水蛇の指示
「夜の海もいい景色だね~。空にも海にも星が光ってて……」
海都ポルト近くにある、魔法剣士所有の海岸にて。
私、ミタマちゃん、イデイアちゃんに加え、魔法剣士の主だった人たちがこの場に集い、レヴィア様が訪れるのを待っていた。
この暗い海の中から、あの方は現れる。
水の聖獣の名を持つ通り、世界中の海を巡りながら日々を過ごしているってわけ。
「こんなにきれいな海だけど、この広くて深い海を、孤独で過ごし続けているなんてなぁ……。しかも、ウチらが想像もできないほど大昔から続けてきてるんだよね? すごいなんて言葉も失礼になっちゃいそう……」
「レヴィア様も、耐えきることはできていないんだろう。だから、人に地上を見るための目となってもらい、会談という名目で交流を図ることで孤独を和らげる。彼女の瞳が優しいのは、それが理由だと思うぞ」
波打ち際で海を見つめながら、ミタマちゃんとイデイアちゃんが会話をしている。
私たちが初めてレヴィア様と出会った時、地上を見る目となることを決めた時、彼女はとても嬉しそうにしていた。
そのことから察するにイデイアちゃんの想像が正しいんだろうけど、とてつもない忍耐力があったからこそ、耐えられたというのも間違いじゃないはず。
仮に私がその座に就くとしたら――いや、その前に英雄になること自体が、不自由な生活を余儀なくされちゃうのかもしれない。
大陸間特別大使に就いたお兄ちゃんのように、大魔導士の座に就いたお姉ちゃんのように。
強大な力、権力を手に入れる代償は、己の不自由に繋がるのかな。
「そろそろ時間だね。皆、所定の場所に整列してくれ。レヴィア様がご到着されるよ」
マスタールペスの指示のもと、魔法剣士たちが整列していく。
私は並び始めたみんなとは異なり、波打ち際に一人立つマスターの横に並び立つ。
レヴィア様に主に報告をする彼と、英雄候補である私はおそばで話ができるようにしておかないとだからね。
月と星の光が反射する海に、泡が噴き出る地点が見えてきた。
それは少しずつ大きさと頻度を増していくと同時に、こちらへと近寄ってくる。
泡を生み出し続けていた地点が突如として膨れ上がり、一本の水柱へと変化していく。
その内からは、青い鱗を持つ大きな海蛇が現れた。
「久しぶりだね、魔法剣士の子たち! 元気にしていたかい!?」
「ええ、おかげさまで。レヴィア様こそ、ご健勝のようで幸いです」
海都に存在するどの建物よりも、高い場所に存在する青く美しい瞳が、私たちの姿を映していく。
マスターと会話を始めたこの海蛇こそ、アヴァル大陸の聖獣リヴァイアサンであり、私たちがレヴィア様と呼ぶ存在。
性格は気の良いお姉さんといった感じで、人と聖獣という違いはあれど、気兼ねなく会話ができるお方なんだ。
「さてさて早速、アヴァル大陸内で起きたこと、これから起きることについて、話を聞かせてもらおうかね!」
レヴィア様の言葉を皮切りに、報告が進んでいく。
ここしばらくのアヴァル大陸は平穏そのもの。
数カ月後に、異種族連合でルクスル大陸に向かう計画がある。
私からは、最後の神族が復活したことを伝えると、彼女は嬉しそうに尾を振り、こう言ってくれた。
「そうかい! ディア様がとうとう目覚めたと! ルクスル大陸に向かう話も興味深いし、アヴァル大陸が平和だと知って安心したよ! アンタたち、よく頑張ってくれてるね!」
レヴィア様からのお褒めの言葉を受け、魔法剣士たちの表情に笑みが浮かんでいく。
私たちよりも遥かに偉大な存在が褒めてくれることは、それだけでやる気が満ち溢れるというもの。
日頃の業務も、ますます力が入りそうだね。
「それにしても、ルクスル大陸に向かう……か。んなら、レイカには試練を与えようかね。英雄に至れるかどうか、見極めるにはちょうどいいだろう」
「え……本当ですか!?」
驚きの声に対し、レヴィア様は大きく首を動かす形で返答をしてくれた。
私が待ちに待った、英雄に至るための試練。
この世界、アステラに訪れるとされる天災を払うための力を得るために、私はこの三年間、様々な鍛錬を費やしてきた。
どんな試練が課されるか分からないけど、絶対にやり遂げて、ラクリマちゃんと一緒に世界を守って見せるんだ!
「ふふ、やる気が満ち溢れているのは良いことだね! それじゃ、試練の説明をしようか。レイカ以外の子たちも、念のために聞いといてくれ。天災に主に挑むのはこの子かもしれないが、アンタたちも協力はするんだろう?」
「ええ、当然です。世界に影響が及ぶ災害となれば、各地に住まう全ての人が抗うべきです。たった一人に全てを押し付けるような真似など、するわけにはいきません」
マスターの言葉に、この場に集う全ての魔法剣士がうなずいてくれた。
一人で天災に立ち向かうとなったら、きっと私も委縮しちゃうはず。
でも、私には友達だけでなく、こんなにもたくさんの仲間たちがいる。
みんなと一緒に歩み続ければ、絶対大丈夫!
「ああ、アンタらみんなでレイカの行く道を支えてやってくれ。それじゃ、肝心の試練の内容だが……。各大陸を巡り、聖獣たちから認められること。以上だ」
「え……。それだけですか……?」
既に私はほとんどの聖獣たちと知り合ってきている。
彼らに認められることは難しい事ではあるはずだけど、三年前に大陸を渡ったことを思えば、それほど難しい事のように感じない。
本当に、それだけが試練の内容なのかな。
「ああ、それだけだよ。三年前にアンタたちが世界を巡り、世界を知ったように。現在の世界で存在する問題を知り、解決し、天災の来訪に備えて欲しいんだ」
腕を組み、レヴィア様からの試練の内容について思考を巡らせる。
天災という巨大な問題が発生すると分かっていても、目前に小さな問題があれば気を取られてしまうのが私たち人。
人々の手助けをしつつ、聖獣に認められることで英雄となる。
単純明快だし、何より世界を見て回れるとなれば私は断る理由がない。
問題は、旅に出ることを認めてもらえるかどうかだけど。
「君が旅に出て、各地に住まう人々の背を押し、時に共に歩んでくれれば、魔法剣士の理念も遂げられる。君という戦力が長期間離れるのは痛いが、君に全てを任せるのも違うしね」
マスターの言葉を皮切りに、この場に集まっている仲間たちが旅に出ることを勧めてくれる。
仮に反対されたとしても、どうにかして説得するつもりだったけど、こうも後押ししてくれるのであれば何の気兼ねもなく旅に出れるね。
ただ、私一人だけだと寂しいし、いざという時に頼れる人がいないのは怖いなぁ。
「前回の天災に敗れた原因は、時間がなかったとはいえバハムートの奴だけに運命を任せちまったことだ。だから今回は、共に歩む仲間を作り、天災に立ち向かうという手法を取ろうと思ってるよ」
「ふむ……。それなら白角ちゃん、魔法剣士内から連れて行きたい者を選ぶと良い。と言っても、半ば決まっているようなものか」
レヴィア様とマスターから、共に旅に出る仲間を選んでよいと言われた私の視線は、二人の少女に止まる。
金の髪を持ち、朗らかな笑みを浮かべてくれるミタマちゃん。
灰の髪を持ち、気恥ずかしそうに視線をそらしているイデイアちゃん。
この二人が、私の旅の仲間!
「おやおや、たったの二人だけで良いのかい?」
「本音を言えば、もっとたくさんの人と旅に出たいですよ? でも、そんなことをしたら、いろんな人が困っちゃいますから!」
私のためだけに、数多くの戦力を割いてもらうわけにはいかない。
大体はみんなで力を合わせることの方が多いだろうけど、時には少人数で、もしくは一人で問題解決に動かなければいけない時だってあるはず。
今回の試練は、そういう時のための訓練にもなるはずだからね。
「よし、それじゃあ最終確認と行こうか。レイカ、アンタはこれから各大陸を巡って聖獣たちに認められた後、アタシのとこに戻ってくること。それが、アンタを英雄として認める条件だ。めぐる大陸、出会いに行く聖獣はアンタの自由だよ」
「はい! 分かりました! 魔法剣士レイカ、必ずや試練を達成して見せます!」
レヴィア様と魔法剣士たちの前で宣言をした私は、英雄になるために動きだす。
旅に出るための準備が一日、二日と過ぎ、私たちは海へと漕ぎ出すのだった。




