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救星の英雄たち 壊星の陰陽竜  作者: 一木空
第四章 英雄試練
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エルフからの依頼

「おお~。これまでにいろんな使い魔を見せてもらってきたけど、このウンディーネは別格なんだね~。水の橋を渡るなんて夢みたい!」

「お前は暢気だな……。もしもの話でしかないが、イタズラで足場を消されでもしたら、水に落ちることになるんだぞ。感心自体は私もしているが、警戒もしておけ」

 水の使い魔、ウンディーネによって作られた水の橋を、私たちは渡っていた。


 水の橋を踏む足から伝わってくる感覚は、舗装された道や草原を進む時のものとは大きく異なり、どことなく不安を覚えるもの。

 硬さはあるけど、浮いているような感覚。


 イデイアちゃんが警戒する気持ちも良く分かるかな。


「と~ちゃくっと! 里長さん、いるかな?」

 水の橋から足を下ろし、浮島の中心にある小さな家へと近づく。


 玄関へと移動して声掛けをしようとしていると、不思議なことに扉は自然に開き、私たちを招き入れようとしていた。

 これだけをみると不気味な現象だけど、私は扉を開いた存在を知っている。


 そして、その存在を使役している人を知っているから何も怖くない。


「こんにちは~。お邪魔してもよろしいでしょうか?」

「ええ、もちろんですよ。いらっしゃい、レイカさん」

 玄関を通り抜ける直前で挨拶をすると、優しい穏やかな声が聞こえてきた。


 その声に導かれるようにしてリビング内へと入ると、お茶の準備をしてくれている青髪の壮年女性の姿が。

 彼女こそがこの里の里長さんであり、この地に住まう大地の竜、ニーズヘッグ様との取次ぎをしてくれる人だよ。


「お久しぶりです! スイレンさん! お元気でしたか?」

「ええ、この通り。レイカさんは心身ともに、ずいぶんと成長されたようですね」

 笑みを浮かべながらほっぺを掻いていると、背中を突っつかれる形で、後ろにいる二人から早く進めと催促をさせられる。


 テーブルに着いてお互いの自己紹介を行っていると、緑色の毛に覆われた私たちの手よりも小さなオオカミが、開け放たれた窓から室内へと入ってきた。

 多分、あの子が玄関の扉を開けてくれた子、シルフ。


 風属性の使い魔で、情報収集や情報伝達が得意な使い魔だよ。


「ふふ、お疲れ様。ゆっくりと休みなさいね」

 シルフはふよふよと宙を浮いてスイレンさんのそばへと移動し、彼女の手に収まる。


 しわが刻まれ始めた手で体を撫でられ、気持ちよさそうに欠伸をしていた。

 その様子を見ていたイデイアちゃんの手がぴくぴくと動いているところを見るに、撫でてみたいって思っているみたいだね。


「それにしても懐かしい。初めてお会いした日から、もう四年近く経つのですよね。あの時はまさか、あなたが英雄候補になるとは微塵も考えておりませんでしたよ」

「あの時は未熟も未熟でしたし、世界に危機が迫っていることすら知らなかったんですよね。お兄ちゃんたちと一緒にここに来なかったら、立ち向かう準備すらできなかったと思うと……」

 私たちがこの森を訪れたのは、私にとっても、世界にとっても転換点だったのかもしれない。


 だけど、この転換点にたどり着くだけでも、かなりの数の偶然が重ならなければならなかったと思うと、とてつもない綱渡りだったんじゃないかな。

 アディア大陸へ渡る方法が無かったら、シルバルさんたちがアヴァル大陸を訪れていなければ、私たちがお兄ちゃんたちの家を訪れなければ、私たちが、お兄ちゃんがアヴァル大陸へ向かわなかったら、お兄ちゃんが私の故郷で生まれなかったら。


 ほんのちょっと掛け違いがあれば、いろんなことが成立しなかったんだから。


「さて、皆さんの目的は世界樹におられるニーズヘッグ様とお会いすることですが……。事前に、私たちエルフより試練を受けていただきたいのです」

 私たちは姿勢を正し、スイレンさんからお話を聞く準備を整える。


 ニーズヘッグ様と会う前にやってもらいたい試練。

 重要なお話だということは、なんとなく理解できる。


「この試練はニーズヘッグ様から試練を受けるための、事前確認のようなもの。乗り越えられなければ、試練を受ける価値無しと見放されてしまうでしょう」

「……! なるほど、重大な試練ですね……! お聞かせ願えますか?」

 スイレンさんはこくりとうなずくと立ち上がり、近くの戸棚へと歩み寄っていく。


 そこから虹色に光る液体が入った一本の瓶が取り出され、テーブルの上へと置かれたので、私たち三人は顔を突き合わせるようにしてそれを見つめる。


「ヴォミットフロッグ。皆さんが彼のモンスターを退治したことは、シルフから聞き及んでいます。いまこの森は、ヴォミットフロッグが大量発生した影響で、樹々が痛み始めているのです」

「イチョウさんもそのような話をしていましたね。つまり、私たちの前に置かれたのは毒消しと言ったところでしょうか?」

 液体が入った瓶を目の前に置かれ、毒についての話題をされたということは、瓶の中に入っているのは毒消しで間違いない。


 話の内容から察するに、毒消しを撒いてきて欲しいって聞こえてくるけど、たぶんそんなに簡単な話じゃないよね。


「お察しの通り、皆さんにはこれを樹々に撒いてきてもらいたいのですが、量が圧倒的に足りません。製薬に関しては我々エルフが行いますので、まずは素材を集めてきて欲しいのです」

「素材集めか。やることは単純だが、全ての基本となる大切な作業だ。巨大な森を癒すほどの毒消しを作るとなると、素材もそれ相応のものが必要そうだが?」

 スイレンさんは窓際に歩み寄り、こちらに手招きをするという形で答えを示す。


 窓の外に見えるは、この森で一番大きな樹、世界樹だった。


「レイカさんはご存知の通り、かつての世界樹はこの大陸全土から魔力を集める役割を担っていました。その内に宿る魔力は、根、幹、枝、葉、花、果実と問わず膨大。葉の表面に生じる朝露でさえも……」

「世界樹の朝露……。響きからだと、とてつもないものに感じるけど、要は魔力を宿す液体ってことだよね?」

「端的に言えばそうだろうが……。それほどの液体から作られる魔道具なり薬品なりは、強大な力を発揮できるはずだぞ? 魔法と共に歩む魔法剣士として、もう少し興味を持つべきじゃないか?」

 ミタマちゃんの何気ない発言に対し、イデイアちゃんが苦言を呈する。


 どことなく興奮している様子を見るに、魔法族としての血が騒いだってところかな。


「世界樹の朝露を回収して、それを用いて作成されたお薬を、傷んだ樹々たちに撒いて来ればいいんですね? その試練、受けさせていただきます!」

「ええ、そう言ってくださると思っていました。さて、私たちも本腰を入れて素材を集めてこなければなりませんね。良いものが見つかると良いのですが……」

「さすがに、世界樹の朝露だけでは薬にはならないか……。語学のため、他に必要な素材について教えてもらえないだろうか?」

 膨大な魔力を用いて作られる薬に、イデイアちゃんは興味津々な様子。


 私も彼女と同じ気持ちだけど、やるべきことはちゃんとなさなければいけない。

 でも、作業の様子とかは知りたいから――


「イデイアちゃんはここに残って、作業の様子を見させてもらったら? 共有してもらえば、私たちも学びになるし!」

「待て、待て! 許可を得ていないというのに、何を言っているんだ! 大して知識がない者がそばにいれば、作業の邪魔になってしまうかもしれないんだぞ……!」

 私の提案に対し、イデイアちゃんは至極当然な反論をしてくる。


 とはいえ、ちらりちらりとスイレンさんの方に視線が動いているところを見るに、好奇心を消しきれていないみたいだね。


「イデイアちゃんが製薬に興味があるみたいなんです! ぜひ、見させてあげてくれませんか?」

「ちょ――!? ミタマ、お前ま――」

「ええ、もちろん構いませんよ。イデイアさん、よろしければ私たちの作業を見ていきませんか?」

 スイレンさんは、微笑みを浮かべながらイデイアちゃんに作業の見学を勧めてくれた。


 挙動不審な素振りを見せ、私たちに何か言いたそうな表情を浮かべていたけど、最終的には見学をする気になったみたい。

 イデイアちゃんが薬の知識を付けてくれれば、私たちにも大きな利になるし、いざ魔法族との交流が始まった時にも、ここでの知識が役に立つはず。


 かつて私たちがそうしてきたように、彼女も――ね。


「そろそろ日が暮れ始める時間ですね。ウンディーネがいるので溺れることはありませんが、橋から足を踏み外して泉の中に落ちてしまう可能性があります。これにてお開きといたしましょうか」

「分かりました。スイレンさん、お話を聞かせていただきありがとうございました! 明日もよろしくお願いします!」

 別れの挨拶を済ませ、スイレンさんのお宅から離れた私たちは、夕食用の食料を買い込んでから宿泊地へと戻る。


 野菜をふんだんに使った料理を味わい、休む支度を整えた私たちは、明日に向けて早めに眠りに就くのだった。

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