一つの地に留まらずとも
「あ、使い魔を呼び出す練習をしている人が向こうにいるよ」
ケラスの里にたどり着き、宿泊地に荷物を置いてからの散策中のこと。
私たちの視線が向かった先では、既に呼び出されている使い魔を参考にしながら、魔法の形を変化させる練習が行われていた。
「よし、できた! 先生、いかがでしょうか?」
「大まかな部分は良いでしょう。ただ、関節部分が少々甘いようですね。大雑把な作業を任せる場合は問題ないですが、細かな作業を行わせると崩れてしまうはずです」
一対一での練習の果て、講義を受けていた男性は黒い鱗を持つ小さなドラゴンを出現させることに成功したものの、教師の人物から問題点を指摘されてしまい、がっくりと肩を落とす。
私からすると、とても上手に形作れているように見えるけど、使い魔を呼び出す魔法の大本であるエルフの人たちからすれば、足りない部分だらけなのかもしれないね。
「そんなに気を落とさないでください。我々エルフの中でも、使い魔を呼び出せない者はざらにいます。他種族であるあなたが、これほどの短期間でここまで形作れるのは称賛に値すること。あなたならば、必ずや使い魔を使役できるようになりますよ」
「先生……。ありがとうございます! 俺、必ず使い魔を呼び出せるようになって見せます!」
激励を受けた男性はやる気をみなぎらせると、使い魔を呼び出すための練習を再開する。
心の中で頑張ってくださいと応援していると、隣にいるイデイアちゃんの手が固く握りしめられていることに気付く。
どことなく寂しそうな表情をしているところから察するに、使い魔を呼び出してみたいという気持ちは、思った以上に強いのかもしれない。
「練習中のあの人と同じで、ちゃんと練習すればイデイアちゃんも使い魔を呼び出せるようになると思うけどなぁ」
「な、なんだ急に……。確かに練習すれば、いずれはあり得るかもしれないが……」
「なら練習すればいいってウチは思っちゃうし、イデイアちゃんだって誰かが悩んでいたらそう言っちゃうでしょ。もうちょっと、自分に素直になればいいのにね~」
私とミタマちゃんの指摘に対し、イデイアちゃんは唸り声を上げるという形で答えを示す。
使い魔を扱えるようになりたいけれど、現在は旅の道中。
私が英雄になるための旅を、邪魔したくはないってところかな。
「レンはあっという間に召喚することはできるようになったけど、正確に動かせるようになったのはずっと後。アヴァル大陸に戻ってからも、ずっと練習してたよ」
「別に、一ヵ所に留まり続けて練習する必要があるってわけじゃないもんね~。仮にそうじゃないと成長しないというなら、ソラさんやウェルテさんがあんなに強くなるはずがないし」
基礎を得るために、一所に留まるのは決して間違いじゃない。
けれども盤石になった後も留まり続けていては、成長なんてできないと思う。
その時々に合った行動を取る練習をするには、実際に体験してみないとできないんだから。
「……この里での滞在期間中に、使い魔の基礎技術を学べとお前たちは言っているんだな? 全く、体を動かす訓練とは違い、あれはどちらかというと勉学の類だぞ? 私が一朝一夕で覚えきれるとでも?」
「とーぜん! ウチらの中で一番頭が良いんだし、習得が早いイデイアちゃんなら絶対できるよ! ウチだって応援するし、レイカちゃんも応援するでしょ?」
「もちろん! イデイアちゃんが召喚する使い魔、見てみたいな~」
私たちのおだてを聞いたイデイアちゃんは、大きく溜息を吐いた後にやれやれと囁く。
されどその表情は後ろ向きなものではなく、小さな笑みが浮かべられた前向きなものだった。
「分かった。この里にいる間で覚えられるものは、全て覚えておく。ただし、その後の練習にはお前たちも付き合ってもらうぞ? せっかくなら皆で覚えた方が効率的だからな」
「は~い! よろしくお願いしますね! イデイア先生!」
「アハハ、調子が良いんだから。私が英雄になるための旅ではあるけど、二人が成長しちゃいけない旅じゃないんだから。みんなで成長していこうね!」
こうしてイデイアちゃんは、この里にいる間で使い魔召喚の勉強をすることに。
この後、スイレンさんの元で調薬の勉強も始めちゃったものの、彼女は両者の知識を凄まじい勢いで獲得していくのだった。
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次回は、もう一人の英雄候補のお話になります。




