帰還と報告
「ただいま戻りました~!」
休暇明け、私は魔法剣士ギルドへと戻ってきた。
構成員の皆さんに帰ってきたことを伝えつつ、寮にある自室へと向かっていると、何か資料を読みながら歩いているイデイアちゃんの後ろ姿が。
悪戯心が湧いた私は、こっそりと彼女の背に近付いてみたんだけど。
「帰ってきたか、レイカ。休暇はどうだった?」
声をかける間もなく、私のことに気付かれてしまった。
足音も立てないようにしていたのに、なんでバレちゃったんだろ。
「それなりの付き合いの長さになったからな、お前とミタマの気配なら感じ取れるさ」
「むー……。何か負けた気がして悔しいけど、それだけ交友関係を築けたってことでもあるから、別にいっか! ただいま、イデイアちゃん!」
イデイアちゃんに休暇中の出来事を教えながら、マスターの執務室に向かう。
地底の冒険と、ディア様の復活のこと、ちゃんと伝えておかないとね。
「これで神族は全員復活か。後は英雄が誕生すれば、天災に向けての準備は大詰めというわけだな。そうそう、レヴィア様との定期会議は今夜だ。忘れるなよ?」
「あ、そうだったっけ、ちょうど良かったかな」
私たち魔法剣士は、水の聖獣であるレヴィア様ととある契約をしている。
契約の内容は、魔法剣士が所有している船の航行速度を引き上げる代わりに、アヴァル大陸内で起きたことを見て、聞いて、彼女に伝えるというもの。
聖獣という立場に就いている以上、そうやすやすと人前に現れることはできないし、体が大きいから川を遡上することもできない。
水のそばであれば、何が起きているのかは感知できるみたいだけど、地上の奥まったところまでは把握できないらしいから、人という代わりの眼が必要ってわけ。
「話をする内容も決めないとね! そっちの会議はいつするの?」
「お前が帰還次第、始めると言われている。私はこれから主だった者たちに声をかけてくるから、お前はマスターに挨拶をしてこい。いまなら執務室におられるはずだ」
「ん、分かった! それじゃ、また後でね!」
イデイアちゃんと別れ、マスターの執務室に向けて一人歩きだす。
先輩や後輩に挨拶をしつつ進んでいると、正面から見知った人物が。
金の髪に、ふんわりとした雰囲気を纏った彼女もまたこちらに気付くと、嬉しそうな表情を浮かべて駆け寄ってきてくれた。
「お帰り、レイカちゃん! 休暇はどうだった?」
マスターの執務室に進みながら、イデイアちゃん同様、ミタマちゃんにも休暇の報告をする。
彼女も新たな神族の復活に興味を示してくれたけど、お兄ちゃんたちのことや、アマロ村の様子に強く興味を示していた辺り、故郷や家族関連で割り切れない部分が残っているみたいだね。
「まあ……ね。ピスカ村の件で、レイカちゃんとイデイアちゃんに迷惑かけちゃったことは、ウチにとって苦い過去だから……」
ミタマちゃんの故郷、ピスカ村は漁師の村。
海鮮と言えばピスカ村と形容されるほどの村なんだけど、長期間不漁が続く艱難辛苦の時代があったの。
漁に出ても魚は取れず、荒れた海で命を落としてしまう者も出るほどで、次第に海へと向かう人は減り、他所からの支援なしでは暮らしていけないほどに、衰退しちゃったことがあるんだ。
そんな時期に私とイデイアちゃん、ミタマちゃんにお兄ちゃんも一緒に訪れたんだけど、私とイデイアちゃんが化け物と勘違いされちゃったの。
当時のヒューマンには異種族に対する知識がなかったし、心身が荒み切った状態で見たこともない種族が現れれば、動転するのは必然。
捕らえられて、攻撃されかけちゃったけど、お兄ちゃんとミタマちゃんが思いっきり怒ってくれたこと、嬉しかったな。
大海嘯事変が終結し、大陸間の交流が進展しだしてから、ピスカ村の住人達が自主的に謝罪に来てくれたし、もう気にしてないって言ってあるんだけどね。
「いつまでも、気にし続けている意味はないって、ウチも分かってるんだけどさぁ……。中々割り切れないんだよねぇ……」
「アハハ……。まあ、忘れらない、気にし続けちゃうことはどうしてもあるわけだし、それはそれとして置いておいて、楽しいことや興味を引くことに目を向ければ良いんじゃない?」
お兄ちゃんも、お姉ちゃんも、ウェルテお師匠も、そうやって過去を乗り越え、現在を生きている。
決して過去を捨て去ってはおらず、辛くて悲しい思い出と、楽しい思い出を抱えながら、振り返った時に生きていて良かったと思える生涯にするために。
私も、そうやって生きて行きたいと思っているんだ。
「なるほどねぇ……。じゃあ、二つの大陸調査を直近の楽しみに設定させてもらいますか! ウチは他に用があるから、マスターへの報告、しっかりね!」
「うん! また後でね!」
ミタマちゃんとも別れ、再び一人で歩きだす。
廊下を歩き、階段を登り、瞳にマスターの執務室が映り込む。
扉を叩き、入室の許可を受けると同時に扉を押し開け、マスタールペスと対面する。
彼は書類を作る手を止め、私に笑みを浮かべてくれた。
「お帰り、白角ちゃん。その様子だと、休暇は満喫できたみたいだね」
「ええ、ナナさんと魔法のお勉強をしたり、ソラさんと組み手をしたり、ウェルテさんとお買い物に行ったり! グーラ地底大陸に赴き、最後の神族の開放にも協力してきました!」
三度の報告を、マスターにも行う。
彼の興味の範囲は、地底と神族に関わる部分が大きかったけれど、お師匠関連の話題になるとそれがさらに強まっていた様子。
お兄ちゃんが言っていた通り、いまも彼女のことが好きみたいだね。
「愛した女のことが気にならないなんてことは、あり得ないからね。ま、アイツにはアイツの人生があるし、いましばらくは静観するつもりさ。マスターの職務もあるからね」
「想いを伝えれば、受け入れてくれると思うんですけどね~。マスターについての話題を出すと、お師匠も興味を抱いてくれますから」
助言に対し、マスターは大きく笑うという形で返事をする。
お兄ちゃんの話によると、彼は意外と奥手なんだって。
二人の関係が進展するのは、とってもゆっくりなんだろうなぁ。
「よし、そろそろ銀狼ちゃんが君の帰還を周知し終えている頃だろう。レヴィア様との会談をするための会議を始めるとしようか」
「はい! 分かりました!」
会話の場所を会議室へと移動し、魔法剣士の主だった方たちに地底での出来事を報告する。
会議が終わり、自室で休憩をしている間に日は沈み、レヴィア様との会談の時間となるのだった。




