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救星の英雄たち 壊星の陰陽竜  作者: 一木空
第四章 英雄試練
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穏やかな海を越えて

「アディア大陸が見えたぞー!」

 頭上から響いた声を聞いた人々は、一斉に船の縁へと移動した後、寄港準備を始めていく。


 私たちがいまいる場所は海の上。

 魔法剣士が所有する船、レジナ・ウェントゥス号の甲板だよ。


 魔法剣士が所有するとは言っても、船の上には一般の人たちも数多く存在している。

 有事以外は、各大陸を移動するための定期船としても利用されているってわけ。


 船の縁に移動し、海を、その先に存在する大陸に視線を向ける。

 舳先がある方向には、アディア大陸と呼ばれる断崖絶壁に囲まれた大陸が。


 ダイアさんたちゴブリンとドワーフの他に、二つの種族が暮らしている土地だね。


「わずか三日で到着……か。レヴィア様の加護はやはり強力だな」

「それでも飛空艇の速度には敵わないんだっけ? 空を飛べるって、やっぱりすごいよねぇ」

 私と同じく、船の縁に移動して目的地を見ているのは、ミタマちゃんとイデイアちゃん。


 二人は私の英雄となるための試練を見届け人であると同時に、仲間であり友達。

 三人で協力して世界を回り、各大陸に存在する聖獣たちに認められることが、今回の旅の主目的だよ。


「その分、資源やエネルギーを大量に使うから、簡単には飛ばせないって話らしいけどね。少しでも過重になっちゃうとバランスを取ることも難しくなるらしいから、大量の輸送は船を用いた方が良いんだって」

「新しい技術を得たからと言って、なんにでも都合が良くなるとは限らないということか。難儀なものだな」

 アディア大陸は他大陸と比べて、資源不足に陥りやすい環境を抱いている。


 鉱石等が取れるけど、木材資源に乏しい砂漠地帯。

 木材資源に富む分、鉱石が取れない森林地帯。

 強風が吹きすさぶため、採取活動そのものが難しい岩山地帯。


 地域によって環境そのものが激変するだけでなく、それぞれの地域に異なる種族が暮らしているがために交易以外で資源を集めるのが難しく、新技術発展の妨げになっているみたい。

 それでも、私たちが目を見張るような技術を確立しているんだから驚きだよね。


「飛空艇という頭上を抑えられる技術を持ちながらも、それを容易に動かすことは叶わず、海運に頼らざるを得ない……か。だからと言って、三年そこらで断崖絶壁を崩し、巨大港を作るとはな……」

 イデイアちゃんは会話を続けつつも、アディア大陸に再度視線を向ける。


 断崖絶壁に覆われていると言ったけど、それはほんの少し前までのお話。

 現在のアディア大陸は、絶壁の一ヵ所に巨大な昇降機が取り付けられ、海と陸上を繋いでいるんだよ。


 そのそばにはとっても大きな港があって、大陸から出たり入ったりする船が数多く存在しているの。

 私たちが乗るレジナ・ウェントゥス号もそこに寄港し、積み荷や人の行き交いをするってわけ。


「さて、ウチらも下船の準備を始めよっか! 忘れ物なんかしたら大変だよ!」

 ミタマちゃんの号令の下、船室へと入り、自身の荷物を片付ける。


 作業が終わり、再び甲板へと移動すると、船はちょうどアディア大陸の巨大港に横付けをするところだった。

 港にロープが括りつけられ、桟橋が下ろされる。


 移動を目的としていた人々が船を降りていき、私たちもその列に続く。

 ここまで接近してしまうと、もはやほぼ真上を見上げる状態にならなければ、大陸の上層は瞳に映らなかった。


 巨大昇降機に乗り込み、それが動き出すまで静かに待ち続ける。

 やがて駆動音と共に大きな衝撃が体に走り、海面が、レジナ・ウェントゥス号が、ゆっくりと視界の下部へと移動していく。


 しばしの別れに寂しさを抱きつつ、私たちはアディア大陸の帝都ドワーブンへと入っていくのだった。



「ふぅ……。レイカちゃんがいるからほとんど顔パスとはいえ、入国審査は緊張するね」

「一から十まで手続きをしなければと思うと、ぞっとしないな。一度に入国する人数次第では、半日近く待たされるらしいからな」

 巨大昇降機を降り、入国審査を終えた私たちは、椅子に座りながらある人物が到着するのを待っていた。


 アディア大陸にたどり着いたとはいえ、目的地はまだまだ距離がある。

 そこにたどり着くには広大な砂漠を横断する必要があり、徒歩での移動は無理。


 乗り物を利用したいところなんだけど、当然、私たちはそんなものを持っていない。

 つまりはそれを持っていて、操縦してくれる人が私たちの待ち人ってわけ。


「失礼いたします。お迎えの方が参られました」

「お、来た、来た! ウチ、車に乗るのは初めてだから楽しみ!」

「私は前マスターと共に乗ったことがあるが……。あの揺れはどうにも苦手だな……」

 一人は期待に満ちた表情を浮かべ、一人はうんざりしたような表情を浮かべながら廊下を進む。


 自動で開く扉を抜け、アヴァル大陸で受けるものよりも遥かに強烈な日差しに眉をひそめていると、私たちの身長のちょうど半分くらいの背丈をした男性が、こちらに近付いてきた。


「お待たせしてしまい、申し訳ありません。お久しぶりですね、皆様」

「あ、シルバルさん! お久しぶりです!」

 私がシルバルと呼んだその人は、優し気な笑みを浮かべつつ、丁寧に挨拶をしてくれた。


 私たち家族の知り合いどころではなく、仲間と言っていいほどに親交を深めた人物で、小さな体に見合わない盾を持って、私たちを守ってくれたの。

 一緒に大陸を旅したこともあるし、共に大きな戦いを乗り越えたこともあるんだよ。


「本当はお嬢様も共に迎えに行くと仰っていたのですが……。突如として会議が入ってしまいまして……。申し訳ございません」

 シルバルさんが言うお嬢様という人物も、私たちの大切な仲間。


 とはいえ、王族に匹敵する地位を持っている人だから、自由に行動できることはそうそうない。

 お兄ちゃんがこの場に居れば――歓迎パレードになっちゃうかな。


「会えないのは残念ですけど、こればっかりはしょうがないですもんね。この場に居続けると他の人の邪魔になっちゃうかもですし、移動しましょうか」

「そうですね。それではこちらの車、後部座席にお座り下さい。砂漠地帯の移動は明日を予定しておりますので、皆様がお休みになる場所へご案内いたします」

 私たちが使用する乗り物、車のそばで待機していた人物が、シルバルさんの言葉に合わせて扉を開けてくれた。


 それに乗り込んで少し待っていると、駆動音が発せられるとほぼ同時に小さく揺れ、移動を始める。

 窓を開けて流れていく景色を眺めようとしていると、反対側の席に座っているイデイアちゃんがぽつりと呟いた。


「……道が整備されているからだろうか。アヴァル大陸で乗った時と比較するまでもなく、揺れが少ないな」

「人や荷車が踏み固めたとはいえ、土の道では大きく揺れてしまうでしょうね。とはいえ、道路があるのは帝都内だけですので、砂漠での揺れにはご注意くださいね」

 シルバルさんの言葉を聞き、イデイアちゃんはうなだれる。


 私は砂漠の移動は好きだけど、あの大揺れは無理な人には無理なんだろうね。

 何とかしてあげたいけど、対処法を知っているわけじゃないからなぁ。


「ふむ、ならば砂漠の移動時には酔い止めを用意いたしましょう。異種族との交流が大きく進展したおかげで、効き目が強い薬が開発されたようですので」

「そっか、大陸間の交流が進んだから、機械や魔法の技術だけじゃなくて医療の技術も成長しているんだね。ウチらとは直接関係があるわけじゃないから、考えもしなかったよ」

「気付かないところでも、技術は進歩しているってことだね。他にも見落としているものもあるのかなぁ」

 車内での会話が弾む中、私たちが乗る車は宿泊地へとたどり着く。


 一晩を帝都で過ごした翌日、私たちは再び車に乗り込み、砂漠地帯に向けて移動を始めるのだった。

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