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救星の英雄たち 壊星の陰陽竜  作者: 一木空
第三章 地底からの呼び声
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地底での休息

「おじいちゃん……。まさかとは思うけど、みんなのお家からここまで一息に瞬間移動してきたんじゃ……? 長距離の圧縮移動は慣れていないと体調を崩しちゃうから、何度かに分けてあげてねって言ったのに……」

 アヴァ様のことをおじいちゃんと呼ぶ、翼のようにも見える飾りがついた着物を纏う、黒髪の少女。


 彼女の名前はラクリマ。見た目はヒューマンの女の子だけど、光の聖獣バハムート様の内に存在していた、もう一つの人格。

 バハムート様の対となる存在であると同時に、かつて英雄であった時の心そのものだから、本来の姿というのが正しいかも。


 色々と過ちを犯しちゃったこともあるけど、いまは私と同じように、いずれ来る天災を乗り越えるために鍛錬と準備をしているんだよ。


「い、いやぁ……。レイカが圧縮移動を扱えるから、ある程度慣れていると思って……。いや、言い訳は良くねぇやな。すまないな、みんな。無理させちまった」

「い、いえ……。お気になさら——うう……。気持ち悪い……」

 直後に比べればマシではあるけど、いまだ視界はゆがみ、吐き気が襲ってくる。


 圧縮移動は素早い移動には向くけど、道中に存在する景色が見られないから、非常時以外ではあんまり使ってこなかったんだよね。

 でも、こういう苦しみがあるんだったら、慣らしておくべきだったかも。


「皆さん。夫の考えなしの行動に巻き込んでしまって、申し訳ありません。パナケアちゃんの葉っぱを少々いただいて、瞬時に回復できる食事をお持ちしましたよ」

 休んでいるところにやって来たのは、私と同じく頭部に白い髪と白い角を抱くおばあさん。


 彼女の名前はグーラ。

 アヴァ様と同じ神族であると同時に、私と同じホワイトドラゴン。


 夫と言っていたように彼女はアヴァ様の奥様で、かつての時代では、多くの人に食事を振舞ってきた料理人だったんだって。


「さすがに固形物を食べるのは苦しいと思いますので、スープにさせていただきました。さあ、お召し上がりください」

 畳に寝ころぶ私たちそれぞれの前に、小さな器に注がれたスープが置かれていく。


 飲み物と言えど、さすがに飲めなさそうと思っていたのもつかの間、吐き気とめまいが収まっていく。

 驚くと同時にお腹から鈍い音が響き、食欲までもが増してきた。


「マンドラゴラの葉っぱが持つ強力な滋養強壮能力を、香りという形で体内に取り込みやすくなるよう、調理させていただきました。香りも食事の内と言いますからね」

「お薬として生成する方法は知っていましたが、料理の素材として使う方法もあるなんて……。まだまだ知らないことが、いっぱいありそうですね……」

 寝ころんでいた畳から起き上がり、スープが入った器を手に取って香りを楽しむ。


 葉を用いて調理しているはずなのに、青臭さが全くない。

 ほのかに感じる刺激的な香りに我慢できなくなった私は、食事の挨拶をしてから器に口を付けた。


「んく……。んく……。美味しい……。ちょっと辛みがあるけど、むしろそれのおかげで元気になっていくというか……」

「ふふ、お口に合ってよかった。さあ、スラランちゃんたち向けの料理も作ってあるから、ゆっくりと食べてね」

 同じように体調を崩していたスラランたちも、料理の香りを嗅ぐと同時に元気を取り戻し、いまでは物欲しそうにグーラ様のことを見つめている。


 私もスープを飲み干したばかりなのに、すっかりお腹が空いてきちゃった。


「ふふ、すっかり元気になられたみたいで安心しました。ハート、皆さんのことは私たちに任せて、準備をしてきてくれる?」

「はーい。実はみんなのために、おばあちゃんと一緒にご飯を用意していたの。別の部屋に用意をしているところだから、もうちょっと待っててね」

 皆の体調が回復していくのを確認したラクリマちゃんは、別の部屋へと続く廊下を駆けていく。


 昔の姿を思うと、明るくなったなぁ。

 神族の皆さんを復活させられたことで、自信が持てるようになってきたのかな。


 ちなみにハートというのは、神族の皆さんがラクリマちゃんを呼ぶ時の愛称だよ。


「最初の頃は俺たちにも負い目を感じているようだったが、他の奴らの復活を続けているうちにそれはなくなった。後は天災を乗り越えるための勇気を持てるかどうかだな」

 ラクリマちゃんが消えていった廊下を見つめながら、アヴァ様がそばへと近寄ってきた。


 彼の表情は嬉しそうに見えるけれど、どことなく不安そうにも見えるかも。


「天災を乗り越える勇気……。彼女はかつての天災を破壊しきれず、地上を傷つける結果に終わってしまったんですよね……」

「ああ、できるはずのことができず、世界に大きな影響を与えちまったとなれば、その心の痛みは計り知れねぇ。だからこそ、過去を取り戻そうとしちまったわけだからな」

 お兄ちゃんやお姉ちゃんが何年も苦しんだように、ラクリマちゃんにもその痛みは残っているはず。


 私たちにできそうなことはないのかな。


「信頼できる人が、守りたいと思える人がいれば、その痛みを抑えることが可能です。アヴァ様が私たちをここに呼んだ理由の一つに、ラクリマにそんな人を得て欲しいから、と言った思いも?」

 少し離れた場所でスープを味わっていたお師匠が、アヴァ様に質問をする。


 彼女も心の傷にずっと悩まされていたけれど、その痛みに屈することなく戦い続けられたのは、お兄ちゃんのことを守りたかったから。

 お兄ちゃんの命を消したくないから、傷ついてほしくないから、大切な人のために戦い続けてきたお師匠だからこその言葉だね。


「そう言うこった。いまのあの子に必要なのは、共に歩む仲間だ。もちろん俺たちも共に歩むつもりだが、頼りきりになっちまうのは良くねぇ。現代を生きる存在に、俺たちがなったとはいえ……な」

「全てを神族の皆さんに頼ってしまえば、過去から微塵も進歩していないということになっちゃいますからね。英雄の剣をスターシーカーに改造した時のように、私たちの形を見つけながら天災に立ち向かわないと!」

 改めて意思を固めると同時に、この場所に肝心の武器を預けていることを思い出す。


 せっかくここに来たんだし、スターシーカーの手触りを確かめておきたいな。

 使い慣れていない状態で振るって、すっぽ抜けちゃったら大変だし。


「ハートが管理をしているから、頼んで使わせてもらいな。ソラも触っておけよ?」

「確かに、常に彼女たちが扱える状態にあるとは限りませんしね……。分かりました、ここにいる間にある程度思い出せるようにしておきます」

 スターシーカーは、元々はお兄ちゃんが主に握っていた剣。


 私と同じ英雄候補であるラクリマちゃんに、優先して使わせるために手放しちゃったけど、多くの困難を共に越えた相棒のようなものだから、思うところはあるみたい。

 もう一本か二本あれば、気にせずに使えそうなんだけど。


「英雄の剣を複数——か。作れるには作れるが、天災の破壊に必要な魔力貯蔵量にはどうやっても届かねぇから、普段使いにとどまっちまうだろうな。ただ、そうするには色々と強力すぎる面があるから、性能は抑えめになるぜ?」

「作るどころか、性能の調整もできるんだ……。魔力の吸収力とかが落ちたとしても、あった方がずっと便利だよね?」

「いざって時には、魔力の補給路としても使えるわけだからね。差し支えなければお願いしてもよろしいでしょうか?」

 お兄ちゃんからの要求に、アヴァ様は笑みを浮かべながらうなずく。


 この様子だと、英雄の剣を作るのに大きな労力が必要なさそうに思えるんだけど、どうして過去の天災の時に複数用意しなかったんだろう。

 やっぱり、魔力の吸収に理由があるのかな。


「英雄の剣が力を発揮するには、大量の魔力を集める必要があるからな。天災がやってくる日が決まっている以上、複数を同時に成長させるなんて土台無理だ。なら、一つに可能な限りの魔力を詰め込んでやる! ってなるのは当然だろ?」

 世界を陰から見守ってきた神族でも、天災が相手では必要となる準備の把握ができなかったのかもしれない。


 でも今度は英雄候補が二人いるし、失敗したとはいえ天災に立ち向かった経験がある。

 天災を完全に乗り越えて、世界が同じ災いに二度と悩まされずに済むようにしないと!


「ああ、期待してるぜ。さあ、そろそろ飯の準備も整っただろうし、ハートの所に行くか! これから人一人を救出に行くんだ。しっかり食って、力をつけてけよ?」

 アヴァ様とグーラ様に連れられて向かった先には、数多くの美味しそうな料理が並べられていた。


 過去の世界に存在していたという料理に、現代でも食べられる料理。

 近況報告を交えた食事を楽しんだ後、最後の神族が眠る地へと向かうのだった。

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