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0006 歓声

 その部屋にはジェフさん以外に5名の人達が座っていた。

「こんにちは私はニコルです。」この人は随分と大柄な男性だ。

「僕はマックと言います。」眼鏡を掛けたこの男性は神経質そう。

「私はカレンよ。こんにちは坊や。」少し恰幅のいい女性は笑みを浮かべていた。

「僕はコウジ・タケダです!よろしく!」唯一の日本人。

「俺はライドだ。よろしく。」随分と痩せ細った人だ。


「僕を入れてこの6名がこの会社のオリジナルメンバーだよ。元々は小さなインディーズのゲーム会社だったんだ。」

 ジェフさんがそう語ってくれた。


「それでだね、金田君にもこのメンバーに入って貰いたいと思うんだ。」

「え?」

「僕たちはゲームクリエイターだけど、もう年だから頭が硬いんだよね。そこで、年齢の若い金田君を招き入れたい。そういう事なんだよ。」


 この人達は何を言っているのか?そもそも俺はゲームなんかやったこともないし、その上ゲームを作る事なんて・・・。出来るはずがない。


 その気持ちを察してか、ジェフさんが続けて言った。

「金田君が不安になる気持ちは分かるよ。何せ初めての業界なんだからね。だから当分の間はアイデアを出してくれるだけでいいよ。その都度、どうやって作って行くのか教えてあげるからね。」


 とはいうものの・・・。何を言えばいいのやら。

 確かに面接のときは思うがままに言ったけど、それは落ちる前提でいった事。現実的ではない。皆が楽しめるような事を考えなければと思ってしまう。


「ところで金田君はゲコクジョウをしたいんだよね?」

「はい。僕たちが人間だった頃、アンドロイドにひどい仕打ちを受けました。だからそんな奴らを見返したいのです。」

「どうやって?」


 どうやって。どうすればいいのか・・・。見返すにも何を武器にすればいいのか見当もつかない。ここは思ったことを言うしかないのだけど・・・。

 そう考えていると、面接の前に立ち寄ったクレープ屋の事を思い出した。


「まずは農業をしたいと思います。」

 会議室内が疑問を持ったようにざわついた。


「なんで農業なんだい?」

「この世界の食べ物は味はしますけど、歯ごたえがないのです。だから『食べた』と感じないのです。それを感じさせるために農園を作って歯ごたえのある食べ物を提供したい。それで金儲けをして、次の段階に移りたいです。」


 更に会議室内がざわついた。


「エクセレント!確かにこの仮想空間の食べ物は味はするけど、歯ごたえがないね!農作物を作ってそれを調理してそれを客に提供する事で皆が満足感を得る。僕達には考えられなかった事だよ!早速、農園を作ることにしよう!」


 え?本当にそんなことでいいの?じゃあ、もう少し突っ込んだ所を言ってみるか?


「それで、農作物の販売も任せて頂きたいのです。そうすれば、僕の利益になります。そのお金で次の段階に移りたいです。」

「なるほど。要は農作物の卸業者も請け負いたいという事だね。それは分かるけど、大きくなったらどうするんだい?」

「僕のような、差別を受けている人達を正規に雇用してその人たちで賄いたいと思います。」


 そうなのだ。農業と畜産業、漁業を独占してしまえば、大人達がつけ入る隙がなくなる。どうしてもやりたいと言う大人に関しては権利を貸し付けると言う形を取ればいいのだ。


「早速、人材集めをしようじゃないか!他にはないのかい?」

「出来れば畜産業と漁業も独占したいです。」

「ん~、独占か。それは現実的ではないね。他の人達も同じことをしたいだろ?儲かるんだから。」

「なら、権利を貸し付けるという事でどうでしょうか。僕たちが管理します。」

「組合だね?それなら可能かな?一考することにしよう。」


 オフトの面々はこれらの知識と経験がある。だから有利な立場だと金田は考えたのだ。

 ただ、懸念材料がない訳ではない。現在、JIPANGの住民は本当に不満を持っているのかが気がかりでない。これをどうやって払拭するかが問題になる。


「あの。一つ問題が・・。」

「なんだい?」

「これを実際にやるとしても本当に受けいられるのかが心配なのですけど。」

「それなら問題はないよ。次期アップデートはこんな状態になるとアナウンスをして、食品を作るには材料が必要とプログラムを作ってしまえばいいだけだからね。」


 金田にはもう一つ懸念材料があった。いくら農作物を作ったからと言っても、所詮はデータなのだ。本当に食感を作ることが出来るのか?そんなことを考えてしまう。


「あの、農作物などを作っても、食感や手触りや硬さとかはどうやって作るのですか?」

「それが僕たちの腕の見せどころだよ。僕たちはクリエイターだよ?勿論、君もね。」


 ジェフさんはウィンクをして答えてくれると同時に他の人達と話している。皆がヤル気になっているのか、どうも俺をほったらかしにされているようだ。


「種とか、動物はどうやって作るのですか?」

「ああ、それはプログラムとして残っているから大丈夫だよ。問題はいつアップデートを目標にする事なんだけどね。」


 メンバー内ではすぐにでもと言う声と、じっくりと研究をした上でとの意見が別れたのだが、半年後と言う所で収まったようだ。


「じゃあ早速、農園や牧場を作ることにしよう。あっ、海も作らないといけないね。」

「それ位ならすぐに出来るわよ。問題は漁業をする上で、何が獲れるのか考えないとね。」


 金田はポツリと「オフトの面々が集まれば色々な仕事をすることが出来るのに・・・。」


 その声に皆の顔が金田に向いた。


「そうだよ!プログラミングした後の事はオフトに任せるのはどうだろう?彼らなら経験を積んでいるし、しかも全員が若い。更にいい案が生まれるかも知れない。」

「でも、全員をこの会社で引き受けるのは無理があるよ。」

「なら、こうしようじゃないか。金田君に代表取締役をしてもらって、新しい会社を作るんだ。そうすれば、オフトの面々を雇い入れることが出来るだろう。」


 金田をほったらかしの状態にしてオリジナルメンバーだけで話がドンドンと進んでいく。 本当に大丈夫なのだろうか?

 金田は一抹の不安を抱かざるを得ない。何故なら、代表取締役なんてした事もないし、何から手を着ければいいのかすら解らない。


「あの、僕は社長なんてやった事ないですよ?商売に関しても猶更、やったことはないですし。」

「大丈夫!それらの知識もインストールするから。」


 また、あの長い時間を過ごさないといけないのか・・・。金田はがっくりと肩を落としてしまった。


「あの、実際に農業とかする人はどう探し出すのですか?」

「ああ、それは検索をすれば簡単にオフトの人達がどこにいるのか、何をやっているのか分かるから安心していいよ。」

「え!?」

「何でも、君は副総長をやってたんだろ?それなら大丈夫。最初だけだよ。緊張するのは。」


 この人達は、どこまでの権限を持っているのか?オフトを取り締まったのは世界政府だろ?そんなメンバー一人一人の事が分かるなんて不思議ではあるが、それよりも皆に会えることが嬉しくて仕方ない。誰もいなければヒャッハーと叫びたいぐらいだ。


 農園のエリアは明日には出来るとして、一週間後に牧場を、一か月後には海を作るぞ!と皆が張り切っている。そんなに早く出来る者だろうか?


「まずは今日中にオフトの面々を集める事からだね。金田君!」

「よ、よろしくお願いします!」


 その声を聞いてから数時間と経たないうちに300名の人間が集まった。オフトの面々のアバターは他の人達は絶世の美男美女に対し、人間だった頃のままの普通の顔なので、皆懐かしい面々が揃った。揃ったのだが・・・。

 オフトは元々1500名いた。1200名が記憶を消されてしまったという事なのだろう。


「あの、300名では足らないと思うのですが・・・。」

「ああ、『とりあえず』300名というだけさ。農業だけなら十分だろ?大丈夫、僕達に任せて。」

「はあ、そういう事でしたら・・・。」


 金田は集まった人達に近づいて行った。皆、俺の事を覚えているだろうか?

 そんな金田の不安は一掃されることになる。


「よう!キンタ!」


 声をかけてきたのは、金田と同じくオフトで副総長をしていた河野慎太郎だ。


「お前、無事だったのか⁉」

「おう、あの時は抵抗する前に取り押さえられたからな。記憶を消されずに済んだんだ。でもよキンタ。キュービックアイランドエレクトロニクスが俺達を呼び出すってどういう事だ?お前、何か知っているか?」

「ああ、俺はこの会社の正社員になったんだ。今日の事だけどな。」

「本当か!すごいなキンタ!」


・・・ちなみに金田は『カネダ』であり『キンタ』ではない。オフトにいるときに皆が親しみを込めてキンタと呼んでいるのだ。


 皆が久しぶりの再会を喜んでいると、ジェフさんの声が聞こえた。


「え~、再会を喜んでいるところを申し訳ないが、今日、集まってもらったのは他でもない、皆には明日からオープンする農場で農作物を作って貰いたい。勿論、給料は一般の人と同じぐらい出すし、衣食住も用意するから安心してくれたまえ。そして、この提案をしてくれたのは金田悟君だ。今日から皆のリーダーもしてもらう事にするので、皆は今日中に現在働いているところをやめて来て欲しい。相手がごねた時はキュービックアイランドエレクトロニクスに文句を言ってくれと言って構わない。以上だ。」


 その声に皆の歓声が響き、その歓声はいつしかキンタ、キンタの声に変わって行った。



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