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二つの目的

「ミスリルが最も採れる鉱山はここ、オーラム鉱山だ。俺たちヒューマンの間でミスリル技術が広まった地でもあってな、鉱石を求める奴らだけじゃなく、観光客もひっきりなしに訪れて連日大賑わいだ。行くってんなら、紹介状を書いてやるぜ?」

 王都の武器屋にて。英雄となるための試練内容をイラさんから聞いた私は、武器屋の砥士であるシャプナーさんから、ミスリルの産出地について聞いていた。


 英雄試練のお題であるオリハルコンの捜索をするには、大量のミスリルが存在する地を訪れるのが手っ取り早い。

 砥士として働いている彼の伝手をも頼れば、労することなく産出地へと入れる可能性があるという魂胆もある。


「ちなみに、この鉱山はソラたちがとある問題を解決した土地でもある。ミスリルだけじゃなくても、行ってみる価値はあるだろうな」

「ソラ君たちが……。ふふ、彼らは本当にたくさんの人たちを救ってきているんですね。私も、オーラム鉱山に興味が湧いてきました!」

 オーラム鉱山で、ソラ君たちがどんな問題と戦ってきたのかを想像していると、袖をくい、くいと引かれる感覚が。


 そちらに顔を向けると、イラさんが少し耳を貸せと手振りで示していた。


「恐らくだが、オーラム鉱山にオリハルコンはないと思うよ。そんだけ人が訪れ、採掘が繰り返されているということは、既に掘り出されている可能性が高いからね」

「あ、確かに……。でも、ソラ君たちの足跡をたどるという意味でも、オーラム鉱山には行ってみたいかな……。確実に無いとも言い切れないわけですし……」

「まあ、旅をするのはアンタなんだから、アンタの気の向くままに進めばいいってのはその通りさ。見つからなかったからと言って、落ち込む必要はないんだからね?」

 そう言って、イラさんは元の体勢へと戻っていく。


 仮にオリハルコンが見つからなかったとしたら、無駄足と考えて落ち込んでしまう可能性は確かにある。

 とはいえ、見つからなかったら別の土地を見て回れば良いだけなので、旅をしている私としてはある意味都合がいい。


 天災への備えもしなければならないので、あまり悠長にしている暇はないのは確かではあるのだが。


「さて、話を再開するぜ。ミスリルの産出地はなにもオーラム鉱山だけじゃねぇ。採れる量の多い少ないはどうしてもあるが、純度の良さで言えばオーラム鉱山以上の産出地もある。いま話題なのは――ここだな」

 説明を再開したシャプナーさんは、とある街のそばにある地点を指し示す。


 確か、この街は水の都と呼ばれていたはず。

 観光地として有名なだけでなく、資源に関しても利があるとなれば、オーラム鉱山に負けず劣らずの人々が訪れているかもしれない。


 純度が高いミスリルが採れるという話を聞き、期待をしたものの、ここも外れになる可能性が高いかと考えていると。


「この採掘地はごく最近に見つかった物なんだ。商人や鍛冶士の間でも、まだ話が広まりきっているわけじゃないから、良いミスリルを見つけたいんなら行ってみる価値はあるぜ」

「詳しい話は、アタシもまだ聞いてないくらいだからね。それなりに距離があるとは言えど、そこまで旅をしてみる価値はあるんじゃないかい?」

 新しい採掘地へと向かうことを勧められたところから判断するに、この場所にオリハルコンが存在する可能性が高いとイラさんは見ているのだろう。


 私としてもその考えには同意であり、誰かに先んじて採掘されないよう、急いで向かうべきだと分かってはいるのだが。


「まずはオーラム鉱山に向かってみようと思います。ソラ君たちが関わった土地というのなら、やっぱり見てみたいので」

「ああ、良いと思うよ。目的からは遠ざかる道であろうとも、道中に学ぶべきものが数多くあるのであれば、結果的により大きく成長できるはずだからね」

 ソラ君たちの旅を辿れば、彼らの心があれほどまでに強い理由を知れるかもしれない。


 いまの私が学ぶべきことは、自身の心を保ち続けるための方法と、現在の世界の様相。

 どちらも足りなければ、私は英雄になることができないはずだ。


「シャプナーさん、色々と教えていただきありがとうございます。知識を譲っていただいたというのに、返せるものが何もなく……」

「あん? もうお前さんからはいろんなものを貰ってるぜ? 神族と聖獣という、とんでもなくでっかい繋がりさ!」

 シャプナーさんは大きく笑いながらそう言うと、仕事場の方へと戻ってしまう。


 私たちという繋がりを得られた。

 いまの私からすれば身が余る言葉でしかないと思うと同時に、期待されていると分かって嬉しさも抱いてしまう。


 その言葉に報いられるよう、精進しなければ。


「さて、アタシもいつまでも休憩しているわけにはいかないね。しばらくは一人っきりの旅になるかもしれないが、アンタにはアタシらがいることを忘れないように。心を強く持って、歩いていくんだよ」

「ええ、分かりました。お時間を取っていただき、ありがとうございました」

 武器店を出ていく私を見送りに来てくれたイラさんに手を振って別れ、再び王都の街並みを歩みだす。


 オーラム鉱山にしろ、新たな採掘地にしろ、向かうまでの道中に危険が発生しないとは限らない。

 学ぶという意味でも王都を散策し、旅に出る準備をするとしよう。



「ちょっと、買いすぎちゃったかな……。荷物が盛りだくさんだよ……」

 旅の準備となれば、食料品や薬の購入、いざという時の野営手段も必要だ。


 王都にたどり着くまでは、おばあちゃんのお弁当があったから良かったが、これからは食事も自分で用意しなければならない。

 盤石な旅にするために色々と買い込んだのだが、人の体となっている私には少しばかり多すぎたようだ。


「かといって減らすのももったいないし……。ここは、圧縮魔と強化魔法を駆使して無理矢理持ち運ぼっと」

 人の往来の邪魔にならないところに移動し、荷物整理を始めることに。


 形が大きく、使用頻度が低い物は圧縮魔を用いてカバンの底の方へと詰め、壊れやすく、使用頻度が高い物はそのままの状態でしまっていく。

 荷物との格闘を続けること数分、邪魔となりかけていた物たちは、たった一つのカバンに全て入り込んでしまうのだった。


「よし、後は強化魔法を使って……。うん、完璧!」

 圧縮魔と強化魔法の使用により、常に魔力を消費することにはなってしまったが、この程度であれば問題がない。


 むしろ、負荷をかけ続けることになるため、身体の鍛錬にもなるはずだ。

 日々これ鍛錬。顔を合わせるたび、そんなことを口うるさく言ってきた、とある神族を思い出してくすりと笑う。


 さて、王都は大体見て回ったけれど、他に行ってない場所は――


「昇降機、城壁上層へとまいりまーす! お乗りになられる方はいませんかー?」

 聞こえてきた声に振り返ると、そこには城壁の上層へと移動できる昇降機が。


 以前訪れた時は城壁の修理作業が行われていたので、上がることができなかった。

 王都全体を見渡せる他、付近だけとはいえアヴァル大陸の景色を見渡すことができるので、興味を抱いた私は城壁上層へと上がってみることに。


 ところが、昇降機の揺れは私には合わなかったらしく、地上を離れるにつれて気分が悪くなってしまう。

 動きが止まり、目的地にたどり着いた頃にはめまいが発生していたほどだった。


「うう……。バハムートとして空を飛んでいた時は、こんなことなかったのに……。自分の力で空中を移動するのと、乗り物で移動するのとでは違うんだなぁ……」

 乗り合わせていた方々に心配されたり、肩を貸してもらったりしながら昇降機を降りる。


 風を浴び、美しい景色を見れば体調不良も収まるはず。

 そう考えた私は、体を引きずるようにしながら展望台へと向かう。


 石造りの手すりに手を置き、大きく息を吸ってから瞼を開くと――


「綺麗……。私は、この景色を壊そうとしちゃってたんだ……」

 瞳に映ったものは、青々とした美しい草原。


 それを縫うようにして整備された街道は多くの人が行き交い、人の手が入っていない部分には、さまざまな種類のモンスターたちが生活を営んでいる。

 己の浅はかさを悔いつつ、景色を瞳に、心に焼き付けていく。


「……決めた。旅をしている間は、高いところに上がって景色を見よう。そうすれば、きっと……」

 小さく決意を抱きつつ、見える景色を隅々まで記憶していく。


 守りたいと思える景色を、その上で行われる生命たちの営みを心の支えとし、天災との戦いに挑む。

 これを、旅の目的の一つに定めるとしよう。


 瞳を細めながら、しばしの時を展望台で過ごすのだった。

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