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休日は家族の元で

「着いた~。う~ん、相変わらずいい景色~」

 目的地に近づく前に歩んできた道へと振り返り、現在地である小高い丘から見える景色を堪能する。


 眼下前方には村があり、その手前左手側には湖が。

 どちらに続く道も青々とした草原が続いており、そのあちこちで青い色をした生物が跳ね回っている。


 いまいる場所はアマロ地方。私のもう一つの故郷であり、もう一つの家族が住まう場所。

 私の旅が真に始まった場所でもあるんだよ。


「異変は無し! さ、家に入ろっと!」

 周囲の様子を確認し終えた後、目的地である家へと近づいていく。


 私がこの家を初めて訪れたのは十二歳の時。

 ヒューマンに恐怖し、心身ともに疲弊していた私は、村から離れた場所にあるこの家の住民に宿泊の許可を求めた。


 玄関を開けて私たちを迎え入れてくれた人たちが、ソラお兄ちゃんとナナお姉ちゃん。

 血の繋がりはなく、同じ種族ですらないけれど、私の大切な家族なんだ。


「カギ、カギは……。あった、あった。ただいまー!」

 玄関のカギを開け、家に入りながら元気よく帰宅の挨拶をする。


 すると、最初に顔を見せてくれたのは——


「ワウ! ワウ!」

「ワオォーン!」

「ルト! コバ! ただいま! 元気にしてた~?」

 真っ白な毛に覆われた二匹のオオカミ系のモンスターは、私を認識すると同時に駆け寄ってくる。


 この二匹は、コボルトという種族に属するモンスター。

 モンスターだけど私たちの大切な家族で、同時にアマロ村にとっても重要な役目を担ってるの。


 私たちが別の街でお仕事をしている最中は、この子たちが村のパトロールをしてくれていて、危険なモンスターが村に近づかないように見守ってくれているんだよ。


「お帰り、レイカ。ふふ、ルトたちも大歓迎だね」

「あ、お兄ちゃん! ただいま! そして、久しぶり!」

 リビングへと続く廊下の曲がり角から、銀色に染まった髪を持つ男の人が顔を出す。


 彼が私のお兄ちゃん、ソラ。

 故郷を同じくする幼馴染であって、血の繋がりはないんだけど、幼い頃からの呼び名をいまも続けさせてもらっているの。


 いくつもの大陸を巡り、そこに住まう異種族たちと交流を持ったということで、大陸間の特別大使に選ばれたすごい人だよ。


「さあ、いつまでも玄関にいないで部屋に入っておいで。ナナがクッキーを焼いてくれているよ」

「ホント!? ルト、コバ、行こう!」

「「ワオーン!」」

 ルトとコバに体をすり寄せられながら、お兄ちゃんが消えた部屋へ向かう。


 お菓子を焼いた、香ばしい香りが奥から漂ってくる。

 お腹が鳴りそうなのを抑えながら部屋に入ると、とても優しい声が私の耳に入ってきた。


「お帰り、レイカちゃん。海都での暮らし、どうだった?」

 黒髪を肩の高さで切り揃えた女の人が、コップにジュースを注いでくれている。


 彼女が私のお姉ちゃん、ナナ。

 お兄ちゃんのお嫁さんだから、私にとってのお姉ちゃんってわけ。


 お嫁さんってだけじゃなくて、三年前に起きた戦いを解決に導いた人物として、大陸中に名が知られるようになったすごい魔導士さんだよ。


「とっても充実してるよ! この前なんて、イデイアちゃんとミタマちゃんの三人で訓練をしてたんだけど……。そうだ、お兄ちゃん。マスター・ルペスが——」

「ルペスか……。弟子が帰ってきたことに気付いて急いで風呂から上がったら、いきなり不愉快な名を聞くことになるとはな」

 廊下から聞こえてきた声に振り替えると、そこには黒い髪を肩より少し長いくらいに伸ばした女性が。


 彼女の名前はウェルテ。ソラお兄ちゃんの実のお姉さんで、私の魔法剣士のお師匠。

 お師匠と言っても、彼女はほとんどお兄ちゃんと一緒に行動しているから、こうしてみんなで集まる時くらいしか教えを乞えないんだけどね。


 彼女の戦闘能力は私が知っている中で比準するものは誰もおらず、知識も卓越したものがあるけど、女性っぽいことや恰好はあまりしたがらないの。

 美人ですっごいカッコイイ人だからもったいないとは思うんだけど、単身でモンスターと戦い続けたという過去があるから、あまり言うのも良くないかな。


「お久しぶりです、お師匠! この時間にお風呂に入っていたってことは、少し前まで鍛錬を?」

「ああ、そうだ。ソラの護衛を任させてもらっている以上、鍛錬を怠るわけにはいかないからな。それより、ルペスがどうしたんだ? 話を聞かせてくれ」

 お師匠は開いている席に腰を掛け、まだ湿っている髪を魔法で乾かし始めた。


 私は咳払いをしてから、機械人形を相手にした訓練の記憶を説明することに。

 良い機会にはなったけど、改めて思い出すと何とも言えない気分になっちゃうなぁ。


「ミタマさんを人質役にして……? 全力を出せるように場を整えてほしいとは伝えたけど、ちょっと過激だな……」

「慣れないマスターの仕事に追われ、アイツもアイツで四苦八苦しているんだろうさ。まあ、それはそれとして注意をしておくべきだろうな」

 私の想像とは異なる反応が、お兄ちゃんたちから返ってくる。


 つまり、ミタマちゃんを誘拐するという形の訓練は、二人が考えたってわけじゃないみたいだね。


「近いうちに彼と会談をする予定があるから、その時にでもわた——僕たちからも伝えさせてもらうよ。その件については任せておいて」

「さっすがお兄ちゃんとお師匠。マスターに対して大きく出れるなんてすごいよね~」

「それは褒めてるのか? 全く……。話を振っておいてなんだが、手洗いや荷物の片付けをしてこい。彼も間食に気づいて出てきたようだからな」

 テーブルの中央に置かれた、ミニチュアのお家。


 その中から、水色かつ半透明の体を持つ生物が出てきた。


「久しぶり、スララン! 元気にしてた?」

 私のことに気が付いたスライム——スラランは、嬉しそうにぴょこんと飛び跳ね、挨拶を返してくれる。


 この子もルトやコバと同じく私たちの家族。

 アマロ村が存在する地方に住む、全スライムたちを統括できるほどのすごいスライムでもあるんだよ。


「お菓子を食べたら遊ぼうね。じゃあ、片付けてくるよ!」

 リビングから出て、自分の部屋へと向かう。


 ドアノブを回して扉を開くと、出かけたあの日から全く変化のない部屋が。

 ベッドの上にカバンを置き、手帳や資料等を取り出して机の上へ。


 自宅で使う物だけを残し、他の物はカギ付きの収納棚の中へ収納すれば片付けはお終い。

 手を洗ったらみんなのところに戻ろっと。


 洗面台へと移動し、鏡を見つめながら手を洗う。

 だいぶ髪が伸びてきちゃった。そろそろ切った方が良いかな。


 前髪を指でいじくりまわしつつ、リビングへと戻る。

 おやつを食べる準備はとっくに整っていたらしく、お兄ちゃんとお姉ちゃん、お師匠は席に着き、モンスターたちも用意されたお菓子を前にそわそわとしていた。


「お待たせ! 先に食べててもよかったのに」

「それでも良かったけどね。でも、久しぶりに会えたんだし、一緒に食べ始めるのもいいかなって思ってさ。レンとテペスはいないけど……」

「問題なく集まれた時は、そうすれば良いだけだろう。今度は私も、菓子作りをやってみるかな」

 お師匠が作ったお菓子を想像しつつ、焼きたてのクッキーを口に入れる。


 サクサクとしつつも、ほどけるように溶けていく不思議な食感。

 ほんのりと鼻に上る、野菜の香りも併せてまさに絶品だね。


 魔法剣士として忙しく過ごす日々は楽しいけど、家族と過ごす穏やかな日々もとっても素敵。

 早く、レンたちも帰ってこないかなぁ。


「レン君から、どうしても手放したくないヤマが直近に来るから、今回は戻らないって内容の手紙が来てたよ」

「そうなんだ……。せっかくみんなで集まる機会なのに……。テペス君は?」

「彼も手を離せないってさ。お父さんとの修行が、大詰めみたいだよ」

 家族みんなが帰ってこれないことを知り、小さく落ち込む。


 忙しいのは分かるけど、せっかく集まる機会なのになぁ。


「レンももう十七。その辺りの歳の子は、やりたいことを見つけるとそれに向けてついつい猛進してしまうものさ。レイカも気持ちは分かるんじゃない?」

 お兄ちゃんからの質問に、申し訳なさそうにしながらうなずく。


 家族と一緒に過ごしたいという気持ちは本当。

 同時に、友達や仲間と離れてしまっていることに、寂しさを抱いているのも確か。


 休みに入る前は家族に会えることを楽しみにしていたけど、いまは魔法剣士のみんなと一緒にいられないことの方が寂しいかも。


「心許せる仲間と共に、目的に向けて努力をする。それを達成した時の喜びは、家族と共に過ごす平穏ではそうそう得られない。それを得るために子どもは親元を離れるようになり、大人になっていくわけだ」

 いつまでも子ども扱いしないでほしいと思うことはあるけど、大人になることに不安が無いわけじゃない。


 これまでは守られる側だったけれど、これからは誰かを守り、導く立場になると思うとどうしてもね。


「英雄を目指すことを考えたら、大人になることよりずっと難しいと思うけどなぁ。なんにしても、レイカなら問題ないと思うよ」

「そうだね。レイカちゃんは自身の立ち居振る舞いで起こりうる可能性を経験し、理解してる。悲しい記憶も中にはあるけど、それを最大限利用できれば立派な英雄にもなれるはずだよ」

 私の内に存在している、数々の記憶たち。


 こんな記憶、忘れたいと思うものもあるけれど、これらが無ければいまの私は存在しないと言っても過言じゃない。

 私自身の目的を再確認するためにも、これまでの記憶を回顧することにした。

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