、そのまま水の都へと向かおうとしたところで、とあることを思いつく。
「あ、そうだ。ミスリルが出土した場所を、見させていただくことって可能ですか?」
「あ、ああ。それくらいなら構わないぜ」
鉱士の方に案内される形で、オリハルコンが出土したという地に向かう。
思いついたこととは、魔力をスターシーカーに吸収させることだ。
この剣には魔力を吸収させることで、当時に何が起きていたのかを見通すことができる能力を持っている。
オリハルコンがあった地周辺の魔力を吸わせ、過去を見通すことで、誰が買っていったのかあたりを付けようと言うわけだ。
「ここがそのミスリルが出土した場所だな。同じもんが出てこないか、周囲を手当たり次第に掘り起こしちまったから、大きさの判断はできねぇと思うぞ」
「いえ、大きさを知ろうと思っているわけではありませんので。ほんの少しの間だけですが、剣を抜いてもよろしいでしょうか?」
「剣を……? まあ、構わねぇが……」
許可を得られたので、鞘からスターシーカーを抜き取り、周囲の魔力を吸収させる。
オリハルコンが出土してからある程度の時間が経っているようなので、吸収には少々難儀したものの、確認するには問題ないだけの魔力を集めることに成功した。
後は静かな場所に行き、過去から情報を得ればいい。
案内をしてくれた鉱士の方にお礼を言った後、採掘地から離れた私は、草原に腰を下ろし、剣を手に瞑想を始める。
周囲の警戒はルトちゃんに任せておけば問題はない。
眠気に似た感覚に苛まれると同時に、暗闇の中にぼんやりと光が出現し、少しずつそれが強くなっていく。
やがて光が消えると、そこには先ほどまで私がいた採掘地の情景が広がっていた。
「なんだこりゃ!? こんな、光を発し続けているミスリルなんか見たことねぇぞ!?」
「こいつはもしかしなくても、めちゃくちゃ上等なもんなんじゃねぇか!?」
驚くような、歓喜に満たされたような声に振り返ると、そこには一抱えするには難しい大きさの、光り輝く鉱石が置かれていた。
私も見るのは初めてだが、オリハルコンであるのは間違いないだろう。
「まるで金塊がそのまま土の中から出てきたみたいだが……。もしかしてこれ、製錬や加工が済んだ、延べ棒みたいなもんなんじゃねぇか?」
「普通に考えたら、地中からこんな形で出てくるわけがないもんな。遥か昔に作られたお宝が、現代になって現れたってところか! 他にも似たようなもんがあるかもしれねぇ。掘ってみるぞ!」
オリハルコンが出土したことでやる気が増したのか、鉱士の方々は一心不乱に土を掘り返し始めた。
私が求める情報は、もう少し先にある。
少し時間の流れを速めるとしよう。
過去の世界の動きが速まる中、採掘場には少々似つかわしくない姿を持つ人が現れた。
その人物は女性であり、三角帽子を被り、立派な杖を持っているところから察するに、恐らくは魔導士だろう。
胸に徽章らしきものを付けているところを見るに、何らかの組織に属している人物のようだ。
「珍品が出土したという情報を聞きつけ、見に来たのですが……。これはまた、素晴らしい物ですね! ぜひ買い取りたいのですが、よろしいでしょうか?」
「もちろん構いやしませんが……。魔導士ギルドの方がこれを買い取って、どうするんですかい?」
「純度が非常に高いミスリルともなれば、多様な研究に使えるはずですからね! では、こちらが代金で――ふふふ! これなら、お姉さまに喜んでもらえますよね!」
オリハルコンを買い取った人物は、荷台にそれを運び込んでもらうと、喜び勇んで水の都へと進んでいった。
どうやら、過去の見通しはここで終わりのようだ。
再び暗闇に戻ったので瞼を開けてみると、目の前にはルトちゃんが心配そうにこちらを見つめる姿が。
思ったよりも、時間がかかってしまったのだろうか。
「ただいま、ルトちゃん。私は何ともないよ。君の方は、大丈夫だった?」
「ワウ! ワウ!」
ルトちゃんはその場でくるりと回りつつ、元気な声を返してくれた。
どうやら、しっかりと見張りをしてくれていたようだ。
「ふふ、それじゃあご褒美におやつを食べてから、水の都に行ってみようか!」
「ワウ! ワオーン!」
小休憩を取った後、私たちは水の都への道を歩みだす。
目的地は魔導士ギルド。
大魔導士となったナナちゃんが束ねる、魔導士たちの総本山だ。




