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救星の英雄たち 壊星の陰陽竜  作者: 一木空
第三章 地底からの呼び声
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眠りのディア

「結晶周辺に異常は——ねぇみたいだな。内側にディアの姿もぼんやり見えるし、ある程度の復活はできているとみてよさそうだ。これなら、スターシーカー内の魔力を膨大に消費する必要はなさそうだな」

 地下を進んでいた私たちの前に現れた、美しく輝く結晶。


 それの様子を調べていたアヴァ様は満足げに大きくうなずくと、私の傍らにいるラクリマちゃんに視線を向けた。


「うん、任せて。ね、レイカちゃんも一緒にやろうよ。おじいちゃんとおばあちゃんを開放した時みたいに……」

「うん、いいよ! 一緒にやろう!」

 ラクリマちゃんと共に、結晶の元へと向かう。


 私は彼女と違って時間操作をすることはできないけど、そばにいることくらいはできる。

 お互い得意不得意はあるけど、得意なら率先して行い、不得意ならそばにいて応援するだけでも心強くなるもんね。


「スターシーカー、私たちの願いを叶えて!」

 ラクリマちゃんはスターシーカーを引き抜き、その切っ先を結晶に向けながら魔法を発動する。


 剣の内に眠る魔力が解放され、それを糧に結晶の時が未来へと急激に進んでいく。

 ついにスターシーカーは正しき瞬間を見つけたらしく、結晶の表面に大きなヒビが入る。


「来た、来た! ラクリマちゃん、離れよう!」

「うん! みんなも注意してて!」

 結晶から顔を背け、距離を取ると同時にそれは音を立てて崩れ去る。


 視線を戻すと、結晶があった場所に座る一人の少年の姿が。

 背丈から察するに、私よりも歳は下なのかな。


 それにしてもあの子、一体どうしたんだろう。

 動き出す様子も、こちらに声をかけてくる様子もないけど。


 ラクリマちゃんへと視線を動かすと、彼女もまた不安そうに私のことを見つめる。

 お互い無言のまま、どうしようかと悩んでいると。


「すぅ……。すぅ……」

「え? あ、あれ? もしかしてだけど、眠ってる……?」

 かすかながら、穏やかな寝息のようなものが聞こえる。


 いくら眠るのが好きだからと言って、封印から解放された直後でも眠っていられるのはどうなんだろう。


「ディア? おーい、ディア! まいったな、完全に眠ってやがる……。コイツ、一回寝ると何やっても起きねぇんだよな……。いまの時間なら起きてるだろうと思ってたんだが……」

「封印をされている間で、少しずつずれが出てしまったのかもしれませんね。帰りはグーラ料亭まで圧縮移動を行いますので、申し訳ありませんが、彼をおぶっていただけないでしょうか?」

 お兄ちゃんがグーラ様のお願いにうなずくと、座りながら眠り続けるディア様に歩み寄り、彼をその背に担ぐ。


 わずかと言えど振動なり衝撃なりがあったはずなのに、ディア様が目を覚ます気配は微塵もなく、圧縮移動を終えてグーラ料亭内に入っても、規則正しい呼吸音が止まることはなかった。



「ん……。んぅ……? あれぇ……? いつの間にか、封印から解けてる……?」

「あ、やっと起きた! みんな! ディア様が目覚めたよ!」

 眠り続けていたディア様が、瞼をこすりながら体を起こす。


 彼の様子を見守っていた私は、別室にいるみんなを呼び寄せる。

 最初に部屋に入ってきたのはアヴァ様、彼はとても嬉しそうな笑みを見せながら、ディア様に声をかけた。


「ディア! やっと目覚めたか! 気分はどうだ? 調子が悪いところはないか?」

「あ……。アヴァじぃだ……おはよぉ……。僕ぁ大丈夫——ふああぁ……。う~ん、目が覚めたばっかりとはいえ、めちゃくちゃ眠いや……」

「ふふ、規則正しいあなたには珍しく、かなりのお寝坊さんですよ。いまの地底大陸は、夜の時間です」

 続けて入ってきたグーラ様の言葉に、ディア様は大きく驚く。


 そっか、本来ならとっくに眠りに就いている時間なんだね。

 ある意味で言えば、昼夜逆転状態なのかな。


「体内時計を戻しておかないと……。まさか僕が夜中に目覚める——おっと、そんなことよりも情報のすり合わせをしておかないとだよね。二人の後ろにいる人たちは、もしかして現代の?」

「ああ、俺たちの協力者だ。情報のすり合わせもしてぇところだが、まずは顔を洗ってきな。神族ともあろう者が、寝ぼけたままじゃ恰好が付かねぇだろ?」

 ディア様は布団から起き上がり、大きくあくびをしながら部屋の外に出ていく。


 しばらくして戻ってきた彼の表情に眠気は残っていなかったものの、銀の髪に大きな寝癖が付きっぱなしになっていた。


「寝癖のまんまの神族もどこにいるんだよ……」

「こういう髪型だと思えば良くない? 目覚める毎に新しい髪形を楽しめるんだよ? さて、そんな話は置いといて——初めまして、僕ぁディア。理解はしていると思うけど、眠りを見守る役目を任された神族だよ」

 アヴァ様の呆れ声を聞き流しつつ、ディア様は自己紹介を始める。


 私たちも自己紹介をして、知ってもらわないとね。


「ソラさんにナナさん、ウェルテさんにレイカさんかぁ。改めまして、封印からの開放を手伝ってくれてありがとう。また、お布団に入って眠れるなんて嬉しいよ」

「あ、あくまで眠りが優先なのですね……。もちろん、毛布にくるまって瞼を閉じるのは気持ちが良いものですが……」

 さすがのお師匠も、ディア様のマイペースな性格には手を焼いている様子。


 過去の時代に生きて、私たちよりも立場が上の人物だと思うとどうしてもね。


「神族として活動をしているけれど、僕ぁみんなより年下だよ。気にしないでおしゃべりしてほしいけどなぁ。それはそうと、ハートちゃんの姿が変わってるのはびっくりしちゃったよ。白から黒になったんだね」

「うん、色々あって……ね。ディア君の作戦を受け入れなかったせいで、世界も大きく傷ついちゃった……」

 落ち込むラクリマちゃんの言葉を聞き、小さく驚く。


 かつて天災が世界を襲った際、神族の方々はスターシーカー――英雄の剣に魔力と生命力を譲渡し、眠りに就いた。

 彼らから譲り受けた魔力を利用して、ラクリマちゃんが天災を振り払おうとしたと聞いていたけど、その作戦を考えたのがディア様だったんだ。


「作戦を立てるどころか、英雄の剣に魔力吸収能力を組み込んだのもこの僕だよ。魔法族ならではの力を駆使して、剣を作ったってわけ。いまの英雄の剣は——ふふ、だいぶ変わったみたいだね」

「長い年月が経過したがために痛みもありましたし、色々と改造させていただきました。勝手なことをしてしまい、申し訳ありません」

 頭を下げて謝罪をするお兄ちゃんに対し、ディア様は明るく笑って気にしていないと発し、新生した英雄の剣を見せてほしいと仰ってくれた。


 現所有者であるラクリマちゃんが鞘ごとスターシーカーを外し、彼に手渡す。


「なるほど、射出機能を剣に組み込んだんだね。ふふ、僕たちが天災に立ち向かった時は、外部機器を取り付ける必要があったけど……。なるほどなるほど、すごくいいと思うよ」

 鞘から剣を抜き取ったディア様は、それを少し見るだけで強化された部分を看破する。


 そういえば英雄の剣の時は吸収能力が主だったけど、どうして魔力を使った攻撃的な機能はつけなかったんだろう。

 外部機器を取り付ける必要があったとか言っていたから、結局は必要だったってことだと思うんだけど。


「端的に言えば、小型化して取り付けられなかったから、だね。時間がなかったとはいえ、中途半端な物を作るなんて神族としてお恥ずかしい話だし、そのせいで多くの存在に苦労を掛けたことを思うと申し訳ない限りだよ」

「だからお前たちが英雄の剣を改造し、スターシーカーとして新生させたのはすげぇ嬉しいことだったんだぜ。ヒュドラだっけか? 魔力の過剰放出は褒められたもんじゃないが、アイツを倒した時の光景をソラの内で見られたのは最高だったな!」

「アハハハ……。まあ、いまはそんな無駄なことはしませんし、剣の所有権もレイカとラクリマに譲っていますからね。あの時の光景が次に見られるとしたら、天災を乗り越える時でしょう」

 私とラクリマちゃんに皆からの視線が集まる。


 こうして期待されるのは重荷ではあるし、天災に立ち向かうのだってもちろん怖い。

 けれど私は、それを乗り越えた先の世界を見たいし知りたい。


 立ち向かうべきが強大な存在だとしても、止まってなんかいられないよね。


「それはそうと、これで神族の皆さんが全員復帰したわけですし、天災に立ち向かう準備をより一層加速しないとですよね。何か、私たちからできることってありますか?」

「う~ん、そうだなぁ……。観測をして、天災の正確な到達時刻と位置を確認したいところだけど……。それはもう始めてるんでしょ?」

「ああ、ヴィスの奴が毎日空とにらめっこしてるよ。ある程度予想も立てられたみたいだし、開発を始めておくか?」

 アヴァ様の発言に、首をかしげる。


 スターシーカー以外にも、天災に抗するための道具を作るってことだとは思うけど。


「準備は万全にするに越したことはねぇだろ? 天災到来まで日がある以上、その間にトラブルが発生しないとも限らないからな。手段は一つだけじゃなくて、二手、三手と用意しておくってわけだ」

「もちろん、皆さんを、スターシーカーを信じていないというわけではありませんよ。後ろに控えがあった方が、心落ち着けて立ち向かえるはずですからね。ある意味で言えば、皆さんの心を守るための準備というわけです」

 いざ天災へ立ち向かおうにも、一度しかチャンスが無いと思うと怖くて仕方がない。


 二手、三手と有れば心を落ち着けて立ち向かえるし、より効率的に力を発揮できるはず。

 天災が到達するよりも前に、それに準ずる何かが起きてスターシーカーの力を使っちゃう可能性だってある。


 手段を複数用意しておいて、悪いことはないよね。


「あ~……。あくまで可能性でしかないんだけど、何かしらの問題は起きちゃうかもなぁ……」

「おいおい、これからだって時に穏やかじゃねぇな。封印中に、魔法族に関わる何を見たんだ?」

 ディア様はバツが悪そうな表情を浮かべ、頬をかく。


 神族の皆さんは、封印されている間も意識だけを他者の内へと送り込み、情報を得ていたんだって。

 お兄ちゃんの内にもアヴァ様が入り込んで、色々なことを教えてくれたんだよ。


 ディア様もそれをしていたということは、ルビア大陸の情報を得られるかもってことだよね。


「むしろ逆で、見られなくなっちゃったんだよ。僕が選んだ人物の内に入るどころか、ルビア大陸に近づくことすらできなくなっちゃったんだ。かれこれ――六年は経つかな」

「六年もの間、大陸にすら近づけねぇって……。そいつはまた妙な話だな……。ったく、接続は同じ種族の奴にしかできないってのが厄介だぜ……」

 腕を組み、うなりながら悩みだすアヴァ様とディア様。


 接続という行為にどのような縛りがあるのかは理解しきれていないけど、急にできなくなるのは不吉の前触れと取ってもおかしくないよね。

 それにしても六年というと――イデイアちゃんが、アヴァル大陸に流れ着いた時期と重なるかな?


「ルビア大陸内で何かが起きているかもしれないと。この辺りの情報は、大陸間協議会にも持ち込んだ方が良いだろう」

「だね。彼の大陸を包む魔力も減少してきているみたいだし、近いうちに調査しに向かおうと思っていたけど……。慎重に、かつ万全の準備をしてから……か。ナナの方も共有しておいてね」

「魔法という能力そのものを名に抱く種族が暮らす大陸だもんね……。魔導士たちを導く者として、可能な限りの準備をしておくよ」

 断片的な情報ながらも、お兄ちゃんとお姉ちゃん、お師匠も警戒をし始める。


 イデイアちゃんの故郷である以上、私たちもきちんと準備をしておいた方が良さそう。

 杞憂で終われば良いけれど、ルビア大陸側の事情が分からないことには——ね。


「なんにしても、今日明日に問題が起きるというわけではないでしょう。これから食事を作りますので、是非食べていってください。お腹が空いていては、何をするにも効率が落ちてしまいますから」

「……グーラばぁの言うことも最もだね。天災の備えをするにも、ルビア大陸との再接続をできるようにするためにも、しっかり食べて、しっかり眠らなきゃ」

「遊びなり趣味なりを楽しむことも忘れないでくれよ? 心が痛んでいたら、食事をすることも、休むことすらもままならなくなるんだからな。健全であろうとするなら、楽しむことは重要だぜ」

 神族の皆さんからの助言を受けた私たちは、グーラ地底大陸に一晩滞在することに。


 グーラ様が作る美味しい食事を堪能し、アヴァ様が発案した新しい遊びを楽しみ、ラクリマちゃんと共に鍛錬をし、ディア様の快眠法を活用しての睡眠を満喫した私たちは、再会の約束をした後に地上へと戻るのだった。

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