地底の旅
「すっごーい! おっきな森ー!」
目の前に広がる光景を見て、大喜びをするパナケアちゃん。
植物のモンスターである彼女にとって、自然豊かな森を見られること、その中を進むことは嬉しいこと。
私も森を歩くことは好きだし、そこに存在する植生を見て回るのは好きなんだけど。
「とてつもない森ですね……。建物を飲み込むようにして成長しているというか、もはや土壌にしているじゃないですか……」
最後の神族が眠っているという土地にやって来た私たちは、そこに存在する自然のたくましさを見て、あんぐりと口を開けていた。
樹々の高さや太さは、かつてスターシーカーが眠っていた森と同等以上かも。
それらの間に、人が住んでいたと思われる建物があるのも気になるかな。
建材の表面には緑色のつたや苔が生い茂り、草や木が壁を貫くようにして成長しているみたい。
かつて人が住んでいた建物たちは、木製ではなく石造り——いや、何かしらの素材を組み合わせて作られた建材のはず。
木や石、レンガよりも遥かに頑丈で、浸食を受けにくい素材をも成長の礎にしちゃうんだから驚きだよ。
「私たち人やモンスターだけでなく、植物も魔力の影響を受けているんだったな。以前まで、この大陸は膨大な魔力で覆われていた。常識外れな成長をも可能にしているというわけだ」
「植物はともかくとして、どうしてこの地に暮らすモンスターたちは狂暴化しないんだろう。地上だとそういった個体が暴れることが何度もあったけど、ここでは我を失って、大暴れするモンスターなんて見たことないよね?」
森から視線をそらし、通ってきた草原に瞳を向ける。
そこには穏やかに草を食むモンスターの群れや、木に成った果実を取ろうと群れで協力しているモンスターたちが。
全体的に体が大きいことを除けば、これといった異変をきたしている様子はない。
「許容量を超えることで異変をきたすってんなら、身体そのものを大きくして許容量を増やすのが一番だ。ここに住んでいる奴らは、そういう進化をしたってわけだな」
「一つの種族だけでなく、ここに暮らす全てが望んだ進化……。それならきっと、群れから追い出す、追い出されるなんてことはなかったんだろうね……」
脳裏に浮かぶは自身や仲間を守るはずの針が大きく伸び、守るどころか傷つけるようになってしまった、スパインドレイクの特殊な個体。
あの子が皆に認められる進化があったとしたら、どんなものだったんだろう。
そしてそれは、私たちが認められるものだったのかな。
「この森を進むとなると、スターシーカーを持ち、ある程度の戦闘能力を持つラクリマと言えど容易ではありませんね。把握はどの程度済んでいるのでしょうか?」
「残念ながら、ほとんど把握できていません。ですが、皆さんがルトちゃんやコバちゃん、パナケアちゃんを連れてきてくれたのは幸運かもしれませんよ」
さすがにこの森ほどの規模となると、神族やラクリマちゃんでも把握しきれないらしい。
モンスターたちを連れてきたことが幸運ということは、能力を駆使して森を進んでいこうってことだよね。
「パナケア、植物さんたちとお話できるー! 多分、案内もできるよー!」
「ワウワウ、ワオーン!」
パナケアちゃんは腰に両手を置いてふふんと鼻を鳴らし、コバは大きく一鳴きしてからルト同様に周囲の警戒を始めてくれた。
ある程度の道筋はパナケアちゃんが把握し、周囲への警戒はルトたちがしてくれるのなら、私たちは現れた危険と戦うだけ。
森をあてもなくさまよっていた可能性を考えれば、確かに幸運かも。
「よし、それじゃあパナケアたちの案内を頼りにしつつ、森を進みましょうか。私とウェルテ姉さんが前を歩きます。レイカとラクリマは最後尾を、アヴァ様とグーラ様はその間を進んでください。ナナもね?」
「うん、私たちのこと、ちゃーんと守ってね。この規模の森だと光が差し込みにくいはずだから、明かりを作っておくよ」
森を進むための隊列が決まっていく中、ナナお姉ちゃんが光源となる明かりを魔法で発生させる。
これだけ明るければ、真っ暗闇の洞窟でも問題なく進んでいけそう。
未踏の領域に踏み込むんだから、戦いの覚悟もしっかりしておかないとね。
「一緒に皆を守ろうね! ラクリマちゃん!」
「う、うん! よろしくね、レイカちゃん」
森の中へと進み始めたみんなの後を追うように、私とラクリマちゃんも歩き出す。
樹々の間へと足を踏み入れた瞬間、鳥肌が立つ。
森の外に比べると湿気がかなりあるうえに、気温が低いみたい。
生い茂った葉の影響で光がほとんど入らないから、空気が温まらないし、湿度も下がっていかないみたいだね。
植物たちもどことなく不気味なことも併せて、ちょっと怖いかも。
「ラクリマちゃんは何ともない? 怖いとか、気分が悪いとか」
「だ、大丈夫——ってわけじゃないかな……。何か怖いものとか出てきそうだよね……」
ラクリマちゃんも、この森の不気味さに委縮してしまっている様子。
こういう時に、一番勇気をもらえるのは——
「ひゃ!? ど、どうしたの? レイカちゃん……。いきなり手をつかんできて……」
「こうして手を握っていれば、怖いのも収まるかなって思って。ラクリマちゃんの手、暖かいんだね!」
ラクリマちゃんの手を握ったことで鳥肌が収まっていく。
勇気を得るには、隣に志を同じくする人がいると認識するのが一番!
二人、三人、仲間がたくさんいた方が心強いもんね!
「勇気……。やっぱり、私が天災を退けられなかったのは、一人でやり遂げようとしちゃったからなんだね……。ね、レイカちゃん。例え私が英雄になれなかったとしても、君と一緒に天災と戦ってもいいかな?」
「もちろん! でもせっかくなら、ラクリマちゃんも英雄でいてほしいな。一人の英雄よりも、二人の英雄の方が心強いし!」
ラクリマちゃんはコクリとうなずくと、私の手をより強く握ってくれた。
いまだ英雄として認められていない未熟な私たちだけど、こうして手を握り合うだけで心強くなれる。
天災を退けようとしているのに、こんな森でおびえてなんかいられないよね!
「ウ~! ワウ! ワウ!」
「ルトが……! パナケア、アヴァ様とグーラ様の所に移動しておいて」
「うん! 分かった!」
ラクリマちゃんと交流をしていると、突如として前方が騒がしくなる。
すぐさま前に移動してお兄ちゃんたちに協力したい気持ちもあるけど、彼とお師匠が戦うのなら心配はいらないかな。
むしろ二人が不安なく戦えるように、それ以外の方向に警戒しておかないと!
「ラクリマちゃんは反対側の様子を見ておいて! 私はこっちを見ておくから!」
「うん、任せて。ふふ、強い人たちがいっぱいいると心強いなぁ」
私たちが周囲の警戒を始めると同時に、お兄ちゃんたちがいる地点から戦いの音が響きだす。
予想通り、その音はあっという間に静かになり、私たちを包む緊張感も落ち着いた。
「レイカ、ラクリマ。周囲の警戒をしてくれてありがとう。おかげで戦いに集中できたよ」
「ううん、気にしないで! 私たちがしっかりと後ろを守ってるから、お兄ちゃんたちは前だけ見てて!」
自身の胸をトンと叩き、後ろは任せて欲しいとアピールする。
英雄は前に出て戦う者かもしれないけれど、前を進もうとしている存在の背を守ることも大切なこと。
英雄になる以前に私は魔法剣士だし、私としても魔法剣士の在り方を大切にしたい。
前に進もうとする人の背を時に優しく押し、時に守る。
お兄ちゃんが私にそうしてくれたように、私もできるようにならないとね。
「こうも成長を遂げられると、先行く者として腑抜けた真似などしていられないな。パナケア、再び案内を頼むぞ」
「りょーかーい!」
お互いの労いを終えた後、私たちは行軍を再開する。
根を越え、生い茂った茂みを斬り開き、現れた敵対モンスターを倒し、情報と素材の回収をしながら歩き続け、ついに目的地へとたどり着く。
樹々の間に現れたのは、これまでに見たことが無い造りの建物だった。




