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本日の予定

「ふあぁあ~……。おはよぉ……。みんなぁ……」

 翌朝。これといった身支度もせず、寝ぼけた状態のままリビングへと入る。


 そこには朝食の準備をするソラお兄ちゃんに、ストレッチをするお師匠、そして席に座って情報誌を読むナナお姉ちゃんの姿が。

 あくびをしながらの挨拶に気付いた皆は、私に挨拶を返してくれた。


「もうすぐ朝食ができるそうだ。顔を洗って、眠気を覚ましてこい」

「はぁ~い……。やっぱり、ここにいるといつもよりだらけちゃうなぁ……」

 普段より進みが早い時計を一瞥し、洗面台へと向かう。


 顔を洗い、寝ぐせが付いた髪を直し、口をゆすいでもう一度リビングへ。

 先ほどまでは何もなかったテーブルの上には、カリカリに焼かれたベーコンに、一口サイズに切り揃えた卵焼き、そして握りたてのおにぎりが用意されていた。


 顔を洗っても落ち切らなかった眠気が、それらを見ただけで吹っ飛んでいく。


「美味しそ~! もう食べられるの?」

 お腹が音を鳴らしそうなのをこらえつつ、キッチンにいるお兄ちゃんに声をかける。


 包丁を使って、まだ何か調理をしているみたいだけど。


「後は盛り付けるだけさ。よし、できた。レイカ、取り皿を用意してくれるかい?」

 うなずきつつ、戸棚にしまい込まれた小皿を四人分取り出す。


 それらを皆が座る席の前に置いていくと同時に、最後の料理がテーブル中央に置かれる。

 みずみずしい新鮮な葉野菜と、赤い皮を持つ果実のような野菜を組み合わせたサラダは、卓上の彩をも整えていく。


「スラランたちの分を取り分けてっと……。それじゃあ食べよっか。いただきまーす」

「「いただきまーす!」」

「いただきます」

 食事の挨拶を交わした私たちは、テーブルに置かれた料理たちに手を伸ばしていく。


 私が最初に手に取ったのはおにぎり。

 塩だけで味を調えられているそれは、故郷で食べ続けてきた物と微塵も変わらず、自然と口角が緩む。


 アヴァル大陸では小麦粉を使ったパンやパスタが主食だから、あんまりお米は食べられないの。

 それどころか、少し前までこっちではお米が手に入ることはなかったから、こうして気軽に食べられることが嬉しくて、嬉しくて。


 まあそれでも、故郷で買ってくるよりどうしても値段が張るから、個人で手を出すにはちょっと辛いかな。


「海都でもまだあんまり普及はしていない感じかい?」

「ううん、一般のお店でも売られてるし、購入している人も見かけるよ。ただ、調理に慣れている人がいないからあんまり美味しくないんだよね……。もちろん、食べられるだけありがたいんだけどね」

「黎明期である以上、それは仕方ないな。いずれは味も良くなっていくだろうし、新たな料理も開発されるだろうさ。案外、変わった料理が名物になるかもしれないぞ」

 お米を使った新しい料理と言われてもピンとは来ない。


 炊き立てのご飯をそのまま食べたり、おにぎりにして食べたりする方が美味しい気がするんだけどなぁ。

 一緒に食べているベーコンや卵焼きみたいに、いろんなおかずに合う——


「あ、いろんなおかずに合うってことは、それを掛け合わせての調理ができるかもってことか。う~ん……でも……。お米とベーコン、卵焼きを合わせた料理ってなんだろう……」

「ハハハ。いまの君みたいに、調理人たちは頭を悩ませているだろうさ。世界中から様々な食材が一気に入り込んできて、いろんな人たちがそれらを味わいたいと思っているんだからね」

 大陸間の渡航ができるようになり、人だけでなく、あらゆる物や情報が行き交うようになった。


 それはとても喜ばしいことだけど、あまりにも大きな変化に対応しきれていないのもまた事実。

 大陸内だけであれば問題にならなかった事柄も、他大陸の事情を見据えずに行動した結果、大きな問題に発展しかけたという情報もあるくらいだから。


「情報誌にも、それっぽい話題があったね。ヒューマンとゴブリン間の、鉱物資源の取引問題とか……」

「ああ、その話はかなり尾が引いてるよ……。技術を教えてもらう代わりに資源を、っていう話で進んでたんだけど——」

「愚痴りたくなる気持ちは分かるが、そこまでにしておけ。せっかくの休みに政関連の話をしても面白くないだろう。それより、今日の予定を確認する方が有意義だ」

 お師匠によって強制的に会話が中断させられたので、卵焼きを口に入れながら今日の予定を思案することに。


 私は特に用事はないけど、確か——


「アマロ村の学校から、ナナあてに要請が来てるんだっけ?」

「うん、時間がある時に魔法の教師をしてほしいって前々から言われててね。今回のお休みは余裕があるから、やってみようと思って」

 お姉ちゃんは、日々の業務に加えて各地から来る教鞭要請も受けている。


 せっかくのお休みなのに、普段と似たようなことをするわけだけど良いのかな?


「むしろ、たっくさん親切にしてくれた故郷の人たちからの要請だから、断りたくないの。恩返しにもなるし、次世代を育てることも私の役目だしね。それに、教えることで教わることもあるし」

「教えることで……。私はまだ、教わることばっかりだから良く分かんないなぁ」

 いまは分からないが、いつかは私も教える側になるのだろう。


 その時に私は、何を教えることになるのかな。

 魔法剣士になるための方法に鍛錬の仕方、調査や任務の進め方にモンスターの倒し方。


 英雄となって天災を払うことに成功すれば、それに至るまでの日々について教えを請われることもあるかも。


「そうだ、レイカちゃん。私の授業を受けてみない?」

「え? 嬉しい——けど、邪魔にならない?」

「邪魔なんてことはないよ。ある程度魔法の知識を持っている人がいた方が、他の子たちも刺激を受けられるからね。いつか教える側に回った時にも、今回の経験が役に立つかもよ?」

 強化以外の魔法は基本的に使わず、剣による攻撃を主体とするのが私の戦い方。


 魔法に関してはイデイアちゃんがこれ以上ないほどに理解しているので、わざわざ私が理解を深める必要はないんだけど。


「せっかく知識を深めるチャンスなのに、遠慮してたらもったいないよね! 授業、参加させてもらいます!」

「うん、歓迎するよ。授業の開始は二時間後。三十分前には到着しておきたいから、それまでに出かけられる準備をしておいてね」

 こくりとうなずきつつ、葉野菜に包んだベーコンを口に含む。


 朝食を終えた私たちは、片付けと洗濯、それぞれの日課を終わらせることに。

 あっという間に時計は出かける予定の時刻を指し示し、私とお姉ちゃんはアマロ村へ向かうのだった。

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