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旅の最中に出会った存在

「もうすぐ水の都だね。毎日歩き続けているけど、疲れてきてない?」

「ウワウ! ワオーン!」

 共に道を行くルトちゃんに声をかけると、元気よく返事をしてくれた。


 連日歩き続けているというのに少しも疲れを見せないところから察するに、力が有り余ってしょうがないと言ったところだろう。

 もしくは、遠出ができていることに嬉しさを抱いているのか。


 家族であるソラ君たちに似て、旅をすることが好きになったのかもしれない。


「水の都の間近まで来たということは、目的の採掘地も近づいてきたってことだけど……。それっぽい施設は見つからないなぁ……」

 正面に見える水の都以外には、近くに大きな山があるだけであり、他には草原と街道しか存在していない。


 聞いた話によると、山を崩しての採掘ではなく、地面を掘り起こす形での採掘をしているらしいので、ただただ歩き回るだけでは見つけにくそうだ。

 まずは水の都に向かい、詳しい位置を調べてから向かおうと考えていると。


「ワウ! ワウ! グルウゥ……!」

 突如としてルトちゃんは唸りだし、特定の方向を見つめだす。


 何か危険が近づいていると察し、警戒をしながらそちらに瞳を向けると、突如として大きな砂ぼこりが発生して視界を遮る。

 幸いにも風向きはこちらではないようなので、少しずつ晴れていく砂ぼこりをじっと見つめることができそうだ。


「あんなに大きな砂ぼこり、何かしらの作用も無く起こるわけがない。原因は――大きなモグラ!?」

 砂ぼこりが晴れた先には、ごく一般的な家々と同等の巨体を持つモグラの姿があった。


 ソラ君たちが出版したモンスター図鑑にあれと同種のモンスター――ヘビーモールというモンスターの項目があったが、あれほどまでの巨体にはならないはず。

 恐らくは特殊な個体であり、まず間違いなく強大な力を有していることだろう。


「私たちに向かってくる様子はない……? でも、向かう先には人がいる! どうにか進行を止めないと!」

 巨体を持つ存在として似つかわしくないまでに、ヘビーモールの進行速度はすさまじい。


 とても走っては追いかけきれず、魔法を発射しても着弾することはなさそうだ。

 人の体になった現在では空を飛ぶことなどできるわけもなく、このまま蹂躙を始めるのを見守るしかないのかと考え始めてしまったその時。


「ワウ! ワウ!」

「ルトちゃん……!? もしかして、背に乗れって……!?」

「ワウ!」

 コボルトが地を駆ける速度もまた、かなりのものだと聞いてはいる。


 だが、私が背に乗ってしまえば、出せる速度は大きく下がってしまうはず。

 ルトちゃんに頼るだけでなく、私ができそうなことは――


「強化魔法……! 確かソラ君は、大海嘯戦役の時にルトちゃんたちに強化魔法を使ったって……! よし、やってみよっか!」

 強化魔法を他の生命に使用することは、拒否反応が起きやすいために非推奨とされている。


 だが、一部の人には他の生命と馴染みやすい魔力を生み出しやすい者もおり、ソラ君はその一人。

 そして、実は私も――


「アクセラ! さあ、ルトちゃん! 行こう!」

「ワオーン!!」

 ルトちゃんに加速魔法を付与すると同時に、白毛に体を預ける。


 問題なく強化が行われた白狼の四肢は、力強く大地を蹴り、とてつもない速度で標的を追いかけていく。

 近づいていく巨体から目を逸らさないようにしつつ、背負う鞘から剣を抜き取る。


 この剣と共に戦うのは、本当に、本当に久しぶり。

 当時とは異なる姿で、異なる力も与えられてはいるが、あの頃と変わらずに私のことを信頼してくれている。


「はあああ! やあ!」

 スターシーカーに宿る膨大な魔力の一部を解放しつつ、空に向けて力強く振り抜く。


 すると、白く輝く魔力を帯びた斬撃が飛び出し、ヘビーモールの背を目掛けて追いかけだした。

 ルトちゃんの移動速度と、斬撃自体の速度が合わさった結果、それは瞬時に目標へとたどり着き、大きな背を斬り裂きつつ爆発を引き起こす。


 ヘビーモールは声にならない悲鳴を上げて地面を転がるも、さすがに一撃では倒せなかったらしく、体を起こしつつこちらに顔を向けてきた。

 とは言っても、モグラというだけあり目が退化しているため、視線を向けたと言うわけではなさそうではあるが。


「何も恨みはないけど、他の生命に迷惑をかけるなら看過は――って、私が言うことじゃないか……。ともかく、私たちが相手になるよ!」

 挑発に乗ってくれたのか、ヘビーモールは私めがけて突進を仕掛けてきた。


 巨体からの重量攻撃など喰らえるわけもなく、防御はせずに回避に専念するようルトちゃんに指示を出す。

 回避を中心に動き回ってもらい、どうしても受けざるを得ない攻撃は私が防御をする。


 ヘビーモールが苛つきだす、もしくは疲れだして隙を見せた瞬間に攻撃を仕掛けていけば、こちらへの被害はないまま戦いを終わらせられるはずだ。


「おっと、この攻撃は避けられそうにないね。それ!」

 爪でのひっかき攻撃に対し、防御壁を展開する。


 さすがに威力が高いが、重量攻撃に比べれば問題はない。

 最後の攻撃に合わせて防御壁を弾き飛ばし、ヘビーモールの体勢を崩す。


 ひるんだ隙に両手の爪を破壊すれば、攻撃の手段を減らせるはずだ。

 スターシーカーの機構を解放しつつ、一、二、六と剣を振るう。


 無事に左前脚の爪はすべて破壊することに成功するも、自身の得物を壊された影響か、痛みによる影響かは分からないが、奴は怒りを見せ始めた。


「……! 地面に潜る気ね……! させないんだから!」

 ヘビーモールが地面を掘るような仕草を始めたので、剣を構えつつルトちゃんの背から大きく飛び上がり、広い背に一気に刺し込む。


 赤い液体が飛び散ると同時に、スターシーカーの本来の能力、魔力の急激な吸収が始まった。

 一部の例外を除き、ほぼ全ての生物に魔力は存在するものだ。


 あるべきものが急速に失われるということは、身体にとって重大な異変となる。

 事実、ヘビーモールは意識が混濁したような状態へと至り、本来の居場所である地面に潜ることができなくなるほどに衰弱してしまった。


「苦しいところに痛みを重ねるようなことをして、ごめんね……。でも――はあああ!」

 スターシーカーを振りぬき、ヘビーモールの体に巨大な衝撃が走る。


 巨体は静かに崩れ、もう二度と、動くことはなくなった。


「ワウ! ワウ!」

「お疲れ様、ルトちゃん。君のおかげで、被害が出ることなく食い止められたよ」

 駆け寄ってきたルトちゃんを撫でまわしつつ褒めると、とても嬉しそうな声を小さく発してくれた。


 念のため、被害が出ていないか周囲の確認をしたいところだが、ヘビーモールの巨体を放置しておくわけにもいかない。

 他のモンスターが近寄ってくる可能性、腐敗することによる被害を考えれば、素早く処置をするべきだろう。


「頑張ってくれたご褒美の前に、お片付けをしちゃわないとね。もうちょっとだけ、待っててね」

「ワウ!」

 ご褒美という言葉にそわそわし始めたルトちゃんを置き、ヘビーモールの解体を始める。


 素材となる部分は圧縮魔を用いて袋に詰め、どうやっても使えない部分は爆破する形で処理をしていく。

 作業を繰り返すうちに巨体は大地から消え去り、元の平穏な土地へと戻るのだった。

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