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救星の英雄たち 壊星の陰陽竜  作者: 一木空
第四章 英雄試練
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砂漠と森

「不快極まりない揺れだが……。事前に飲んでおいた薬のおかげか、不調にはならないな。シルバルさん、ご配慮感謝します」

「ふふ、それは良かった。薬の効果があるとはいえ、まだ道は半ば。少しでも調子がおかしくなったらお声がけくださいね」

 薄い黄色の砂の上、強い日差しが照り付ける砂漠を、私たちが乗る車は疾走していた。


 帝都ドワーブン内とは異なり、道が全く整備されていないがために、車内は跳ねて揺れての大騒ぎ。

 漁師の娘ということで、酔うわけがないと自信たっぷりだったミタマちゃんですら、少し調子が悪そうにしている中、イデイアちゃんは涼しげな表情で景色を眺めていた。


「海の揺れと、車の揺れって違うんだね……。ちょっと、甘く見てたかも……」

「この大揺れだと、窓から景色を見ても気晴らしにならないんだろうね……。そういえば、レンも気持ち悪くなっちゃって大変だったなぁ……」

 初めてアディア大陸に来て、初めて車に乗った時のことを思い返す。


 見たこともない乗り物の座席に座り、勢いよく景色が背後へと進んでいく記憶。

 窓にへばりつき、流れていく光景を興奮しながら見つめていた白髪白角の少年が、突如として顔を青くし、口元を押えだした。


 ちょうどよいサイズの袋があったから事なきを得たけど、ちょっと違っていたらどうなっていたことやら。


「……む? 向こうの砂丘に人の姿が見えるぞ。こっちに手を振っているようだが」

「なんですと――確かに、こちらに合図を送っているようですね。様子を見に行ってみましょうか」

 イデイアちゃんが見つけた、合図をしてくる人へと、車は進む向きを変える。


 砂丘を乗り越え、前面の窓に映り込んだ光景は――


「人が、砂に飲み込まれてる……!?」

 泥のように変質した砂に、ヒューマンと思われる冒険者の方が半身を飲み込まれていた。


 脱出しようとしているみたいだけど、もがけばもがくほど砂の中に沈んで行っちゃうみたい。

 急いで助けないとだけど、私たちまで巻き込まれちゃったら意味がない。


 どう助けるのが最適なんだろう。


「流砂か……。ロープで引っ張り上げるのが最適でしょうね。幸いにも、人よりも遥かに大きな力を持つ車がここにはある。労せず救助は可能でしょう」

 停車した車から降り、環状にロープを結んで要救助者に向けて投げつける。


 それを掴んでもらうと同時にロープの反対側を車に繋ぎ、バックをする形で引っ張り上げる。

 要救助者は砂の落とし穴――流砂から無事に抜け出し、私たちに感謝を述べてから仲間たちと共に去っていった。


 流砂という存在に恐怖を覚えつつも興味を抱いた私は、要救助者がはまっていた砂に触れてみることにした。


「ずいぶんと湿っぽい――というか、本当に泥みたい……。砂がこんな状態になっちゃうなんて……」

「アディア大陸の地下には大量の水が存在しますからね。水脈の流れが変わるなどして、時折、地表に表出することがあるのですが、その際にこうして流砂へと変化する場合があるのです」

 シルバルさんの説明によると、この砂漠地帯ではよく見られる光景らしい。


 アディア大陸の人たちは、流砂の危険性を理解しているからはまっちゃうことはほとんどないみたいなんだけど、最近は他の大陸の種族たちもやって来るから、事故の被害が増えてるんだって。

 砂漠の警備人員を増加させる案もあるみたいなんだけど、経費が大きく増加しちゃうだけでなく、あまりにも広大なため、無謀だということで話し合いは進んでないみたい。


「この大陸を冒険することを目的に訪れた者たちに、流砂及び砂漠の進み方の講習をしているのですが……。効果はあまり出ていないようで……」

「言葉で説明をされるのと、自身が経験をするのとでは理解度の深まりが段違いですからね……。諦めず、少しずつでも続けていくしかないのでしょうね……」

 聞きかじっただけの知識では、間違った行動を取ったり、とっさの対応ができなくなってしまったりする。


 聞いて、見て、感じれば知識は大きく付くけれど、見て、感じる部分で命の危機に瀕していては意味がない。

 私も、肝に銘じておかないとね。


「さて、そろそろ目的地への旅を再開しましょうか。想定外の小休止となったおかげで、ミタマ様の調子も戻って来たようですからね」

 車へと視線を向けると、激しい揺れのせいで体調を崩しかけていたミタマちゃんが、大きく伸びをしている姿が。


 目的地である森林地帯には、まだもう少し移動をしなきゃいけない。

 私たちは再び車に乗り込み、道なき砂漠を跳ねながら進んでいく。



「やっと到着したね~。この森の中に入れば、気分が更に良くなっていきそうだよ~」

 車から降りたミタマちゃんは大きく深呼吸をし、新たな土地の空気を肺にたっぷりと吸い込む。


 紆余曲折あったものの、私たちは無事に目的地である大森林にやって来た。

 眼前には、ごく普通の家々を十倍近く大きくした樹々が現れ、車での進行を阻んでいる。


 ここから先は徒歩でしか移動ができないけど、植物たちがうっそうとして薄暗いから、不安が心に浮かんでどうしても二の足を踏みたくなっちゃう。

 既にこの地には訪れていて、知り合いもいるんだけどね。


「エルル大森林……。エルフたちが暮らす森であると同時に、アディア大陸の守護者、大地の竜ニーズヘッグ様がおわす地……か」

「スターシーカーが眠っていた大樹、世界樹がある場所でもあるよ。間近で見ると本当に迫力があるから、楽しみにしててね!」

 私たちの目的地は、エルル大森林の奥地にある世界樹。


 この暗くて深い森を、目印もなく進んでいく――ということはなく、樹々に結びつけられた赤いリボンが示す道を進んでいけば、エルフたちの集落にたどり着けるんだよね。


「お嬢様から、皆様の護衛をするよう仰せつかっております。この森を離れ、帝都にお戻りになるその時まで、盾を務めさせていただきますね」

 ここまで案内をしてくれたシルバルさんが、鎧と盾を装備した状態で車から降りてきた。


 大海嘯事変、そして地底への旅に向かった時も、彼は盾として私たちの歩みに同行してくれた。

 とっても大きなモンスターの攻撃をも受け止めて、弾き飛ばしちゃうほどだから、モンスターに襲われても安心だね。


「シルバルさんへの防御魔法の行使はウチに任せてね! ソラさんほど強力な強化にはならないだろうけど、頑張るから!」

「確かこの森は、毒を持つモンスターが多いんだったな? ならば私は回復を優先しよう。いくら防御が万全だったとしても、内から攻められてはどうしようもないからな」

「じゃ、私は攻撃担当だね! それぞれの担当も決まったことだし、エルフさんたちの集落、ケラスの里へしゅっぱーつ!」

 シルバルさんを先頭に、ミタマちゃん、イデイアちゃん、私という順番で森を進む。


 湿っぽい空気が周囲を包む中、樹々のざわめきだけでなく、モンスターたちが生活をしている音が聞こえてくる。

 視界不良なうえに足元が悪いため、普段以上の緊張感と警戒感を抱き、自身の歩みに意識を向けながら進んでいく。


 そのおかげか、こちらに敵意を向けて接近してくる存在に気付くことができ。


「右方向、攻撃来るよ!」

 皆に敵の接近を伝えつつ、先んじて仕掛けられた攻撃を剣で叩き落す。


 攻撃の正体は紫色のねばねばした液体で、どう考えても体に良いものでは無さそう。

 剣が汚れちゃったのは嫌だけど、誰かの体に付いちゃうよりはずっとマシだよね。


「ありがと、レイカちゃん! シルバルさん、防御強化をします!」

「感謝します! さあ、私が相手だ! かかってこい!」

 ミタマちゃんから防御魔法を受けたシルバルさんは、抜き取った剣の切っ先を地面に当て、攻撃を仕掛けてきた存在がいる方向に目掛けて思いっきり斬り上げる。


 土砂を帯びた斬撃は暗がりへと突き進み、そこにいる存在を斬り割いた。

 攻撃を受けたことに怒りを抱いたのか、モンスターは大きく飛び跳ねながらこちらに向かってくる。


 暗闇から現れたのは、紫色の体色を持つ巨大なカエル。

 私たちよりも体の大きなそのモンスターは、瞳をぎょろぎょろと動かしつつ、品定めをしている様子だった。


「確か――ヴォミットフロッグですね。その名の通り、獲物目掛けて毒を吐き出すモンスターです。森の奥地に住むとエルフの方々から聞いているのですが……。まずは倒すことが優先です!」

「ですね! 毒に気を付けながら攻めていきましょう!」

 吐きかけてくる毒に特に注意を向けながら、ヴォミットフロッグと一戦交える。


 紫色の液体は盾で防いでもらい、跳躍力を生かしての圧し潰し攻撃は回避をしつつ反撃を打ち込んでいく。

 五回、十回と攻撃を受けた果てに、大きな体をぐらりと揺らしながら地面へと倒れこむのだった。


「やった! 倒せた! シルバルさん、私たちを守って下さり、ありがとうございます!」

「いえいえ、皆様を守ることができたのは、ミタマ殿とイデイア殿の支援があったからこそ。レイカ殿の攻撃も、以前より遥かに冴えわたっているように思えましたよ」

 お礼を伝え合いつつ、お互いを褒め合っていると、背後の方から何かが地面に着地した音が聞こえてくる。


 またモンスターが現れたのかと思い、剣を握り直しつつ振り返ると。


「こんなところにまで、ヴォミットフロッグの生息域が広がっていたか。お客人に手を煩わせてしまい、すまない。そして、退治してくれたこと感謝する」

 私たちの前に現れたのは、槍を握る黒い髪の男性。


 長く尖った耳を持つものの、ヒューマンによく似た姿をしているこの方こそエルフ族の人物。

 そして、私たちの知り合いでもある人。


「イチョウさんじゃないですか! お久しぶりです!」

 私がイチョウと呼んだ人物は、少し動揺したようなそぶりを見せ、顔を逸らすのだった。

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