賑わうオーラム鉱山
「ここがオーラム鉱山かぁ……。教えてもらった通り、人がたくさんいるね」
歩む大地に草花が減り、茶色く乾燥した土が現れだした頃、私の瞳には数多くの人が集まる鉱山が映り込んだ。
観光客と思われる家族や友達連れの人々や、購入した鉱石を荷車に詰め込み、ほくほく顔でこの場を去っていく商人たち。
王都の活気以上の光景が、この地に広がっていた。
「えっと……。鉱士さんたちの宿舎は、向かって右側の建物だったよね。親方さん、そこにいるといいんだけど……」
人々の喧騒を聞き流しつつ、鉱士の方々が使う宿舎へと足を進める。
シャプナーさんからの紹介状を従業員の方に渡してしばらく待っていると、私が入ってきた扉から筋骨隆々の男性が現れ、こちらに視線を向けてきた。
ひげを蓄えた強面の男性からの鋭い視線に身を強張らせていると、突如として彼はニカッと笑い、こう口にする。
「シャプナーから紹介された奴が来ていると聞いて、どんな奴かと思えば……。こんな可愛らしい嬢ちゃんだったとはな! ソラがレイカたちを連れてやって来た時を思い出すぜ!」
「あ、あれ……? ソラ君たちのこと、ご存知――って、そっか。オーラム鉱山の問題を解決したって……」
「お? お前さんもソラたちのことを知ってんのか! 異種族が大陸外からやって来るほどに世界が大きく広がったってのに、世間は狭いな! ああっと、忘れてたぜ。俺がこの鉱山を取り纏めているもんだ。他の奴らからは親方って呼ばれているぜ!」
親方さんは私に席へと座るよう勧めると、思い出話を始めてくれた。
採掘作業中、コボルトの住処と坑道が繋がってしまったことで、操業を停止せざるを得なくなったことがあるらしく、その時にソラ君たちが現れ、問題を解決したとのこと。
さらに、彼らと共に訪れていたゴブリンとドワーフの二人組により、ミスリル鉱の精錬方法まで伝えてくれたことにより、売り上げが急上昇したこと。
これといって質問をしていないというのに、親方さんはとても嬉しそうに話してくれるのだった。
「っと、いけねぇ! 当時のことを思い出しちまうと、ついつい饒舌になっちまうぜ! お前さんからも、話を聞かせてもらわないとな!」
ひとしきり語り終えた後、親方さんは正気に戻る。
こちらからも事情を説明しつつ、ソラ君たちとの思い出を伝えることに。
彼は私の話を嬉しそうに、楽しそうに聞いてくれるのだった。
「お前さんも、ソラたちに大きな恩があるんだな! もっと聞きたいところだが、お前さんの目的の方も進めないとな! 魔力を込めるまでもなく、青く輝くミスリルを探している、だったな?」
「ええ、とある事情でどうしてもその鉱石が必要なんですが……。何か、ご存知ではないでしょうか?」
私の質問を聞いた親方さんは、腕を組み、うなり声をあげてしまった。
これらの行動は、オリハルコンと思しき鉱石はオーラム鉱山に無いことを示しているのだろう。
イラさんの言っていた通り、無駄足にはなってしまいそうだ。
「うちの鉱山は、他の採掘地とはちっと違う手法で採掘をしているんだが……。仮にそんな鉱石があるんなら、とっくに反応していると思うんだよな……。もちろん、まだまだ採掘ができる場所があるから、確実に無いとは言えねぇが……」
「そうですか……。ちなみに、他の採掘地とは異なる手法とは?」
親方さんは笑みを浮かべると、ついてくるようにと手振りで示し、宿舎から出ていく。
慌てて追いかけていくと、彼は鉱山へと入って行ってしまったので、彼に続くようにして暗闇へと踏み入れる。
湿っぽくありつつ埃が舞う坑道内を、顔をしかめながら進んでいくと、鉱士さんたちの休憩所と思われる部屋へと通された。
そこでも席に座りながら、しばらく待っていると――
「ワウ! ワオーン!」
「ワウ、ワウ! ワウ!」
聞こえてきた鳴き声に振り返ると、そこには見覚えのあるコボルトたちが。
この子たちは、確かソラ君たちが連れてきた――
「もしかして、ルトちゃんとコバちゃん!? どうしてここに?」
「ソラたちが仕事で出かける時は、こいつらを預かると同時に、ちょっくら仕事をしてもらってるんだ。土に埋もれている鉱石を探すのが、こいつらの得意技なんだぜ?」
親方さんの言葉に、ルトちゃんは小さくワウと鳴き、コバちゃんはくるりとその場で一回転して見せる。
コボルトの鉱石探索能力と、鉱士の方々との相性は抜群。
この二匹は人との関わりも深いので、オーラム鉱山の操業に大きく寄与しているようだ。
「こいつらを見にやって来る観光客も大勢いてな。特にコバは、子どもたちから人気なんだよな!」
「ワウ! ワウ!」
尻尾を大きく振り、嬉しそうにしているコバちゃん。
赤ちゃんの頃からソラ君たちと暮らしていると聞いているので、人への恐怖心はないに等しいと言っても良いのだろう。
「なるほど、この子たちがいるからこそ、オーラム鉱山に私が求める鉱石がない可能性が高いと……。じゃあやっぱり、他の採掘地を探してみた方が良いのかな……」
「役に立てなくてすまねぇな。もし、それっぽいもんを見つけたら取っといてやるぜ」
「そういうことでしたら、王都のシャプナーさんの所に届けてあげてください。真に必要としている人は、そこにいますので。取引についても準備があるので、ご心配には及びません」
やるべきこと、伝えるべきことを終えたので、再び旅に出ようとしたその時、ルトちゃんが私のことをじっと見つめていることに気付く。
何か欲しいと言うわけではなさそうだが、どうしたのだろうか。
「恐らくだが……。ルトは、お前さんの旅を手伝いたいと思っているみたいだな。良ければ、連れて行ってやってくれ」
「私のお手伝いを……。しかし、この子が離れてしまったら、この鉱山の操業に影響が出てしまうんじゃ?」
「なに、コバは残るわけだし、ソラたちが休みの時はこいつらも休みになるんだ。いなくなる可能性を考慮に入れていないなんて、監督として恥もいいところだぜ?」
つまりは、ルトちゃんを連れて行っても何も問題はないということになる。
一人っきりの旅は確かに寂しく、オリハルコンを探すにはコボルトの力を借りた方が良いのは確実。
ならば、この子を私の旅の仲間に加えても良いかもしれない。
「……私と一緒に来る?」
「ワウ! ワオーン!」
ルトちゃんはとても嬉しそうに、大きな声を上げてくれる。
この様子だと、単に私を手伝いたいだけではなく、各地を見て回りたいと思っていたのかもしれない。
グーラ地底大陸に来た時のちょっとした冒険が、この子の心に強く影響を及ぼしたと言ったところだろうか。
「これからよろしくね、ルトちゃん。コバちゃんや、この鉱山で働いている人たちにも、ちゃんと挨拶をしてから行こうね」
「ワウ!」
挨拶回りと、次に向かう地の確認をした後、ルトちゃんを連れて旅に出る。
ほんのちょっとだけ、明るくなった旅に笑みを浮かべながら。




