表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/24

8. 罪と罰の狭間に囚われて(ロアside)


 いつから、こうしているのか。


 ロア――いや、かつてロアン・ヴェルディク・クローディアスと呼ばれていた俺は、うっすらと靄のかかった森の中を、ただ黙々と歩いていた。


 視界はぼやけている。霧が晴れない。空の色も木々のざわめきも、なにもかもが遠く、現実感を欠いている。


 足元に枯葉が舞い、どこかで誰かの笑い声が聞こえた気がした。


 振り返ると、そこにいたのはかつての仲間達だった。


 ――あの時と同じ装備、同じ笑顔。


 誰かが手を振った。もう一人が振り返って「先に行くぞ」と軽口を叩いた。

 あの時、誰が俺に手を振ったのか。誰が俺に軽口を叩いたのか。もう……思い出せない。


 その声達も風に溶け、すぐに何も聞こえなくなった。


(……また、か)


 ここに来てから、もう何度目になるか分からない光景。

 何度も何度も繰り返される、『あの瞬間の前』だけが、まるで罠のように再現される。


 踏み込んだのは自分だった。罠を見抜けなかったのも、自分だった。

 けれど生き延びたのも、また自分だけだった。


 『運が良かった』


 そう言えば、周囲は納得した。誰も俺を責めなかった。それどころか、慰めてさえくれた。


 自分でも、そうやって誤魔化してきた。


 ――けれど、本当は違う。


(あの時死ななかったのは奇跡なんかじゃない。ただ、自分以外の誰かが命を差し出した。彼らの運を俺が奪い、使い果たした。そんな気がしてならなかった)


 だからこそ、笑うしかなかった。だからこそ、「強さ」など持っていないふりをするしかなかった。

 あの時仲間を全て失った俺には、もう、誰のために剣を振るえばいいのか分からなかったから。


 風が吹き抜ける。霧がわずかに揺れ、影のような誰かが通り過ぎる。


 ――まただ。また、あの頃の顔が現れる。


 これが罰ならば、甘んじて受けよう。俺だけが生き延びて、彼らを失ったことに対する罰。


 俺はそう思っていた。

 

 けれど、そんな俺の歩む記憶の森に――誰かが足を踏み入れようとしていた。

 霧の向こう、微かな光と気配を連れて。


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ