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まずは王都へ

「王都ラーリムダ……。初めて来た時は、ソラ君とナナちゃんの結婚式だっけ……」

 広い、広い草原の中、私の瞳には背の高い城壁が映っていた。


 三年前の大海嘯事変の際、アヴァル大陸の王都ラーリムダは狂暴化したモンスターたちとの戦いにおいて、最終防衛拠点として機能したと聞いている。

 破壊された城壁は完全に修復され、人々は憂いを帯びることなく街道を進んでいくところを見るに、あの戦いは既に過去のものとして扱われているのだろう。


 もう一つの私の内に隠れ、ただ傍観していたことに申し訳なさを抱きつつ、街道にできた人の列に並ぶ。

 私たち聖獣が手を貸さずとも、人は困難を乗り越え、あっという間に元の生活へと戻っていく。


 いずれは私たちが見守る必要も無くなってしまうのかな。

 などと考えていると、いつの間にやら人の列は短くなり、私の番がやって来る。


「ようこそ、王都ラーリムダへ。来場目的をお聞かせ願えますか?」

「はい。目的は王都に住まう知り合いに会うことです。こちら、身分を照会するものになります」

 私の目的は、王都に滞在している神族に会うこと。


 それぞれの種族と大陸が繋がったことにより、この都でも数多くの変化があったようだけれど、各地から人や物が集まってくることは変わっていない。

 だからこそ、私が会おうと思っている神族はこの都に腰を落ち着け、天災への準備を行っている。


「こ、この証明書は……! 失礼いたしました! どうぞごゆっくり、お過ごしください!」

 担当をしてくれた兵士は、提出した証明書を見て大きく驚いていた。


 それもそのはず、私が見せた物はこの都に住まう王族の方から受け取った品で、都への自由な出入りだけでなく、直接王族の方々と謁見することもできる、最高の許可証と言ったところ。

 これを使って王都内に入ることに後ろめたさを抱いてしまうものの、使えるものは全て使うべきと、私を暗闇から呼び戻してくれた人たちが使っていた言葉を思い出し、心の揺らぎを落ち着けていく。


 王都へと入ると同時に目を引くのは、やはり人の往来。

 武器や防具を持つ冒険者、大量の荷物を荷車に載せるように指示を出す商人、友達と笑い合いながら道をかけていく子どもたち。


 これらの光景を見るたび、世界の在り方は過去とは大きく変わってしまったけれど、人は変わらないのだと思わせてくれる。

 暴走してしまった過去の自分を恥じつつ、彼らと共に未来へ向けて歩けるようになったことに嬉しさを抱く。


「新作のパンはいかがですかー! ホワイトドラゴンの皆さんと共に制作した、あんこを内に詰め込んだパンでーす!」

 声が聞こえてきた方向に視線を向けると、一つの店舗へと続く長蛇の列が。


 バラバラとなっていた大陸が繋がったということは、人や物、文化までもが混じり合い始めたということ。

 この大きな変化は時にいさかいの元になりかねないものだけれど、現状は問題が起きていないどころか、更なる変化へと至ろうとしている様子。


 お土産にちょうど良いと考え、列に並んで新作パンを買うことに。

 売り切れ直前にはなってしまったものの、何とか目的の物を手に入れることができ、それを手に王都をさらに進んでいく。


 目的の人物である神族が住まうのは、とある武器屋。

 そこで鍛冶職人として働いているとのことだ。


 剣と槍が描かれた看板を見つめながら大きく息を吐き、木製の扉を押し開く。

 チリン、チリンと鈴の音が響く中、たくさんの金属たちが置かれた屋内へと足を進める。


「らっしゃい! と、お前さんは――確か、ラクリマだったな?」

 各種武器や防具を見つめながらカウンターへと向かうと、一人の男性が声をかけてきた。


 筋骨隆々、まさに武器屋の店員としてふさわしい容姿をしているこの人は、元魔法剣士のシャプナーさん。

 ソラ君のお師匠様で、魔法剣士マスターの座に就いていたこともあると聞いている。


「お久しぶりです、シャプナーさん。えっと……。イラさんはおられますか?」

「イラなら奥で作業をしているぜ。良い金属が手に入ったから、それを使って試作をしている。すぐに会いたいか?」

 急ぎの用事ではないと伝えつつ、武器屋の奥へと招かれる。


 荷物たちを床に置き、席に座って待っていると、鍛冶場へと繋がる扉が勢い良く開く。

 そこから現れたのは、身の丈倍以上のハンマーを肩に担ぐ、子どもくらいの背丈の女性だった。


「おー! 元気そうだね、ハートちゃん! 今日は何の用事で――って、英雄試練の話だったか。アタシとしたことが、すっかり忘れてたよ」

「あ、アハハハ……。お久しぶりです、イラさん。忘れられちゃってたのはちょっと寂しいですが、お元気そうで何よりです」

 イラさんは豪快な笑い声を上げつつハンマーを下ろし、私の隣に座る。


 彼女が神族に選ばれる前の種族は、現代で言うところのドワーフ。

 金属鍛錬及び加工にかかれば、彼女の右に出る者はいないと言われるほどの腕前を持ち、神族に選ばれた後も技術発展に多大な寄与をした人物。


 性格的には豪快かつ、気の良いお姉さんといったところで、リヴァイアサンととても仲が良かったことを記憶している。


「来る途中で、あんこパンを買ってきました。王都在住なので、既に味わっているかとも思った――」

 お土産のパンを袋から取り出そうとした瞬間、目の前からそれが消え去る。


 小さく呆れながらイラさんに視線を向けると、彼女はパンを頬張ろうとしていた。

 彼女は甘い物が好物であり、一仕事を終えた後は甘味を食べる形で休息を取る。


 なのでお土産としては最適だろうと思っていたが、こうも喜んでくれるとは。

 大きく口を開けてそれをかじり、顔をほころばせる姿を見ていると、小さな体と合わせ、甘味に喜ぶ少女のように見えて実にほほえましい。


「あー、むしゃむしゃ……。あー、んぐんぐ……。うん、甘くてうまい! アタシの見立ては間違ってなかったってことだね!」

「あれ? そう言うってことは、まだ召し上がっていなかったんですか?」

「買いに行くたび、目の前で売り切れになっちまうんだよ……。今日はハートちゃんが買って来てくれたおかげで、こうして味わえたってわけだ。普段なら、休憩時間はもう少し後だからねぇ」

 たまたま目に入った物がイラさんの求める物だったと知り、心の中で小さく喜ぶ。


 せっかく喜んで食べてくれているところを、私の事情で邪魔してしまうのは申し訳ない。

 雑談をして、楽しめる時間を延ばすとしよう。


「どうですか? 王都の暮らしは。困っていることとかありませんか?」

「困っていることぉ? 何言ってんだい、そんなのいっくらでも湧いてくるよ。今日の甘味はどうしようかだとか、明日はどこの店で何を食おうかとかね。当時とは異なる食文化が生まれてるおかげで、悩みまくってしょうがないよ」

 返ってきた言葉に苦笑を浮かべつつ、これまでに食べてきた料理たちを思い返す。


 イラさんの言う通り、過去と現代では食の事情が大きく違う。

 グーラおばあちゃんも、学べることがたくさんあると料理の研究に没頭する日々があるほどだ。


「金属加工もそうさ。基本的には過去の技術の方が上だが、アタシたちが思い付きもしなかった技術がいくつか存在している。他人の内に入り込んで世界の様子を見続けていたが、封印されている間は暇でしょうがなかったからね。いまは楽しくてしょうがないよ」

「私も、同じ気持ちです。過去を思い出しては泣いていた日々では、現代を楽しむことなんてできなかった。私を止めに来てくれた人たちには、本当に感謝しています」

 だからこそ私は、過ちに対して贖罪をしなければならない。


 天災を今度こそ退け、後の世に続いていく世界を見守り続けなければならないのだ。


「……さて、そろそろ試練について話をするとしようか。といっても、内容は至極単純だ。自身を封印する前にアタシが大地に隠した鉱石、オリハルコンを見つけてきな」

「オリハルコン……! 魔力との親和性が高いミスリルの中で、最も純度と硬度が高い鉱石がそう呼ばれるんでしたよね。なるほど、長い年月を大地に隠すことで、純度をさらに引き上げていたと……」

 純度を高めに高めたオリハルコンを天災との戦いに使えば、必ずや大きな助けとなってくれるはず。


 問題はどこに隠したかであり、この広大な世界をヒントもなしに探すのは無謀としか言いようがない。

 天災襲来までまだ余裕があるとはいえ、過剰に時間を浪費するわけにはいかないだろう。


「聖獣たちが大陸を分割したからねぇ……。少なくとも、アヴァル大陸内のどこかにあるのは確かなはずだよ」

「それでも十分広いですけどね……。とはいえ、オリハルコンの純度を高めるにはたくさんのミスリルがそばにあればいいのですから、それが多く出土する土地を調べていけば大丈夫そうかな」

 シャプナーさんの伝手を利用すれば、金属を扱う繋がりでオリハルコンに近づいていけるはず。


 目的が決まったのならば、さっそく動いて――


「ミスリルがどうのとか聞こえてきたが……。必要なのか?」

「シャプナーさん、ちょうど良いところに。ミスリルが必要というわけじゃなくて、ミスリル鉱石がたくさん出土する土地のことを知りたくて……」

 念のためにオリハルコンのことは隠しつつ、事情を説明する。


 シャプナーさんは大きくうなずくと、テーブルに地図を広げてくれるのだった。

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