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もう一人の旅立ち

 あまりにもまぶしい光の中、私自身の心は黒い闇として浮かんでいた。

 どこにも行き場はなく、孤独に泣き続けることしかできずにいた過去の弱い私。


 強い光に溶け、消えてしまっても良かった。

 それでも私が消えずにいられたのは、過去に存在した世界を心の中で描き続けられていたから。


 大好きな人たちに、思いっきり愛してもらいたいと思っていたから。

 その幸せな日々を取り戻したいと思っていたがために、私という心は光に溶けずに残り続けることになった。


 過去を思い出してはその世界が存続する夢を見て、その世界が目の前で変化していく様を見守りながら、大好きな人たちと日々を語らう。

 決して得られない、戻れない夢に心を焦がし続けた結果、私は暴走をしてしまった。


 過去へと舞い戻り、世界を変えてしまった原因、天災を打ち払う。

 そうすれば過去の世界は存続し、大好きな人たちと世界を見守っていけるはずと考えてしまった。


 現在の世界を犠牲にしてでも、やってみせる――

 その野望は、ほんの数人の人と私自身の光によって阻止されてしまう。


 それどころか、彼らは私本来の願いを思い出させ、現在の世界で生きる権利を与えてくれた。

 いまもまだ、過去の世界を取り戻したいと思ってしまうことはある。


 でも私は、私にやり直しの機会を与えてくれた人たちに報いたい。

 生きて行く権利を与えてくれた、この世界を守りたい。


 私の身は罪まみれで、心は闇に染まっている。

 されどもう一つの自分が、心の奥底に眠る光が私を支えてくれている。


 そんな私でも良いのなら、もう一度世界を救う役目に就きたい。

 現代を生きる英雄と共に、過去から生きてきた英雄として。


「おーい、ハート! そろそろ準備をしないとマズいんじゃないかー!?」

 岩の上に座り、心を落ち着けていると、遠方から少しだけしわがれた声が聞こえてくる。


 呼吸を整えながら瞼を開くと、目の前には美しい草原とその上を走り回る生物たちの姿が。

 楽しそうな姿に笑みを浮かべながら大地へと降り立ち、天を見やる。


 そこにあるのは青い空や白い雲ではなく、赤茶けた無骨な土の天井。

 私がいるのはグーラ地底大陸。かつての天災から、人々が逃れるために用意された土地。


「なんだ、ハート。また瞑想をしてたのか?」

「うん。私に一番必要なのは、戦いの技術を鍛え上げることよりも、心を落ち着かせることだから。また、世界を壊すなんて野望を抱きたくないからね」

 座っていた岩から飛び下り、背後から響く声へと振り返る。


 そこには私の大好きな人、アヴァおじいちゃんの姿があった。

 老齢の身なので、顔や手には数多くのしわが刻み込まれてはいるけれど、背や腰は微塵も曲がっていない。


 それどころか、鞘に収まった一本の剣を片手で放ってくるのだから、分かっていても驚いてしまう。


「英雄と認められるための旅をもう一度したいなんてな。お前の実力は、おじいちゃんである俺という眼鏡から見ても、十分だとは思うんだけどな」

「実力は良かったとしても、心が伴ってなければダメでしょ。特に私は、世界を滅ぼすという願いを抱いてしまったんだから」

「きちんと反省できているし、その贖罪に向けて行動しているんだから、心も伴っていると思うんだがなぁ。まあ、お前が納得するためだって言うのなら、止めるつもりはないぜ」

 受け取った剣を優しくなでつつ、今回の旅の目的を確認する。


 世界を回り、力と心を鍛えることが旅の目的。

 その目的の果てにあるのは、天災を払う英雄となることだ。


「他の神族の奴らには、お前に試練を与えるように伝えてある。とんでもない試練になることもあるかもしれないが、まあ、お前なら越えられるだろ」

「越えなきゃダメ、でしょ? 天災という未曽有の災害に対抗するんだから、苦戦はしたとしても、失敗なんてしてられないよ」

 遥かなる過去の世界で、私は天災を払うことに失敗してしまった。


 そのせいで現在の世界が生まれてしまったけれど、命たちはいまある世界を懸命に生き、愛してくれている。

 なら私がするべきことは、かつての時と変わることはない。


「出かける前に、グーラとディアに声をかけて行けよ? 特にグーラは、言葉にはしていないが結構心配しているみたいだからな」

「うん、分かった。ディア君は起きてるの?」

「いまさっき、起き出してきた。飯を食いながら、接続を繰り返しているぜ」

 おじいちゃんと共に草原を歩きながら、共に暮らす家族であるグーラおばあちゃんとディア君の話を聞く。


 グーラおばあちゃんは、おじいちゃんの奥さんであり、食事を司る神族。

 彼女が作る食事はまさに絶品で、かつての世界では料理を食べに来る人がひっきりなしに訪れていたほど。


 ディア君はまだ子どもの身空ながら、神族の一人に選ばれた優秀な男の子。

 眠りに関する知識が豊富で、かつての世界では不眠症や疲労に悩まされる人が、彼の元に休息をしに訪れるほどだった。


「封印が解けてからも、ひっきりなしに接続を繰り返しているのに、いまも繋がらないってことは……」

「ああ、向こう側から接続を拒否されているってことになる。これが良いことに繋がるのか、悪いことに繋がるのか……。十中八九、後者になっちまうと俺もディアも考えているけどな」

 私たちが言う接続というのは、神族と聖獣だけが扱うことができる、同一種族内の他者の精神に入り込む技術のこと。


 神族が使うそれを弾き続けられているということは、何かしらの思惑があって抵抗をされていることになる。

 いくらディア君の種族が魔法族で、魔法族が暮らす大陸がいまだ大量の魔力に覆われているルビア大陸と言えど、並大抵のことではない。


「天災に対抗するための準備を進めなくちゃならないってのに、面倒極まりないぜ……。最悪を想定して行動しているが、大陸規模となると俺たちだけじゃどうしようもねぇ。ある程度の被害が出ることも、呑まなきゃなんねぇかもな……」

「かつてみたいに、人同士の争いが起きるかも……か。一体、魔法族に何が起きているんだろ……」

 来る可能性がある未来のことをおじいちゃんと話し合いながら、私たちの休む場所であるグーラ料亭へとたどり着く。


 屋内へと入り、皆が集まる部屋へと進むと、そこには布に包まれた箱が用意されており、おばあちゃんとディア君が私を待ちわびている姿があった。


「お帰りなさい。最後の修行はちゃんとできた?」

「うん、いままでで一番ってくらいに心が落ち着いているよ。一人で旅立つことへの不安が無いって言ったら、嘘にはなっちゃうけどね」

「もう一人の英雄候補、レイカちゃんは友達と一緒に旅に出たって聞いてるから、余計にだよね~。僕たちも旅についていければ良かったんだけど……」

 ディア君の申し訳なさそうな表情に対して首を横に振りつつ、畳の上に腰を下ろす。


 本音を言えば、友達と旅ができるレイカちゃんが羨ましい。

 共に歩み、相談ができる仲間がいれば、心に宿る不安が大きく低減されるはずだから。


 でも私には、その人たちが存在しない。

 心の奥底に隠れ、泣き続けていたのだから、至極当然のことだ。


「……この人と共に歩みたいと思ったら、共に食事をしなさい。温かい料理は心に宿る不安を溶かし、安心を与えてくれるから」

「共に一晩を過ごすことも大切だよ~。眠りは無防備になることでもあるけど、共にいる相手と信頼関係を結ぶことにもつながるからね~」

「余裕がある時は遊ぶことも大切だぜ? 相手をより深く知ることに繋がるし、互いの手を知り合うことで協力しやすくなるからな」

「うん、分かった。みんなから教えてもらったことを心に、日々を大切に生きて行くよ。それはそうと、布に包まれた箱があるけど……。もしかして?」

 箱に触れると、じんわりと温かさが手に伝わってくる。


 考えるまでもなく、この中に入っているのは――


「もちろん、お弁当よ。たったの一回だけだとしても、あなたには私が作るご飯をたくさん食べて欲しいから」

「……ありがとう。ゆっくり、味わいながら食べるね。それじゃあみんな、行ってきます!」

 もう一人の英雄と肩を並べるために、英雄の剣――スターシーカーと共に。


 おばあちゃんが作ってくれたお弁当も手に持って。

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