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図鑑作成の賛同者

「まさか、村で出会う人のほとんどが声をかけてくるとはね……」

 休暇でアマロ村に戻ってきてから少し経ったある日のこと、ソラお兄ちゃんと一緒に村へと入ると同時に、村の人たちが一斉に声をかけてきた。


 この村の住民として認められているって分かってすごく嬉しいけど、喜びの声が呼び水となって屋内にいる人たちまで出てくるからさあ大変。

 目的があって来たのに、疲れてきちゃった。


「話疲れたからか、甘いものが食べたくなっちゃったな~……。お兄ちゃん、話し合いが終わったら、共同食堂に行かない?」

「うん、いいかもしれないね。姉さんとナナの分は、お土産として買って……」

 お兄ちゃんとそんなことを喋りながら道を進んでいると、目の前には立派なお家が。


 この家の主は、アマロ村の村長さん。

 その方の孫娘さんと会議をすることが、今日の一番の目的だよ。


「ここに来ると、スラランを保護したばかりの頃を思い出すよ。驚かれるか、怖がられるかとばかり思っていたから、すっごく緊張していたっけ……」

「でも、その心配は杞憂だったんだよね? テーブルの上に飛び乗っちゃうほど、スライム好きの人がいたから……」

 目撃していないというのに、不思議と脳裏にはその光景が浮かび上がる。


 それだけ交流を深めた結果なんだろうけど、ちょっぴり不思議な感じ。

 今日の話し合いでは、どんな行動を見せてくれるかな?


「よし、それじゃあ声をかけようか。すみません、ソラです。ユールさんはおられるでしょうか?」

 お兄ちゃんが村長さんの家に向けて声をかけると、屋内から小さく返事が聞こえてくる。


 呼吸を整えながら少しの時を待っていると、扉が開き、金の髪を持つ女性が現れた。


「お久しぶりです、ソラさん! レイカちゃん!」

 彼女の名前はユール。スラランの名付け親で、彼のことを一番に可愛がってくれる人。


 スライムへの愛で暴走しちゃうことが多々ある人だけど、平時であれば頼れる方なんだよね。


「久しぶり、ユールさん。モンスター図鑑作成計画に参加したいと聞いて、話を聞きに来たんだけど……。間違いはないかい?」

「ええ、間違いありません! 軒先で話すことでもありませんし、中へどうぞ! すぐにお茶の準備もしますね!」

 ユールさんに案内されるままに屋内へと入り、席に座る。


 テーブルにお茶が置かれていくと同時に雑談が始まり、近況等の報告が行われ、場の雰囲気が更に和やかになっていく。

 そんな中、お兄ちゃんはカバンから書類を取り出し、ユールさんに手渡すのだった。


「それは誓約書。当たり前の話ではあるんだけど、モンスターの調査となると命に関わることもある。私たちと共にモンスターのことを調べる覚悟が本当にあるか、示してほしいんだ」

 和やかだった雰囲気が一転、場の空気が一気に張り詰める。


 笑顔を見せてくれていたユールさんも、受け取った誓約書を真剣に読み始め、一字一句を頭に、心にも刻み込んでいるようだった。


「……お二人もご存知の通り、私はスライムが大好きです。ソラさんたちと共に世界に飛び出せば、いろんな種類のスライムを見られるかもと期待していた事実はあります」

 誓約書を読み終えたユールさんは、意思を持った瞳でお兄ちゃんを見つめ、語りだす。


 スライム好きな人にとって、地域によって異なる姿を持つ彼らのことを知ってみたいと思うのは、何も不思議なことじゃない。

 この目で直接見て、肌で触れ合えるかもと思えば、モンスター図鑑作成の旅に飛びつきたくなる気持ちも良く分かる。


「同時に、とある夢を叶えられると思ったんです。スライムたちの魅力を、多くの人に知ってもらいたいという夢です」

「なるほど……。確かに、モンスター図鑑を多くの人が手に取れば、スライムの情報はたくさんの人に刻まれていくことになりますね。私からすると、問題ない志望理由だと思うけど……。お兄ちゃんはどう思う?」

 モンスター図鑑に対するユールさんの思いは、私欲も含まれているのは確か。


 けれど、彼女の思いを認めなかった場合、私たちがこれまでにしてきた活動を否定することになる。

 私たちも知りたいという思いから世界を巡り、たくさんのモンスターたちを調べ、図鑑という一つの書籍に記してきたのだから。


「私も君と同じで、志望理由としては問題ないと思っている。ただし、ユールさん。改めて言っておくけど、私たちの調査対象はスライムだけじゃない。時にはドラゴンを調べないといけないことだってあるし、スライムに気を取られる間に、他のモンスターが襲い掛かってくる可能性だってあるんだ。君が取る行動によっては、同士が傷つくかもしれない。それは理解しているかい?」

「……はっきり言って、理解はしきれていないと思います。危険のない穏やかな村で、のんびりと暮らしてきましたからね。それでも私は、スライムのことをより深く知って、より多くの人に魅力を伝えたい。私が得た知識を、遥か未来にまで送りたいんです。どうか私を、あなたたちの仲間に入れてください」

 お兄ちゃんの試すような質問を受けても、ユールさんの意思は変わらない。


 穏やかで、明るい性格の人がこれほどまでに真剣な表情を見せてくれたことに、私自身が驚いてしまっているくらい。

 彼女と一緒に、モンスターを調べたいという思いが強まっていくのを感じるけど、お兄ちゃんはどうなのかな。


「……うん、それだけの覚悟と決意があるのなら大丈夫だと思う。ユールさん、君をモンスター図鑑作成計画の一員として認めます。君の知識を、ぜひ貸してください」

「……! こちらこそ、よろしくお願いします! 図鑑作成に必要な知識等、頑張って学んでいきますね!」

 話し合いが無事に終わったことに安心し、ほっと一息吐く。


 ユールさんは見知った仲だから割と気兼ねなく会話ができたけど、これからは全く知らない人と話し合いをする必要があると思うと、採用する側に立つのも楽じゃない。

 基本的にはお兄ちゃんが参加希望者に話を付けに行くみたいだけど、特別大使のお仕事もあるのに大丈夫なのかな。


「選考をして、ある程度の熱量を持っている人のみに絞っているから、それほど忙しくはならないさ。人数が増えてくれば、そういったことが得意な人に任せられるようにもなるからね」

「採用関係は分かりませんが……。事務仕事等であれば、私もご協力できることがあると思います! 人が増えれば、お金の事情も考えないといけませんからね!」

 お兄ちゃんがユールさんに目配せをすると、彼女は笑顔を浮かべつつ握りこぶしを見せてきた。


 なるほど、彼女を最初に選考した理由にはその辺りの事情もあったんだ。

 調査自体は問題なくできたとしても、活動資金の使い方が滅茶苦茶だったら、立ち行かなくなっちゃうもんね。


「そういうわけで、しばらくはドタバタすると思うけど……。改めて、よろしくね」

「こちらこそ、よろしくお願いします! 色々お勉強をして、その日が来るのを楽しみにしていますね!」

 面談は円満に終わり、共同食堂に寄り道をする。


 調査に加わるメンバーの姿を想像しながら、購入したお菓子を頬張るのだった。

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